McCarthy "That's All Very Well But..." (Cherry Red, CDMRED125, '96, CD) - 1)Red Sleeping Beauty 2)Should The Bible Be Banned 3)An M.P. Speaks 4)The Fall 5)The Funeral 6)We Are All Bourgeois Now 7)Antinature 8)Kill Kill Kill Kill 9)Frans Hals 10)The Myth Of The North - South Divide 11)Something Wrong Somewhere 12)This Nelson Rockfellor 13)Charles Windsor 14)From The Damned 15)Child Soon In Chains 16)The Enemy At Home (For The Fat Lady) 17)The Well Of Loneliness 18)You're Alive 19)Keep An Open Mind Or Else 20)I'm Not A Patriot But... 21)Comrade Era 22)Should The Bible Be Banned - Gary Baker (ds), Tim Gane (g), Malcolm Eden (vo,g), John Williamson (b) 80年代後半に活動したイングランド出身のギターポップバンドMcCarthyの編集盤が やっと出た。このバンドは、今ではStereolabのTim Ganeが以前に在籍したバンド としての方が通りが良いかもしれない。しかし、「NME C86世代」という言葉も ある名編集盤Various Artists "NME C86" (Rough Trade, ROUGH100, '86, LP)に 収録されたバンドの一つでもある。この世代のUKのロック・ポップバンドの中では The Wedding Present、Close Lobsters、Talulah Goshと並んで最も注目に値する バンドの一つだと思っていたし、それは今も変わらない。 このCDには"The Best Of McCarthy"という副題が付いているが、これはベスト盤 ではなく、Midnight Musicレーベルに移籍する前の86〜88年頃のPink〜September レーベル時代のシングルとその当時のBBC Radio Sessions 3回分を編集したもの。 基本的な音・曲作りが1stアルバムMcCarthy "I Am A Wallet" (September, '87)の 頃のものと同じものが収録されている。実は、この編集盤はMidnight Musicレーベル 移籍しての2ndアルバム"The Enraged Will Inherit The Earth" (Midnight Music, '89)の後の90年頃にリリースが予告されていた。しかし、今までリリースされな かった。(もしされていたとしても、多くは出まわらず、輸入盤店でみつけることは できなかった。) 当時、是非聴いてみたいと輸入盤店に行く度に探した編集盤が 今やっと聴けるようになったのは、好きだったバンドだけに嬉しい。 しかし、例えばStereolabをきっかけにしてこれからMcCarthyを聴いてみようという 人には、僕はこれを薦めたいとは思わない。このCDに収録されている歌よりもっと 魅力的な歌が彼らにはあると、僕は思っている。最も致命的なことには、彼らの一番 優れている点だったと思っている歌詞が、このCDには"We Are All Bourgeois Now" 以外付いていない。オリジナルアルバムでは歌詞が付いていたのにだ。Dadaisticな タイポグラフィやイラストを使った−実際、1stの表紙の絵はGeorge Groszのものだ。 −オリジナルのアルバムに比べ、ジャケットのデザインも良くない。 McCarthyの魅力はその歌詞にあったと、僕は思う。"The New Left Review #1"と いう歌もあるように、左翼的と言われていたが。そもそもバンドの名前も、戦後の アメリカで左翼刈りを行いMcCarthismという言葉すらできたEugene McCarthyを 思い出させるものだ。しかし、その歌詞はスローガン風ではなく、社会が当然と して受け入れている二重基準が矛盾するような極端な状況を風刺的に描くという 感じだ。そんな歌詞を、比較的素直な旋律と演奏のギターポップの音を背景に、 はっきりとした癖のない歌い方で歌ってみせる−一聴するとそんなことを歌って いるとは思えない程だ。−のが、良かった。その歌い方と音が、歌詞の中の矛盾を 聴き手につきつける−それはそれでいいと思うが−のではなく、聴き手の心の中に 忍び込ませた上で暴くような所があった。もちろん、ユーモアのセンスは下らない 皮肉とは紙一重だし、Billy Braggのように恋愛を取り上げた歌がもっとあっても いいとは思ったが。 McCarthyはアルバムを3作残している。いずれもMidnight MusicからCD化されて、 今でもまだ輸入盤店の店先でみかけることができる。それらは以下の通り。 McCarthy "I Am A Wallet" (September / Midnight Music, CHIME00.45CD, '87/'89, CD) McCarthy "The Enraged Will Inherit The Earth" (Midnight Music, CHIME00.47, '89, CD) McCarthy "Banking, Violence And The Inner Life Today" (Midnight Music, CHIME01.05, '90, CD) この中からまず聴くとしたら、2ndの"The Enraged Will Inherit The Earth"を 僕は薦めたい。リズム隊の鋭さとフロントの素直さの組合せが最も良いからだ。 もちろん、"Governing Takes Brains"や"Two Criminal Points Of View"のような 良い歌もある。もちろん、たたみかけるような勢いのある1st "I Am A Wallet"も 格好良いのだが。 Stereolabが好きな人なら、キーボードを大幅に使うようになり女性歌手Laetitia Sadierが正式に参加した3rd "Banking, Violence And The Inner Life Today"を 聴くのもいいだろう。特に"Take The Shortest Way With The Men Of Violence"が 良い。おそらく、このバンド最高の歌だ。"Let's let them know (Down with the police) / We have seen through their lies (Down with the RUC) / We've had enough of them (Down with the army) / ruining decent people's lives"と、 ポップなギターのフレーズにのって、Sadierが醒めた低い声で歌い、背景でEdenが 叫ぶとき、ポップソングの奈落の一つを見ることができる。 おそらくこの編集盤のリリースもStereolabの人気に伴ってのことなのだと思う。 しかし、こういうことがきっかけでもよいから、McCarthyの矛盾に満ちた歌に耳を 向けて欲しいと、僕は思う。 B.G.M.: McCarthy "We Are All Bourgeois Now" McCarthy "Two Criminal Points Of View" McCarthy "Take The Shortest Way With The Men Of Violence" 嶋田 "Trout Fishing in Japan" 丈裕