はい、こちらTFJです。 ECM (Edition of Contemporary Music) "Sleeves Of Desire - A Cover Story" (Lars Mueller Publishers, ISBN3-906700-85-2, '96) - 360pp, 24cm 待望の、Munichの独立系レーベルECM (Edition of Contemporary Music)の カバー・アート集が、ついに出た。 いくつかの傾向別に、代表的なジャケット・デザインのものが12cm四方大 (CDの ジャケットと同じ大きさ) でカラーで掲載されている。素材となった写真や習作と 思われるものもいくつか載っている。また、巻末にはcat.no.で1597番までの リリース済み(含む廃盤)の作品のジャケットが5cm四方大でカラーで網羅されている。 主にとりあげられているのは、ECMのジャケット・デザインを方向づけたBurkhart & Barbara Wojirschの作品と、78年からデザインを手掛けているDieter Rehmの 作品であるが。 一見してECMとわかるような、ミニマルな写真とタイポグラフィーからなるデザイン の作品集ということで、ECMの作品を聴いたことがない人にもたのしめる、とても きれいな本になっている。もちろん、巻末のカタログはECMの作品の良いドキュメ ンタリーもなっており、ECMの作品をよく聴く人にもとても興味深いものになって いると思う。お勧めしたい。 去年に出たECMのカタログは、ちゃんとした装丁でミュージシャンや曲目の記述は しっかりしたものだったが、ジャケットは6cm四方の白黒の上、廃盤のものは載って いなかったのが物足りなかった。それだけに、それを特にデザインに焦点を当てて 補うようなこの本は嬉しい。 続いて、ちょっと古い(5年前)が、1年近く探して半年前にやっと入手したこの本も 一緒に紹介しよう。 Niklaus Troxler "Jazzplakate / Jazz Poster / Affiches de Jazz" (Oreos / Collection Jazz, ISBN3-923657-32-3, '91) - 240pp, 20cm 去年'95年の6月にギンザ・グラフィック・ギャラリー (ggg) でポスターの個展が あったNiklaus Troxlerのジャズポスターを集めた本。Niklaus TroxlerはSwitzer- landのデザイナーで、Willisauのジャズ・フェスティヴァルの主催者でもある。 ポスター展同様、このWillisau Jazz FestivalのポスターやWillisauのMohren という所で開催されているJazz In Willisauという一連のライブのポスターを 中心に集めている。ただ、ポスター展では'90年代に入ってからの比較的新しい 作品が多かったのに対して、この本では逆に'70年代の古い作品が収められており、 ポスター展で見られた気に入った作品が収録されていないのが残念である一方、 ポスター展で見られなかった作品も興味深いものがある。 hat ARTのジャケットデザインを一部手掛けているので知っている人もいると思うが、 彼のデザインは様式は様々だが鮮やかな色使いでリズミカルだ。Cecil Taylor "Garden" (hat ART, 1993/94)、Vienna Art Orchestra "The Minimalism Of Erik Satie" (hat ART, 2005)、Anthony Braxton "Willisau (Quartet) 1991"といった 作品が、彼のデザインの作品で印象に残っているものだ。 この本によれば、様々なポスター展覧会の授賞者の常連であり、一連のポスターは MoMA (ニューヨーク近代美術館) のコレクションにもなっている。ポスター展の ときの話では、Swatchのデザインも手掛けたことがあり、テキスタイルデザインも 手掛けているという。ある意味では、世界的にも評価が定まったデザイナーだ。 独語、英語、仏語での序文に続いて、見開きの左頁にTroxler本人による解説が 三ヶ国語で、右頁にポスターがカラーで印刷されている。解説には、どのような コンサートのポスターであるかというデータはなく、むしろこのポスターに関する エピソードが言葉少な目に書かれているだけである。このエピソードも微笑ましい。 ただ、「グローバル・ヴィレッジにおいては、ニューヨークもスイスの田舎町でも、 人が求め感じているものは一緒だ。」のような話は、ある面で胡散臭く感じるが (むしろ、伝統的に地方分権的なスイスならではなのでは、と思うときもある。)、 インデペンデントな草の根ネットワークの良い面なのだろうな、と思うこともある。 図版が小さいので、誰がコンサートに出演しているのか読み取るのは一苦労だが、 こんなミュージシャンが出ている、というのを読み取るのは、やはり興味深い。 その時その時の流行を見る楽しさもある。 もちろん、そんな音楽について知らなくても、明るい色鮮やかなリズミカルな デザインが楽しめる、とても奇麗な本だ。お勧めしたい。 このNiklaus Troxlerの本の存在は去年の6月の個展の際に画廊で教わったのだが、 画廊側で出版社やISBNを知らなかったこともあり、輸入美術書を扱っている都内の ほとんどの書店で、注文を断られ続けていました。どの出版社から出ているのか すら調べてもらえませんでした。しかし、今年の1月、青山のワタリアム美術館の ミュージアムショップでもあるオン・サンディーズで、この本を知っている担当者に 出会い、注文を受け付けてもらったのでした。その後2ヶ月、一時は「出版社から 全く返事がない。」と言われて物が届くか危ぶまれたこの本がついに届いたのでした。 この本を受け取りに行ったとき、その担当者からECMのカバー集が出る予定だという 話を聞いて、そちらも楽しみにしていたのでした。 どちらの本もほとんど輸入美術書店などでみかけない−もちろん、渋谷Tower Books などには、まず置いていない−本なので、購入するとなるとISBNを頼りに洋書店に 注文することになるかもしれません。が、オン・サンディーズなら、担当者がこう いうの (って、どういうのだ?) が好きなようなので、在庫があるかもしれません。 disk unionではECMの本は既に扱っていますが、Niklaus Troxlerの本も扱うよう 担当者に紹介してプッシュしたらとても乗り気でした。きっと、disk unionでも 入手できるようになると思います。 96/9/14 嶋田 "Trout Fishing in Japan" 丈裕