はい、こちらTFJです。 Arnaldo Antumes "Nome" (RCA Brasil, M30.072, '94, CD)という素晴らしい作品が 出て、俄然目が離せなくなっているBrasilのシーンからの新譜2枚の紹介です。 Marisa Monte "Verde Anil Amarelo Cor De Rosa E Carvao" (EMI Brasil, 830080-2, '94, CD) - 1)Maria De Verdade 2)Na Estrada 3)Ao Meu Redor 4)Segue O Seco 5)Pale Blue Eyes 6)Danca DaSolidao 7)De Mais Ninguem 8)Alta Noite 9)O Ceu 10)Bem Leve 11)Balanca Pema 12)Enquanto Isso 13)Esta Melodia - Produzido por Arto Lindsay. Co-Produzido por Marisa Monte - Marisa Monte, Nando Reis, Arthur Maia, Carlinho Brown, Bernie Worrell, Nana Vasconcelos, Gilbert Gil, Ned Rothenberg, Philip Glass, Laurie Anderson, etc 3年振りのMarisa Monteの新作は、前作"Mais" (EMI Brasil, 796081-2, '91, CD)と 同様にNew Yorkのfreeシーンでの活動で知られるArto Lindsay (ex- DNA, Ambitious Lovers)だ。前作は、新しいMPB (Musica Popular Brasileira)を 作り出そうという感じの、意欲的な作品だった。 Philip GlassやLaurie Andersonといった"現代音楽"寄りの人(おそらくArtoの 人脈だろう)が参加するなど、前作同様の意欲的な作品が期待されたが、いざ 聴いてみると、よりBrasilの伝統的な音に回帰した作品だった。Gil Gilbertや OlodunのCarolinho Brownの参加もあってか、ファンクというよりBahiaの アシェー(axe)にも繋がるグルーブを感じる曲も多いと思う。 曲は、やはりTitasのNando RaisとArnaldo Antunesとの共作曲が中心だが。 一曲英語の歌を歌っている。The Velvet Underground "Pale Blue Eyes"だ。 不倫の歌"Pale Blue Eyes"も艶めかしいこの作品なのだが、僕はこの作品が 好きではない。それは、前作で聴かれたような異化作用のある音−例えばArto LindsayやMarc Ribotのギターなどだが−が聴かれないからかもしれない。 例えば、Arnoldo Antunes "Nome"で、Joao Donatoの美しいピアノの背景に Arnaldoとデュエットしていた"Alta Noite"と、ここでの"Alta Noite"を聴き 比べてみればよい。ここには、Arnaldoの神経質な声も、曲と無関係に入る 効果音も無い。むしろ、弦楽三重奏が曲を盛り上げる、といった具合だ。 しかし、僕がこの作品にのめりこめなかったのは、Marisa Monteの声が丸く なったからだと思う。同じくArto Lindsay制作のGal Costa "O Sorriso Do Gato De Alice" (RCA, M101.48, '93, CD)と並べて聴いても遜色がない、と思う。 僕は、前作"Mais"まで聴かれるような、若干平板にさえきこえるロック流儀の 歌い方が好きだった。軍事政権の追及の不安を恋の不安な気持ちに例えた Caetano Veloso "De Noite Na Cama"のカバー曲は、Ambitious Lovers風の ファンク的な背景だけでなく、彼女の平板だが辛辣な歌い方が、政治の比喩と しての恋愛から恋愛の比喩としての政治へと歌い替えるかのような曲だった、 と、僕は思っている。しかし、この新作の中には、そういった緊張感がない。 もちろん、部屋で背景の音楽として流しておくのには悪くない。前作"Mais"や Arnaldo Antunes "Nome"があまりに良いので、期待しすぎていたとも思う。 しかし、"Nome"であれだけの作品が作れた、と思うと残念でならない。 これが、買ってから紹介するまで2カ月、聴きながら悶々としていた理由だ。 Chico Science & Nacao Zumbi "Da Lama Ao Caos" (Chaos, 850.224/2-464476, '94, CD) - 1)Monologo Ao Pe Do Cuvido 2)Danditismo Por Uma Questao De Classe 3)Rios, Pontes & Overdrive 4)A Cidade 5)A Praieira 6)Samba Makossa 7)Da Lama Ao Caos 8)Maracatu De Tiro Certeiro 9)Salustiano Song 10)Antene-se 11)Risoflora 12)Lixo Do Mangue 13)Computadores Fazem Arte 14)Coco Dub (Afrociberdelia) - Produzido por Liminha さて、こちらは、Bahiaから500km程北のRecife, Pernambuco出身の8人組。 "ラティーナ"誌の1994年7月号あたりで紹介されていて気になっていたのだが、 Columbia (Sony)傘下のChaosから作品が出た。Arto Lindsay制作という噂も あったが、制作はLiminha。 "ラティーナ"誌に出ていたバンドの写真でアコーディオンを抱えた人が見えた ので、フォホ(forro)のような曲にラップを重ねているのかと思ったが。 ドコドコいうパーカッションとロック流儀のリードギター−僕はこれが 苦手なのだが−が印象的なファンク風背景にラップが重なるという具合 だった。語感が似ているせいか、Les Negresses VertesやMano Negraで盛り 上がったFranceのアルタナティフ(alternativ)ととても似ていると思う。 確かに、取り合わせの妙のような楽しさはある。が、それから先が続きそうも ないように思う。個人的な好みとしては、Arnaldo Antines "Nome"のような ダダ的ともいえる過激さの方が好きだ。 さて、制作のLiminhaはCaetano E Gil "Tropicalia 2" (WEA)も制作している、 ロック/クラブ色濃いMPBを制作する人だ。Bahiaはアシェー(axe)の女王 Daniela MercuryのSony Latinから最近出た新譜もLiminha制作だし、いろ いろ手を出しているよう。面白いな。 と、なんとも煮えきらない聴き心地の2枚なのだった。 B.G.M.: Arnaldo Antunes featuring Marisa Monte "Arta Noite" 94/10/27 嶋田 "Trout Fishing in Japan" 丈裕