The Flying Lizards "The Secret Dub Life Of The Flying Lizards" (Piano, PIANO501, '95, CD) - 1)Preface 2)Shake 3)Lime And Salt 4)Mute 5)Skin And Stone 6)Crab Claw 7)Outside 8)Inside 9)Ash And Diamond 10)Flicker 11)Postscript - Basic track recorded by Jah Lloyd. Restructured and Produced by David Cunningham. 80年前後に、UKで活動したThe Flying LizardsというDavid Cunningham率いる ポストパンクポッププロジェクトがあった。段ボール箱を使ったドラムセットや 非常に下手な女性歌手を使って、非常に安価に録音された"Summertime Blues"で 一躍話題になったのだが、"The Flying Lizards" (Virgin, '79), "Fourth Wall" (Virgin, '81), "Top Ten" (Statik, '85)と3枚のアルバムを発表した後、 全く活動を聞かなくなってしまった。David Cunninghamの名前も、Michael Nyman の作品などの制作くらいでしか名前を見なくなっていた。 The Flying Lizardsは、初期の話題作"Summertime Blues"や"Money"のような カバー曲や'85年の"Top Ten"からして、過去の有名なポップ曲をめちゃくちゃな 編曲で解体していくアイデア勝負のパンク以降ならではのプロジェクトとして 語られることが多い。しかし、その一方で早い時期からレゲエ、特にダブの手法を 積極的にとりいれていたバンドでもあり、ジャマイカ出身のレゲエDJのPrince Far I "Jamaican Heroes" (Trojan, '80)のspecial thanksの中にはThe Flying Lizardsの 名前が見られるほどだ。そんなThe Flying Lizardsのあまり語られることの無かった レゲエ/ダブ的手法に光をあてたCDがリリースされた。 Cunningham自身によるライナーノーツに、この音源の由来が書かれているのだが、 これが興味深い。それによると、このCDの元となるトラックはJah Lloydによって Virgin / Front Lineレーベルのためにジャマイカで録音されたものである。 結局それはリリースされず、Front LineレーベルのJumbo Vanrennenはリミックス しないかとそのモノラルのマスターテープをCunninghamに渡したらしい。この CDに収録されている音楽は、最初の"Preface"と最後の"Postscript"を除いて、 '78年にこのリミックスできないモノラル音源を元に、エディティング、ルーピング、 フィルタリング、サブトラクションといった処理を施して作ったものである。 Cunninghamは、これを通してこういった技術を再発明し、それが今に至るまでの 様々な音楽様式に現れる音楽電子的語彙を広げることになった、と書いている。 そういう意味では、このCDに収録された音楽は彼の習作とも言えるかもしれない。 今となっては、自宅の部屋でパソコンなどを使いながら音楽を作っている人の 機材の方が、この作品で使われた機材より良いものだと思うが、それでも、この 作品の中には参考になりそうな発想が詰まっていると思う。ちなみに、"Preface"と "Postscript"は、'78年と同様の手法を'95年の技術を使って作ったものという。 聴き比べても、音楽的な趣向に違いを感じるが、'78年のものも全く遜色無い。 しかし、そんな技術的手法的興味を抜きにしても、この作品は楽しめるものだ。 演奏者の記録が残っておらず、演奏を聴いても誰のものかわからないのだけれども、 ジャマイカで録音された演奏は、引き締まったノリの良い。David Cunninghamに よるダブ処理も、重い低音が気持ちよい。'95年になってUKのBlood and Fireや Pressure Soundによって再発された同時代'70s後半のジャマイカ産のダブの名作と 比べても聴き劣りしないと思う。リズムはあくまでレゲエではあるが、パンク 以降ならではの研ぎ澄まされた緊張感も良い。後のOn-U、Ariwa、Jah Shakaや それに続くUK産のダブに負けないくらい斬新だ。 このような未発表作品があったという資料的興味を差し引いても、パンク以降の UKのダブの試みの、隠れた名作だろう。ぜひ聴いて欲しい。 David CunninghamのレーベルPianoは、ここに来てDavid Cunninghamの未発表 音源をCD化しはじめている。'83年録音のMichael Giles, Jamie Muir, David Cunningham "Ghost Dance" (Piano, PIANO502, '95, CD)も面白い作品だった。 今後、どのような音源が出てくるのか、とても楽しみだ。 96/3/16 嶋田 "Trout Fishing in Japan" 丈裕