「そう、確かにこのアメリカという国で、ぼく達はマイノリティとして暮している。 アメリカにはさまざまなエスニック・グループがそんな中には日系人もいれば メキシカンもいる、ということだ。で、そうした人々は、ただマイノリティである という理由だけで、グレー・ゾーンとでも呼べそうな場所で生きていかなければ ならない。そして、いつもアメリカという国に同化をすることを強いられている。 ただ単に、生活をするということでさえ、そんな困難がつきまとっている。だから ぼく達は、音楽を演奏する時くらいは、そうしたいろいろなことを持ち込みたく ないんだ。例えば、政治的なことを音楽で訴えることもしたくないし、しない。 だって、もしかしたら、ただ単に音楽を演奏すること自体が、ぼく達マイノリティに とっては、既に政治的なことかも知れないんだし…。」 ロス・ロボス インタビュー, ミュージック・マガシン1991年6月号 Los Lobosは、1970年代末のpunkの嵐が吹き荒れるLAの音楽シーンから登場した Mexican Americanの5人組だ。そんな彼らの編集盤が少し前のことだがリリース されている。 Los Lobos "Just Another Band From East L.A. - A Collection" (Slash / Warner Bros., 9 45397-2, '93, 2CD) - Steve Berlin, Devid Hidalgo, Conrad Lozano, Louie Perez, Ceser Rosas CD2枚組、全41曲、約150分の大作だ。が、このバンドの姿を知るにはうってつけ だろう。過去7枚のアルバムからだけでなく(入手困難な1stを含む)、ライブ音源、 サウンドトラックや企画盤に提供した曲(大ヒットした"La Bamba"を含む)、 未発表曲からなる。写真が美しいブックレットまで付いている。 かれらの過去7枚のアルバムは、以下の通り。 "Just Another Band From East L.A." (independent, '78) "... And A Time To Dance (Slash / Rough Trade, ROUGH71 / Warner Bros., '83) "How Will Wolf Survive" (Slash / Warner Bros., '84) "By The Light Of The Moon" (Slash / Warner Bros., '87) "La Pistola Y El Corazon" (Slash / Warner Bros., '88) "The Neighborhood" (Slash / Warner Bros., '90) "Kiko" (Slash / Warner Bros., '92) 僕自身も、Los Lobosの熱心なファンだったわけでない。元The BlastersのSteve Berlinが参加し、Grammy Awardsに輝いた"Anselma"を含むSlash / Rough Tradeからの ミニアルバムである"... And A Time To Dance"と、Mexicoのsonばかり演奏した ミニアルバム"La Pistola Y El Corazon"しか持っていなかった。あまりrock色の 濃い他のアルバムは、正直言ってあまり好きではない。 この編集盤を聴いても、全ての曲が気に入ったわけではない。Spanishで歌われる Mexico風の曲が良い。Englishで歌われるrock / blues流儀の歌が悪い、というわけ ではないが。Spanishの響きがなんともいえない哀愁を感じるのかもしれない。 リズムが3拍子/6拍子系のものが多いというのも良い。それに、Spanishで歌うときの 彼らは、ずっと確信犯的な緊張感が溢れている。 という意味でも、Disc 1の18曲目"La Bamba"から21曲目"La Pistola Y El Corazon" あたりが、この編集盤の山場だろう。 あと、今まで入手困難だった1st "Just Another Band From East L.A."での曲も、 Mexicoのsonと思われる3拍子/6拍子系のリズムにSpanishの歌詞で、Steve Berlinを 加えrock色を濃くする以後の展開との対比が面白い。 USでMexican Americanとして歌を歌うことがどういうことなのか、想像しながら、 この150分を過ごそう。政治的というのは、腐敗した政治、失業、戦争、差別などを 歌うことではないのだ。 こんな編集盤を出したLos Lobosだが、そのLos LobosのDavid HidalgoとLouie Perezをはじめとする4人組がLatin Playboys名義でアルバムをリリースした。 編集盤をリリースしてしまったし、もしかしたらLos Lobosは解散してしまった のだろうか? Latin Playboys "Latin Playboys" (Slash / Warner Bros., 9 45543-2, '94, CD) - 1)Viva La Raza 2)Ten Believers 3)Chinese Surprize 4)Mira! 5)Manifold De Amour 6)New Zandu 7)Rudy's Party 8)If 9)Same Brown Earth 10)Lagoon 11)Gone 12)Crayon Sun 13)Pink Steps 14)Forever Night Shade Mary - Produced by Latin Playboys - David Hidalgo, Louie Perez, Mitchell Froom, Tchad Blake ルーツ指向の強いアコスティックなrockを演奏するLos Lobosから音を想像すると、 拍子抜けする作品。制作がMitchell FroomだったLos Lobos "Kiko"で見せ始めた打ち 込みの導入などの実験的な部分をぐっと拡大したのが、この作品なのかもしれない。 1曲目の"Vi La Raza"から、怪しい打ち込みのリズムループにひずんだギターの フレーズが切り込こみ、ストリングスがかぶさる。声は貼りつけられたよう。 2曲目の"Ten Believers"も打ち込みのギクシャクしたリズムだ。David Hidalgoの 歌声でほっとするが。このアルバムはこんな感じで続く。 打ち込みのリズム、くぐもった感じで録音された歌声や、歪んだフレーズと音色を 奏でるギター、その他のサンプリング/効果音が、静寂に張り付けられたように録音 されて、音空間を生成している。まるで音のコラージュといった具合だ。 この作品を聴いて、まず、やはりMitchell Froom制作でDavid Hidalgoも参加した Suzanne Vega "99.9F" (A&M, 314-540 005-2, '92, CD)を思い出した。アコス ティックなfolk歌手という印象が強かった彼女の背景音を斬新で実験的な打ち込み 中心に替えた、意欲的な作品だったと、僕は思っている。その作品の延長にこの "Latin Playboys"はあると思う。 また、この作品を聴いて思い出したのは、今年出色のBrazilからの作品である Arnaldo Antunes "Nome" (RCA Brazil M30.072) '94だ。そのコラージュを思わせる 実験的な作風が共通している、というだけでなく。"Nome"がBrazilの民謡っぽい ものを現代化することによって実験的な音楽の持つ閉塞感を突き抜けた作品にして いるのと同じような試みを、この作品に感じるからだ。"Latin Playboys"は"Nome" ほど明るい音ではなく、内省的な感もあるのだが。 実験的な意欲溢れる秀作だ。まだまだUSのrockも捨てたもんじゃないな。 94/5/6 嶋田 "Trout Fishing in Japan" 丈裕