これらが、僕に、1993年にポップの奈落を見せてくれた10枚。といっても10枚に 絞るのが難しかったので、10項目ということで。 第一位: Pere Ubu "Story Of My Life" (Imago, 72787-21024-2, '93, CD) Devid Thomasの取り乱したような歌声が、ポップな曲の向こうに奈落を見せて くれる。1曲目の"Wasted"「無駄に」で、「僕たちは無謀にも時間を投げ棄て てきたんだ」と、静かに歌う。が、「揺さぶれ!」の合図のもと、バックの演奏は、 そういった感傷を全て揺さぶり落そうと、歌に飛びかかる。これが、この作品の 始まりだ。Cleveland, OH出身のPere Ubuは、15年近くこうしてきたが、 これからさらに15年くらいこうしていきそうな気がする。制作はグラウンジで 名を挙げたLou Gordanoだが、彼らにとって、グラウンジなんてどこ吹く風の ポップロックだ。 第二位: Mekons "I Heart Mekons" (Quarterstick, QS19CD, '93, CD) Leeds, England出身のこのバンドもPere Ubuと同じくらいのキャリアを持つ。 トラッド風味パンクの先駆者である彼らの新作は、性と経済力と暴力の社会 機構としての恋愛に関する作品だ。そのシングルMekons "Millionaire" (Quarterstick, QS23CD, '93, CDS)では、「私は百万長者が好き。」と歌って みせるその歌声があまりに魅力的なので、抗い難いくらいだ。 第三位: The Fall "The Infotainment Scan" (Cog Sinister / Matador, OLE055-2, '93, CD) Pere Ubu、Mekonsに続いてManchester, Englandの偏屈野郎Mark E. Smithも 懲りずに15年近く与太を飛ばし続けている。最近は、Lee Perryに傾倒している ようで、"Why Are People So Graceful?"やThe Fall "Kimble" (Strange Fruit, SFPCD087, '93, CD) と、彼のカバーが続いている。しかし、Mark E. Smithに かかると、たとえLee Perryの曲だろうとThe Fall流ギクシャクパンク2ビートと なる。あまりにグシャグシャなので、逆にレゲエらしいくらいだ。 第四位: Bhundu Boys "Friends On The Road" (Cooking Vinyl, COOKCD053, '93, CD) 在UKのZimbabwe人4人組の、魅惑的なギターポップ。この踊るようにきらめく ギターのフレーズだけでも買いだ。Robin Millerは、かつてWeekend "La Variete" で制作してみせたような軽快なダンス曲を、ここで制作してみせている。 第五位: Heavens To Betsy "These Monsters Are Real" (Kill Rock Stars, no cat. no., '93, 7") Olympia, WA出身の女性3人組。USにおけるロックによるフェミニズム運動Riot Grrrlの中心的なバンドの1つである。まだアルバムも発表していないバンドで あるが、いくつかの編集盤に収録された彼女らの歌 (Various Artists "Julep - Another Yoyo Studio Compilation" (Yoyo Recordings, YOYOCD2, '93, CD) 所収お "She's The One" など)−演奏は素朴なもので、その歌声はいささか平板な ものがある−からは、凛とした意志の強さ、潔白さを感じる。それは、彼女たちの 歌を、彼女らの意図(ロックによるフェミニズム運動)以上のものにしていると思う。 第六位: Lois "Butterfly Kiss" (K, KLP15, '93, CD) Lois "Strumpet" (K, KLP21, '93, CD) 同じくOlympia, WA出身の女性シンガーLoisが、立て続けに2枚の作品を出した。 彼女の歌うフォーク風の歌は瓢々としており、周囲のグラウンジやGiot Grrrlも どこ吹く風といった感じだが、逆にユーモラスなくらいだ。 第七位: Fish And Roses "Dear John" (Feel Good All Over, FGAO#12, CD) "Dear John"(「女性からの離縁状」)という魅力的な題の作品のFish And Rosesは、 NYらしいフリージャズ風の背景に、Sue Garnerが題通りの辛辣な歌声をきかせて くれる。そのSue Garnerが参加している女性3人のコーラスグループThe Shamsは、 The Shams "Seducia" (Matador, OLE063-2, '93, CDS)で、その魅惑的な歌声で 聴き手を陥れようとしているかのようだ。 第八位: Tsunami "Deep End" (Simple Machine, SMR013, '93, CD) このバンドはWashington DC出身。Tsumaniのこの新作は"460"一曲だけのために だけでも買う価値がある。Heavens To Betsy "She's The One"と同じような凛とした 感じが良い。一方、同郷同世代のUnrestは、Unrest "Perfect Teeth" (Teanbeat, TB119, '93, CD)で、80年代のUKのポップへの偏執的な趣味の世界を炸裂させている。 第九位: Rachid Taha "Rachid Taha" (Barcley, 517968-2, '93, CD) Khaled "N'ssi N'ssi" (Barcley, 519898-2, '93, CD) 在FranceのAlgeria人のこの2人の音楽の向こうには、その音楽性に若干の違い (Rachid Tahaはライのリズムを捨て、Khaledは捨てていない。)があるにせよ、 統合の進む欧州で非ヨーロッパ系移民が生きることがどういうことか見える。 在UKのWest IndianであるLinton Kwesi Johnsonは、かつて「歴史を作ろう」と 語った。が、Rachid Tahaの歌は、その歴史から「学んでない」という証だ。 第十位 Porno For Pyros "Porno For Pyros" (Warner Bros., 9 45228-2, '93, CD) Porno For Pyros (「放火魔 のためのポルノ」)という、この素晴らしい題だけ でも買いだ。LAの先輩バンドであるXの"Los Angels"の90年代版といった感もある。 LAのロックも、まだまだ捨てたもんじゃない。 94/1/28 嶋田 "Trout Fishing in Japan" 丈裕