最近のUSの独立系レーベル界隈のロック系の女性歌手というと、「男性社会へ締め 出されて」というような題名と表紙に釣られて買ったが、好意的に聴いてもロックの 常套句しか使わないということで「締め出された」ということを表現してるんだろう としか思えなかったLiz Phair "Exile In Guyville" (Matador ORE 051-2)とか、 Georgia Habley (Yo La Tengo)やSue Garner (The Shams, Fish And Roses)が参加 したという売り文句だったが、実際その3人で揃った"Jack Of Hearts"くらいしか 聴き所が無かったTara Key "Bourbon Country" (Homestead 210-2)などが、忘れ られない。 Barbara ManningとJ. C. Hopkins率いるFlophouseの共作7"シングルBarbara Manning with Flophouse "B4 We Go Under" (Teanbeat TB102)は良かったが、Pell Mellの Greg Freeman制作のPell Mellばりのミニマルな背景やThe Batsの書いた曲がいいのか、 Barbara Manningがいいのか、よくわからないというありさまだ。 というわけで、もうこの筋の女性歌手の音盤は買うのをやめよう、と、よくよく思う のだが、音盤屋の店先に行くとつい手を出してしまう。懲りないというか。 The Spinanes "Manos" (Sub Pop, SP227B, '94, CD) - 1)Entire 2)Noel, Jonah And Me 3)Spitfire 4)I Love That Party With The Monkey Kitty 5)Uneasy 6)Epiphany 7)Manos 8)Dangle 9)Basement Galaxy 10)Grand Prize 11)Sunday 12)Shellburn - Produced by Brian Paulson - Rebecca Gates (vo,g), Scott Plouf (dr) Portland, OR出身のRebecca GatesとScott Ploufの2人組。Scottの叩き出すリズムを 背景にRebeccaがギターでリズムを切り刻みながら歌う、っていう具合だ。 USのTower Recordsの出しているPulse!誌 April, 1994号のReview (Rock/Pop)欄で、 Liz Phairの曲から取ったと思われるGirls Girls Girlsという書き出しで、Lois "Strumpet" (K KLP21)、Tiger Trap "Sour Grass" (K)、The Shams "Seducia" (Matador ORE063-2)と一緒に紹介されていた。Talulah Gosh〜Heavenlyの追随者以上の 意味を見出せないTiger Trapは別として、漂々としてユーモラスに思えるフォーク・ ポップを歌うLoisと今の音とは思えないがやたら意味深長な女性3人のコーラス・ グループThe Shamsは大好きだし、その2枚は去年にかなり愛聴したということもある。 それで気になっていたので、つい店先で手に取ってしまった。 はじめの2曲は、「やはりこんなものか」だった。が、3曲目"Spitfire"の出だしの ギクシャク叩き出されるビートにのってリズムギターがギャッギャギャと打楽器の ように切り込んでくる瞬間に、Au Pairsが思い出されるような緊張感を感じた。が、 それも、歌が始まってしまうとだれてしまう。4曲目"I Love That Party With Monkey Kitty"はインストゥルメンタルなのだが、Pell MellやLove Tractorを思わせる トライブ感とリズムのドコドコした感じは良い。7曲目の"Manos"や10曲目の"Grand Prize"のような、Gang Of FourのAndy Gillの10分の1くらい鋭いリズムギターの カッティングと、Captain Beafheartを10倍に薄めたくらいギクシャクしたビートは、 少なくとも、最近の典型的なUSの独立系レーベル界隈のロック系女性歌手たち(あえて 名前は出さない)の10倍はかっこいい。 というわけで、アルバムを通して楽しめたか、というとそんなことは全くないが、 全42分のうちの5分くらいは「これは!」と思えた瞬間があったという意味では、充分に 楽しめた。が、同時に、80年代後半のSub PopをはじめとするUSの地方のロック系独立 レーベルの悲劇(というほどでもないな)はUKのレゲエやNY界隈のロフト・ジャズの ようなパンクと共闘し影響を与えあったような音楽と出会えていないことであり、 それが、彼らの音楽表現が従来のロックの語法の中に閉じ篭っているような感を 与えているのだろう、とも改めて思った。 B.G.M.:"Love Song" by Au Pairs "To Hell With Poverty" by Gang Of Four "Dress" by P. J. Harvey 94/4/16 嶋田 "Trout Fishing in Japan" 丈裕