Skirl は今年 (2006年) 4月に活動を始めたニューヨークのブルックリン (Brooklyn, New York, NY, USA) の独立系レーベルだ。ブルックリンを拠点に jazz/improv シーンで活動する multi reed 奏者 Chris Speed によって設立 された。 第一弾として3タイトル、その後、もう1タイトルのリリースがある。どれも 良い作品だったので、一挙レビュー。 Anthony Burr / Oscar Noriega / Chris Speed _The Clarinets_ (Skirl, 001, 2006, CD) - 1)Constellating 2)Languor 3)Accord 4)Televiewer 5)Scrawl 6)Mockingbird 7)Negatives 8)Lovescar - Recorded 2005/6/21,22. - Anthony Burr (bass clarinet), Oscar Noriega (bass clarinet, clarinet), Chris Speed (clarinet). Anthony Burr はオーストラリア (Australia) 出身で、現代音楽 (contemporary classical) の文脈で活動を始めた clarinet 奏者だ。最近は、Jim O'Rourke や Skuli Svenssen と共演してきている。Skirl の第一弾は、Burr の制作による 現代音楽色濃い clarinet trio の作品だ。 といっても、trio のうち2人はむしろ jazz/improv 文脈のミュージシャンだ。 Chris Speed は1980年代末から John Zorn や Tim Berne と共演し、最近は Pachora や The Claudia Quintet で知られる。Oscar Noriega はアリゾナ (Arizona) 出身のメシキコ (Mexico) 系で、Satoko Fuji Orchestra 等に参加 している。 明確なメロディやリズムは無く、ピロピロと細かく反復するフレーズや、フゥーっ と延ばした音、パルス的な音出しなどで、音のテクスチャを立体的に織り上げて いくという感じだ。もしくは、clarinet と bass clarinet の柔らかい音が泡の ように沸き上がってくるという感じだ。柔和な響だけでなく、軽くアウト気味の 音色も、テクスチャの色合いに幅を加えている。また、そういう音のテクスチャが 充分に楽しめる音質で制作されている。抽象的な展開の割にはリラックスして 聴ける佳作だろう。 Ted Reichman _My Ears Are Bent_ (Skirl, 002, 2006, CD) - 1)Every Man To His Own Taste 2)Peace Father 3)I Know Nothing About It 4)Nun 5)It Is Almost Sacred 6)Come To Jesus 7)My Ears Are Bent - Produced by Anthony Burr. Recorded 2005/6-8. - Ted Reichman (piano, electronics, guitar, bass, percussion, pump organ), Mary Halvorson (electric guitar), John Hollenbeck (drums). Ted Reichman は1990年代からニューヨークのシーンで活動する accordion/piano 奏者で、最近は John Hollenbeck 率いる The Claudia Quintet のメンバーでもある。 このリーダー作は、Hollenbeck と、guitar 奏者 Mary Halvorson とのトリオだ。 Reichman は piano を中心とする演奏で、Hollenbeck の drums の刻むリズムも あって、特に反復を感じる展開など The Claudia Quintet 思わせる所も多い。 といっても、グルーヴ感があるという程ではなく、澄んだ piano の隙間の多い フレーズ等にしても、ambient に感じるものだ。 guitar が無ければ Nik Baersch や The Necks にも近い感じだが、そんな所に、 ピキピキカキカキ鳴ったり、普通にかき鳴らされたりする guitar が絡むことに よって、ミニマルというにはちょっと展開が広がっている。 Curtis Hasselbring _The New Mellow Edwards_ (Skirl, 003, 2006, CD) - 1)White Sauce Hot Sauce Boss? 2)The Infinite Infiniteness Of Infinity 3)ABCs Of The Future 4)Plubis Epilogue 5)Double Negative 6)(I'm The Annoying Guy Who Always Yells) Freebird 7)Insaniterrier (The Radio Dog) 8)Scatology 9)Ana 10)Far-away Planet 11)Mamacita - Recorded 2004/8. - Curtis Hasselbring (trombones, cracklebox, megamouth, Casios, odd sounds), Chris Speed (clarinet, tenor saxophone, Casio SK1), Trevor Dunn (acoustic bass, bow), John Hollenbeck (drums, percussion, melodica). Curtis Hasselbring は Frank London 率いる Klezmer Brass Allstars や Satoko Fuji Orchestra で知られるニューヨークを拠点に活動する trombone 奏者だ。 