Greil Marcus "Ranters & Crowd Pleasers - Punk In Pop Music, 1977 - 92" (Anchor Books, ISBN0-385-41721-7, '94, Book) - 20cm, 438pp Greil Marcus "Mistery Train - Image Of America In Rock'n'Roll Music" ('75) で知られるUSの代表的なロック評論家Grail Marcusが、77年以降"Rolling Stone"、 "New West"、"Calfornia"、"Artforum"、"Villege Voice"、"Interview"などの 雑誌に書いた、主に"post-punk pop avant-garde"音楽に関する評論集が出た。 94年6月号で連載を打ち切られるまで約10年間「リアル・ライフ・ロック」として 「ミュージック・マガジン」に三井徹訳で連載されてきた評論と多くが重なって いる。邦訳の方も、 グリール マーカス 「ロックの「新しい波」- パンクからネオ・ダダまで」 三井徹 訳 (晶文社, ISBN4-7949-5091-6, '84, Book) として、78年から84年にわたる評論まとめた単行本で読むことができる。 この単行本や「ミュージック・マガジン」の連載を読んできた人ならば、読んだ ことがあるものも多いだろう。しかし、原文で読むというのも、また味わい深い ものだ。訳ではまだるこしく感じられた言葉が直に響いてくるような。 邦訳で紹介されることのなかった評論の中にも、非常に興味深いものもある。 Public Image Ltd. "Metal Box"に関するもの、80年にUKに渡ってRough Tradeの 界隈を取材したもの、Go-Go's "Beauty And The Beat"に関するもの、などは、 80年前後の雰囲気をよく伝えており、これが邦訳され紹介されていないのが 惜しまれるくらいだ。 92年までとなっているが、最近の動きに関するものとしてはGiot Grrrlに関する ものだけで、「ミュージック・マガジン」誌で読んでいるものはほとんど収録 されていなかった。少々残念だ。 この評論で述べられているのは、その演奏や歌詞から受ける印象ではない。 "If the best of present-day pop music is about finding your own voice and making the act of listening to it worth someone else's time, ..." - "The Au Pairs In Their Time" とあるように、この本は、「最上のポップは自分の声を他人がわざわざ聴くに 値するものとして仕上げようとしているもの」と仮定した上で、当然として 受け入れている日常生活をそうではない人が聴くに値するものとして提示する ために、ポップがどのような実験/苦闘をしているのか、ということに関する 記録である。 "The Clash's promise has been that a sense of dread, far from something go get free of, is a purchase on reality that must be sought out, constantly tasted and renewed." - "Hi, this is America ..." つまり、Greil Marcusが"Real Life Rock"として主張するのは、当然のことと して吟味なしに受け入れてしまっている日常生活の中から「探索し絶えず吟味し 再生させるべき現実を把握する」手だてとしてのロックなのである。 レコードを買う参考になる評論ではないだろう。しかし、自分の音楽の聴き方に 対して自覚的でありたい、と思う人は、一読の価値が充分にある評論だ。 ペーパーバックで約400頁。なかなか読み応えのある一冊。英文ということで 敬遠せずに、是非読んで欲しい。ちなみに、この本、File Under: Performing Art / Sociologyとのこと。といっても、音楽関係の書籍の所にあると思うが、 参考までに。 94/9/26 嶋田 "Trout Fishing in Japan" 丈裕