レゲエの深みに少しでも足を踏みいれたことがある人なら、あのジャケット 無しの7"シングルにこそレゲエの面白さが詰まっている、ということを知って いるだろう。「沢山のソウルにレゲエ、特にスタジオ・ワンものが好き。」と "米国音楽"誌Vol.0で言っているBeat HappeningのCalvinも、きっとそういう レゲエの7"シングルの面白さを知っているに違いない。 Dub Narcotic Sound System "Fuck Shit Up" (K / Dub Narcotic Disco Plate, DBN101, '94, 7"EP) Calvinの運営するOlimpia, WAの独立レーベルKからリリースされたこの7"は、 Dub Narcotic Sound Systemという名前だけでなく、ジャケット無しでB面が Versionとなっていることろまで、レゲエの7"を思わせる。ジャケットは無い けれども、スリーブにレーベル名等が印刷されているのが、レゲエのものとの 違いかもしれない。 これは、Calvinの新しいプロジェクトだと聞くが、実態はよくわからない。 80年代初頭のUKの独立レーベル界隈のレゲエに強く影響を受けた音楽、例えば The Gist "Fool For A Valentine" (Rough Trade RT125) '83のような作品を 期待していたのだが。中身の音は残念ながらレゲエ流儀ではなかった。 ファンキーというにはおこがましいオルガンと、妙に重いけどグルーブのない ベースからなる、ぺらぺらでせわしない感じのするファンクだ。 ちなみに、2枚目のシングルが既に出ているけど、こんなファンクならば1回 聴けば充分という気分だ。というわけで、そちらは未聴。 さて、CalvinはDub Narcoticというスタジオを新しく作ったらしく、この シングルシリーズ(といっても2枚しか出ていないが)の他に、そこでアルバムも 制作している。これらのシングルと違いDub Narcotic Disco Plate名義では なくK名義だが、同じデザイン/タイポグラフィのジャケットになっており、 レーベルとして独立させないものの、Dub Narcoticとして統一したイメージを 持たせようとしているようだ。Dub Narcoticのアルバムとして、まずは、 Beck "One Foot In The Grave" (K, KLP28, '94, CD) がリリースされた。"Loser"が全米でヒットしたBeckのKからの作品だ。 フォーク/ブルース流儀の16曲が収録されている。悪くはないが、ちょっと 単調に過ぎる作品だと思う。 Dub Narcoticからの作品といえば、むしろ、ほぼ同時にリリースされた、 The Halo Benders "God Don't Make No Junk" (K, KLP29, '94, CD) - 1)Snowfall 2)Don't Touch My Bikini 3)Will Work For Food 4)Freedom Ride 5)Sit On It 6)Canned Oxygen 7)Scarin 8)On A Tip 9)I Can't Believe It's True 10)Big Rock Candy Mountain - Recorded at Dub Narcotic. Mixed with Steve Fisk - Calvin (vo,g), Dug (vo,b,g), Dan (dr), Ralf (dr), Fisk (key), Wayne (dr,b) が面白い。Beat HappeningのCalvin、Pell MellのSteve Fiskなどからなる バンドだ。 曲の展開や楽器の構成は、Beat Happeningと同じようなものだ。しかし、 もっとメリハリがある。"Sit It On"のような明らかなレゲエのリズムを 用いた曲など、Beat Happeningではありえないだろう。リズム隊がしっかり したリズムを叩き出し、それにDugの高音とCalvinの低音という2つの矛盾 した歌声の掛け合いが緊張感を加える。比べて、Beat Happeningでは、 CalvinとHeatherの2つの声があるが、この2つの声が同時に現われることは ほとんどない。 Pavement "Crooked Rain, Crooked Rain" (Matador OLE079-2) '94を聴いた ときに、僕はリズムに対する物足りなさを感じた。Beat Happeningにも同じ ことを感じていたし、ここ最近のUSの独立系レーベルのロックバンドの 演奏の多くに感じることだ。The Halo Bendersは、ここを克服している ように、僕は思う。 The Folk Implosionと並んで、最近のUSのロック系の独立系レーベル界隈の 作品としては、出色の出来ではないだろうか。お勧め。 95/9/16 嶋田 "Trout Fishing in Japan" 丈裕