drum'n'bassの魅力は、踊るためのリズムキープから解放された打ち込みか作り出す、 緩急入り交じった時間感覚だと思う。打ち込まれるビートのほとんどが、ピアノや ドラムスのフィルインのフレーズに相当するものからなり、それが独特のポリリズムを 生み出している。 しかし、Cecil Taylorのpianoや、長らく共演してきたAndrew Cyrillのdrum、さらに その後に続くDavid S. Ware (ts)やMatthew Shipp (p)界隈のjazzの演奏に、僕が drum'n'bassに期待したいリズムキープから解放されたポリリズムを改めて見出した 一方、当のdrum'n'bassやjungleと分類されたなかからその自由さを堪能させてくれる 作品を今まであまり見出せなかった。 Steve Williamson (sax)が参加しヒットもしたGoldie "Timeless" (Metalheads, 828 614-2, '95, 2CD)や4 HeroがリミックスしたCourtney Pine "I've Known Rivers" (Talkin' Loud, TLCD2, '96, CDS)といった、ジャズ・ミュージシャンがらみの 作品ですら、単調だった。 しかし、やっと、自由な時間感覚を堪能できる作品に出会うことができた。 Squarepusher "Feed Me Wierd Things" (Rephlex, CAT037CD, '96, CD) - 1)Squarepusher Theme 2)Tundra 3)The Swifty 4)Dimotane Co 5)Smedleys Melody 6)Windscale 2 7)North Circular 8)Goodnight Jade 9)Theme From Ernest Borgnine 10)U.F.O.'s Over Leytonstone 11)Kodack 12)Future Gibson - Everything by Thomas Jenkinson Thomas Jenkinson (a.k.a. Superpusher)の、1stアルバムは、ギターのフレーズも 爽やかな"Squarepusher Theme"から始まるが、妙に生音っぽい打ち込みパターンが 単調さをうまく排していて気持ち良い。"The Swifty"のような、ほとんどフリー ジャズのような曲まである。比較的単調なリズムからなる曲でも、その単調さを 感じさせない展開の良さがある。ギターのフレーズが妙に甘いのが惜しいが。 打ち込みパターンや曲の展開の面白さは、jungle〜drum'n'bassであるかという域を 越えているだろう。本人も英Wire誌でJungle isn't something I have anything to do with.とTom Jenkinson自身も言っている。 ギターやドラムの音のせいか、全体としては爽やかな感じに仕上がっているので、 暑い夏の日々のB.G.M.にもいいだろう。ダンスフロアで大音響の"Squarepusher Theme" で踊ってみたい気もするが。この夏一番のお勧めの一枚だ。 ちなみに、アナログは12" 2枚組で出ている。"Squarepusher Theme"の12"もRephlex から出ているはずなのだが、これはみかけていない。 この作品を出しているレーベルRephlexはRichard D. James (a.k.a Aphex Twin)の レーベル。(Aphex Twinといえば"... I Care Because You Do" (Warp, WARP30CD, '95, CD)もそれなりに面白いと思ったけれど、このSquarepusherほど吹っ切れて いなかった。) この縁か、Squarepusherの最新シングルがWarpから出ている。 Squarepusher "Port Rhombus EP" (Warp, WAP74CD, '96, CDS) - 1)Port Rhombus 2)Problem Child 3)Significant Others "Feed Me Wierd Things"ほど奔放な感じはしないが、充分なほどに面白い作品だ。 だがやたらに高速のビートとエキゾチックな弦の音の対比はいいがアンビエント的な 表題曲で損している。特にパーカッションの音が面白い"Significant Others"が良い。 もちろん、これも"Feed Me Wierd Things"と併せて聴いて欲しい。お勧め。 もちろん、アナログは12"EPで出ている。 96/8/4 嶋田 "Trout Fishing in Japan" 丈裕