Kurt Schwitters "Ursonate" (Wergo, WER6304-2, '93, CD) - 1)Einleitung Und Erster Teil: Rondo 2)Zweiter Teil: Largo 3)Dreiter Teil: Scherzo - Trio - Scherzo 4)Vierter Teil: Presto - Abloesung - Kadenz - Schluss - Original Performance by Kurt Schwitters 1887年生まれのHanoverのDadaistであるKurt Schwittersの、彼自身による 詩の朗読を40分余り収録したCDが出ている。録音時期は明記されていないが、 "Ursonate"のパフォーマンスが完成した'32年頃のものと思われる。 シェラック管にアナログ録音されたものらしい[1]。 Kurt Schwittersは、Merz絵画 (Merzbild) といわれる一連のコラージュ、 さらにそれを建築 (というか巨大オブジェ) にまでに発展させたHanoverの ('43年にナチスドイツにより破壊)、そして亡命後のOslo近郊の(51年に 火災により焼失) Merz建築 (Merzbau) で知られている[2]。その他にMerz詩と 言われる一連の音声詩を作って朗読パフォーマンスをしていた。ちなみに、 彼の機関紙の名前も"Merz"だった。このMerzという言葉は、彼の最初のMerz 作品のコラージュされた断片 − Kommerzbank (商業銀行) の一部から取ら れたものである[3]。 僕が初めてKurt Schwittersの作品を接したのは、'83年秋に西武美術館(現 セゾン美術館)と高輪美術館 (現セゾン現代美術館)で行なわれた回顧展で あった。そこには、多くのMerz絵画が展示されていただけではなく、Merz 建築の写真が展示され、詩"Anna Blume"の対訳が壁に貼られていた。そんな 会場にB.G.M.流れていたのが、この彼の詩"Ursonate" (通常「原ソナタ」と 訳される。) の彼自身による朗読だった。美術に興味を持ち初めた頃だった こともあり、この美術展には強烈な印象を受けた。その後、たてつづけに Francis Picabia、Man Rayと、Dadaistの回顧展に行き、Dadaこそ自分が 求めていたもの(のひとつ)だ、と確信した。Dadaに傾倒するきっかけになった Kurt Schwittersの、あのときに聞いた詩の朗読が、こうしてCDで聴かれる ようになった。 '10〜'20年代の芸術運動Dadaにおいては、造形芸術比べ言語芸術の比重が 低かったが、それでも詩の朗読パフォーマンスは主要な活動の一つだった[4]。 ZurichのCabaret VoltaireでHugo Ballが行った音声詩 (Lautgedichte) が あり、Berlin DadaのRaoul Hausmannの視覚音声詩 (Opto-phonetische Gedichte)がある。これらの詩の特徴は音としての言葉の詩であるとも言える。 Kurt Schitters "Ursonate"は、Raoul Hausmannの視覚音声詩"Rfmsbwe"の パロディであると言われ、また古典的ソナタ形式のパロディでもある。 曲目から見られる形式からしても、古典的な音楽の構成を利用しており、 実際の朗読を耳にしても、リズムやメロディを強く感じる。といっても、 古典的ソナタではなく、Schoenbergの音楽みたいなものではあるが。 攻撃的に聞こえる他のDadaistの詩の朗読に比べて遥かに音楽的で、微笑 ましく聞こえる。 このCDは、ジャケットにはMerz絵画が使われており、ライナーノーツには "Ursonate"のスコアと、Merz建築のスケッチが添えられている。Schwittersの 造形作品を観たことがない人には、参考になるだろう。 (ポスト)パンクの原点とおもいえる、音としての言葉への取り組みの貴重な 記録だ。是非探し出して聴いて欲しい。 なと、Dadaistの当時のパフォーマンスを記録したものとしては、 Various Artists "Futurism & Dada Reviewed" (Sub Rosa, SUBCD012-19, CD) がある。A面がFuturismのパフォーマンスで具体音楽などが、B面がDadaの パフォーマンスが収録されている。Kurt Schwittersの"Ursonate"の一部が、 "Die Sonate In Urlauten"として収録されている。今年に入ってCD再発された ので、これも是非探し出して聴いて欲しい。 参考文献: [1] Greil Marcus: Real Life Rock, Artforum, 1995 Jan. [2] Kurt Schitters展パンフレット, 東京マルボローギャラリー, 1987 Sep. [3] ハンス・リヒター: ダダ - 芸術と反芸術 (新装版), 美術出版社, 1987. [4] 土肥 美夫: ダダの音響詩について, ユリイカ臨時増刊「ダダイズム」, Vol.11, No.4, 1979. 95/12/25 嶋田 "Trout Fishing in Japan" 丈裕