Everything But The Girl "Single" (ebtg / Virgin, VSCDT1600, '96, CDS) - 1)Single (Edit) 2)Single (Photek Remix) 3)Corcovado 4)Wrong (Todd Terry Freeze Mix) - Produced by Ben Watt. Additional Production and Remix by Photek (2), by Todd Terry (4) Everything But The Girl "Walking Wounded" (ebtg / Virgin, CDV2803, '96, CD) からのシングルカット第三弾は"Single"。アルバムでは、歌い込むようなアレンジの 緩い曲で、あまり良い曲だと思わなかった。が、Photekの比較的凝ったdrum'n'bass リミックスがこの曲を生まれ返らせている。この処理が、「あなたは独り身になり たいの? / それとも私に帰ってきて欲しいの? / 私は独り身になりたいのかしら? / それとも戻ろうとしているのかしら? 」という、ある意味でメロドラマチックな 離婚寸前の状況を扱った歌詞を救っている。アルバム"Walking Wounded"の一曲目 "Before Today"のようなしみじみとしたdrum'n'bassだ。 しかし"Before Today"はシングルカットされないな。とても良い曲なのに。ここは、 いっそSquarepusherかPlugあたりと対決して欲しい。Tracey Thornはdrum'n'bassの 過激なbreakbeatsに対抗できる数少ない−唯一と言いたいくらいだ−個性的な 歌声の持ち主だと思うから。 さて、このシングルのもう一つの聴き物は、AIDS慈善シリーズ"Red Hot"のひとつ Various Artists "Red Hot + Rio" (Antilles, '96)に収録された"Corcovado"。 Antonio Carlos Jobimのbossa novaの名曲"Corcovado"をdrum'n'bassで演奏した この曲は、「drum'n'bassは21世紀のbossa novaだ」という彼らの主張を、まさに 具現したものだ。そして、そういう彼らの過激さを保証する出来になっている。 Squarepusher "Feed Me Weird Things" (Rephlex, CAT037CD, '96, CD)を聴いても 思うが、drum'n'bassとbossa nova的な音の相性はある意味で良いように思う。 しかし、Everything But The Girlが主張する「drum'n'bassは21世紀のbossa nova」 とは、僕は思わない。なぜなら、bossa nova革命はsambaの市民革命だからだ。 芸能だったsambaを芸術にした−近代化した (modernized) したのがbossa novaだと 僕は考えている。be-bop革命が芸能としてのswing jazzを芸術としてのmodern jazz に変えたように。だから、bossa novaとmodern jazzは相性が良いのだ。そして、 jazzにおけるある意味でのmodernの終焉である十月革命(free jazz革命)に相当 するのが Tropicalismoだったと思う。そして、drum'n'bassも同様それ以降の 構造を持つ音だと、僕は思う。むしろ、drum'n'bassはTropicalismo並みの過激さ を持ちうると思っている。そして、それをdrum'n'bassに僕は期待したい。 96/10/7 嶋田 "Trout Fishing in Japan" 丈裕