Los Lobos "Colossal Head" (Warner Bros., 9362-46172-2, '96, CD) - 1)Revolution 2)Mas Y Mas 3)Maricela 4)Everybody Loves A Train 5)Can't Stop The Rain 6)Life Is Good 7)Little Japan 8)Manny's Bones 9)Colossal Head 10)This Bird's Gonna Fly 11)Buddy Ebsen Loves The Night Time - Los Lobos (Ceser Rosas, Louis Perez, Conrad Lozano, David Hitalgo, Steve Berlin), Victor Bisetti, Oete Thomas, Efrain Toro, Yuka Honda - Produced by Mitchell Froom, Tchad Blake & Los Lobos Los Lobos "Kiko" (Slash, '92)以来4年ぶりとなるLos Angels出身のチカーノ・ ロック・バンドLos Lobosの新作は、前作以来の付き合いだが、今や話題のMitchell FroomとTchad Blakeが制作に加わったもの。由緒あるLAのパンク以降のレーベル Slashを離れたようで、Warner Bros.からのリリースである。 4年のブランクの間にDavid Hitalgo, Louis Perez, Mitchell Froom, Tchad Blake によるLatin Playboys "Latin Playboys" (Slash, '94)という比較的実験的な 作品を発表している他、映画音楽を作ったり、子供向けの作品Los Lobos "Papa's Dream" (Music For Little People / Warner Bros., '95)を出したりと、変則的な 活動が続いている。この新作も映画音楽の制作の合間を縫って、作られたものと いう。 といっても、"Kiko"やLatin Playboysの延長線上にある作品だ。'93年に出た 集大成的編集盤Los Lobos "Just Another Band From East L.A. - A Collection" (Slash, '93)のライナーノーツに、"Kiko"で第三段階に入った、というような ことが書かれているのだが、やはり"Kiko"は彼らにとって大きな変化だったと 思う。 前作"Kiko"でもメキシコのソンのような8分の6拍子のリズムを持つ"Saint Behind The Glass"のような曲が印象に残っているのだが、この"Colossal Head"でも、 ランチェラ風の"Maricela"で特にこの音処理の異化作用がぐっと生きている。 その一方、作品を通して聴くと、後半まで緊張感が持たないというのも事実だ。 僕が初めてMitchell Froom & Tchad Blakeの音作りが面白い、と思ったのは、 リリースから1年程遅れて聴いたSuzanne Vega "99.9F" (A&M, '92)でだった。 大胆な金属音の打ち込みを使ったこの作品に清楚な女性フォーク歌手と見られ がちなSuzanne Vegaの違う面を見たし、打ち込みの割にあまりクリアでない ざらっとした音感が生々しくて好きだった。そして来日公演を観に行かなかった ことを後悔した。'93年に入って聴いたこの"99.9F"やLos Lobos "Kiko"、翌年 '94年に出たLatin Playboys名義の実験的作品やSoul Coughing "Roby Vroom" (Slash, '94)に、僕は新しい音を見出した気がした。 しかし、それから2年だ。"Kiko"や"99.9F"の92年から数えれば4年経った。95年 にはMitchell Froom & Tchad Blake制作の作品がかなりの数リリースされたが、 僕はもう食指が伸びなかった。確かに、今や彼らの制作する音は流行の音だ。 しかし、それはまさに、94年にインタビューでMitchell Froom自ら言っている 「一般的にオルタナティヴだ、ラディカルだと言われているいまの音楽にかぎって、 ぜんぜんそうじゃなくて、退屈なものが多い。ごくたまにそうじゃないものも 生まれる。ニルヴァーナの登場がそうだった。ちょっとそれまでとちがう素晴ら しいレコードだった。ところがそれが当たると、そのコピーが氾濫する」 ではないか。今やもうMitchell Froom & Tchad Blakeの制作というだけでは、 耳を傾けるに値しない。Los Lobosの新作には、まだ"Maricela"のような曲がある。 それでは、Cibo Mattoの新作には何があるのだろう? Cibo Matto "Viva La Woman" (Warner Bros., 9362-45989-2, '96, CD) - Miho Hatori (vo), Yuka Honda (key,g), Dougie Bowne (ds), Dave Douglas (tp), Joshua Roseman (trombone), Jay Rodriguez (sax), Rick Lee (horns), Bernie Warrell (organ), etc - Produced by Mitchell Froom, Tchad Blake with Cibo Matto NY在住の日本人女性2人組による先端的な音楽ということで、話題になることの多い 作品である。バンド名もあってか食事や料理を題材にした歌が多く、その軽さから しても台所感覚の音楽〜キッチンミュージックといえるかもしれない。 Suzanne Vegaにおけるフォーク、Los Lobosにおけるメキシコ音楽、Soul Coughing におけるブルースのような、音楽的なルーツを感じさせるところがあまり無い せいか、逆に音作りの面白さが際立たないように感じる。遠くに鳴るDave Douglasの ラッパの音など、部分部分は面白い音があるのだが、通して聴くとその音を持て 余しているようにも感じる。 しかし、この音楽が、特に歌詞の中の台所的なイメージが現実受容的に感じるのは、 それだけではないように思う。語尾を上げるように歌う・しゃべる上滑るような 羽鳥美穂の歌唱のせいかもしれない。Suzanne Vegaの低く落ち着いた歌声やCesar Rosas (Los Lobos)のような憂い(ブルース)を感じる歌声のような、聴き手に掴み かかる/押しのけるような感じが、ここにない。 そう、音作りなど良い線をいっているだけに、全体として決め手になるような一癖が たりないように感じるのだ。 嶋田 "Trout Fishing in Japan" 丈裕