Peter Broetzmann バーバー富士, 上尾 96/4/15 19:30- 以前から一度は行きたいと思っていた上尾の床屋で、Peter Broetzmannのソロを 聴いてきた。帰宅ラッシュの高崎線にゆられて行く上尾は所要時間以上に遠く 感じられたが、前日の電話で教えてもらった道順で迷わずたどり着くことができた。 今までは一階の店内でやっていたそうだが、今回から三階に新築したオーディオ ルームで開催された。店主で主催者の松本さんの話では、近隣に住宅が増えるに つれて、騒音の苦情が出るようになってしまったため、という。主催者の苦労が うかがわれる。オーディオルームは十畳ほどで、その中に十数名の聴衆。最前列に 座ったら、演奏中のBroetzmannに手が届きそうな近さだ。 定刻より少し遅れてPeter Broetzmannが現れ、松本さんの紹介の後、簡単な挨拶を して演奏を始めた。最後のtenor saxのソロの前に「これで最後だ」というような ことを言った以外はほとんど話をせず、逸脱行為もせずに、演奏に専念していた。 床屋空間での逸脱行為的演奏を期待していた分に関しては、期待外れだったが、 息遣いを感じるかというほどの近さは、迫力満点。激しい演奏に耳がギシギシいう のが感じられるくらい。レコードでは聴くことができない音が聴けただけでも、 満足してしまった。 演奏は、tarogato, bass clarinet, tenor sax。休憩を挟んでtenor sax, bass clarinet, tarogato, tenor sax。休憩を含んで1時間半ほど。ちゃんと曲名が一致 しないのだが、最近FMPから出たソロ"Nothing To Say"で聴かれるような演奏を 近くで爆音で聴くとこうなるのだろうか。最初と最後のtenor saxの演奏は、 少々泣きの入った旋律が耳について、"Die Like A Dog"で演奏しているような Albert Aylerのfragmentかな、という気もした。 休憩の間も特に部屋から出ることなく楽器を触っていたので、拙い英語で声をかけ、 よくレコードの彼のクレジットでみかけるtarogatoについて質問した。最初に演奏 した、clarinetにしては太いと思っていた楽器がそれだった。「ハンガリーの古い 楽器で、もっと東の方、トルコあたりから伝わったらしい。シングルリードで、 ここらはクラリネットとだいたい同じなんだ。」といった風に丁寧に説明してくれた。 演奏や風体は強面するBroetzmannだが、話してみるといいおじさんであった。 演奏が終わった後、"Nothing To Say"のジャケットにサインをお願いしたら、快く 応じてくれた。握手した握力はとても強かったが。 というわけで、Broetzmannも「もう日本で出まわっているのか」と言っていた新作 Peter Broetzmann "Nothing To Say - Dedicated To Oscar Wilde - A Suite Of Breathless Motion" (FMP, CD73, '96, CD) - Recorded on 96/11/15,16 - Peter Broetzmann (bass sax,e-flat cl,bass cl,tarogato,alto sax,tenor sax) が出ている。組曲、と言ってくらいで、ぶっとんだフリージャズ的演奏というより、 少々現代音楽っぽい辛気臭さがあるか。 嶋田 "Trout Fishing in Japan" 丈裕