Mekons & Kathy Acker "Pussy, King Of The Pirates" (Quarter Stick, QS36CD, '96, CD) - 1)My Name Is O 2)Ange's Song As She Crawled Through London 3)I Want To Tell You About Myself 4)The Song Of The Dogs 5)We're Just Outside London... 6)Ostracism's Song To Pussycat 7)Antigone You See Her 8)Antigone Speaks About Herself 9)Now Let Me Tell You... 10)My Song At Night 11)Since Ange And Me Are Innocent 12)Into The Strange 13)Captured By Pirates 14)A Prayer For All Sailors 15)O Leeds出身で現在はChicagoを拠点にして活動しているポストパンク・ロックの バンドMekonsの新作は、US出身で今はLondonを拠点にしている小説家Kathy Acker との共同作品だ。例によって変名などを使いまくり誰が何をしているのかよく わからないクレジットなのだが。Jon Langford、Sally Timms、Tom Greenhalgh、 Sarah CorinaをはじめとするQuarter Stickレーベルになってからのラインナップに 大きな変化はなさそうだ。 Mekonsがデビュー曲"Never Been In A Riot"を発表したのは78年。パンクが煽った 白人暴動に対する距離を置いた「暴動に参加したことはない。」という歌詞が、 まさにポストパンク的だった。 一方、Kathy Ackerは84年に出世作"Blood And Guts In High School" ('84) (翻訳は「血みどろ臓物ハイスクール」(渡辺佐智江=訳, 白水社, '92))を発表 している。時期的な意味でKathy Ackerはまさにポストパンク世代の小説家だし、 実際にそのように日本でも翻訳・紹介されてきたと思う。William S. Burroughsと 比較されることも多いように思うが。同世代のMekonsとKathy Ackerがどういう 経緯でMekonsと出会ったのかわからないが、"Empire Of The Senseless" (Mekons "Mekons' Rock'n'Roll" (Sin / Blast First, '89) 所収)とほぼ前後して同名の 小説"Empire Of The Senseless" (Grove Press, '88) (翻訳は「アホダラ帝国」 (山形浩生+久霧亜子=訳, ペヨトル工房, '93))をKathy Ackerも書いており、 その頃には既に付き合いがあったよう。即席のプロジェクトでもないらしい。 Kathy Acker "Pussy, King Of The Piretes" (Grove Press, ISBN0-8021-1578-0, '96) という小説がこのアルバムの基になっており、Ackerが作詞をし、ナレーションを している。ちなみに彼女は1,3,5,7,9,11,13の7曲でナレーションをしている。 お互いのスケジュールの都合で、まずKathy Acker抜きでLeedsで演奏・歌を録音し、 ChicagoでKathy Ackerのナレーションを録音する、という形で制作されたという。 表紙の絵からも想像できるがグロテスクな作品。全40分弱と比較的短い作品なのだが、 非常に支離滅裂な仕上がりになっている。Mekonsの演奏は、いきなりジャングル風の 打ち込みがコラージュされるかと思えば、テクノ紛いの曲もあれば、80年代後半に よく演奏していたカントリー風もあれば、初期の自分の演奏の引用まである。 取り乱した男性の歌声、醒めた女性の歌声、といった歌唱はいままで通りだが。 それらが奇麗に組み合わされているのではなく、雑然と継ぎ合わされている。 さらに、歌の間に比較的おちついた背景のKathy Ackerのナレーションが入って、 音の流れをずたずたにしている。過剰な引用と様式の折衷からなる、グロテスクで 矛盾に満ちた世界だ。非常に好き嫌いが分かれそうな作品だが、僕は好きだ。 Kathy Ackerの小説を読んでいないうえ、ナレーションを聞き取りかねているので、 そちらの方はなんとも評価し難いのだが、歌詞に関していえば案外と今までの Mekonsのものと違わない印象を受けた。ただ、海賊物ということで、"Empire Of The Senseless"を受けているのかな、という気もする。Oという登場人物のことも あるし。そういえば、そもそもAckerの"Empire Of The Senseless"も過剰な引用と 折衷からなるグロテスクな作品だった。そんなAckerの小説の世界を音楽化すると、 このような作品になるのかもしれない。 ちなみに、小説"Pussy, King Of The Pirates"は翻訳が出ることになっているよう なので、楽しみだ。Mekonsも彼らの書いた小説"Living In Sin"を、今年ついに 出版するらしい。"Mekons' Rock'n'Roll"のライナーに既に一部抜粋掲載されて いたものだが。バンドが書いた小説、というのもめずらしいが、この翻訳は出るの だろうか。 副読本: K. アッカー: 血みどろ臓物ハイスクール, 白水社 K. アッカー: アホダラ帝国, ペヨトル工房 嶋田 "Trout Fishing in Japan" 丈裕