このリーダー作は Chris Speed との2管 4tet だ。かなり composed と思われる jazz/improv な作品だ。 この trombone と clarinet の2管という組合せは、1990年代 の Gerry Hemmingway 4tet の2管、Wolter Wierbos (trombone) と Michael Moore (clarinet) を 連想させられる。特に、"White Sause Hot Sauce Boss?" や "Insaniterrier (The Radio Dog)" のようなギクシャク気味の展開の曲など、ノリが良い展開から アウトな展開まで、飄飄として少々ユーモラスにも感じる2管の演奏が、とても 気に入っている。 しかし、Dunn - Hollenbeck のリズム隊は Mark Dresser - Gerry Hemmingway とは 資質が違う所も多い。特に、techno/breakbeats 以降ならではのセンスを感じる 反復感を強調してグルーヴ感を出すような所は、Hollenbeck ならではと思う。 特に、IDM的なリズムを持つ "ABCs Of The Future" が良い。 "The Infinite Infiniteness Of Infinity" や "Double Negative" のような rock 的というにはスンドコした前のめり気味のリズムの曲も面白いし、 Pixies, "Ana" のような alt rock の曲や、Fats Waller, "Mamacita" のような スタンダード曲をメロディを生かして jazzy に演奏した曲も、微妙な壊れ具合が 楽しい仕上りだ。 今までリリースされた Skirl の4タイトルの中で最も楽しめた作品だ。 TYFT _Meg Nem Sa_ (Skirl, 004, 2006, CD) - 1)Led Tyftelin 2)Shooshabuster 3)International Four 4)Ain't No Waltz 5)Tumble Bugs 6)Meg Nem Sa 7)Okkar 8)Ouch 9)Flutter 10)Hilsner 11)Bloq 12)Sezt Nidur 13)Amena - Recorded 2005/6/23-25. - Hilmar Jensson (guitars), Andrew D'Angelo (alto sax, bass clarinet, electronics), Jim Black (drums, electronics). Hilmar Jensson はアイスランド (Iceland) 出身の guitar 奏者だ。この TYFT や Jim Black 率いる AlasNoAxis など、ブルックリンのシーンのミュージシャンたち との活動で知られる。 trio TYFT としては _TYFT_ (Songlines, SGL1542-2, 2002, CD) 以来、4年ぶり のリリース。前作は音の間合いや electronics 使いを生かした、1990s的な jazz/improv の bass-less trio という感じだったが、新作は Jensson の guitar も bass less であることを忘れさせるような重く歪んだ音が中心となり、 AlasNoAxis と似た alt rock meets free jazz といった作品になっている。 特に、Jim Black の演奏は、AlasNoAxis を思わす rock 的な funk ビートや、 Tim Berne Bloodcount を思わす重めの free jazz 的なビートを行き来する ような感じで、それが、この作品の迫力を作り出しているようにも思う。 ちなみに、今までの Skirl の4タイトルのジャケットは、DVDトールケースサイズ のデジパックという変則的なものになっている。この4タイトルを聴いていると、 現在のブルックリンのシーンの様々な試みを聴くようで、とても面白い。今後の リリースも楽しみだ。 sources: Skirl Records, http://www.skirlrecords.com/ Chris Speed, http://www.chrisspeed.com/ Anthony Burr @ Garden Variety, http://www.gardenvariety.org/ Ted Reichman, http://www.tedreichman.com/ Mary Halvorson, http://www.maryhalvorson.com/ John Hollenbeck, http://www.johnhollenbeck.com/ Curtis Hasselbring, http://www.curha.com/ Trevor Dunn, http://trevordunn.net/ Hilmar Jensson, http://www.hilmarjensson.com/ Jim Black, http://www.jimblack.com/ Tony Collins, "New Exit From Brooklyn: Chris Speed's Skirl Records", _All About Jazz_, 2006/10/27, http://www.allaboutjazz.com/php/article.php?id=23449 2006/12/10 嶋田 丈裕, http://www.kt.rim.or.jp/~tfj/talk/index.html