Ensemble Modern / HK Gruber "Fighting The Wave - Music Of George Antheil" (RCA Victor Red Seal, 09026 68066 2, '96, CD) - Recorded 94/6/27-30,12/20-23,95/4/29-30 - Martyn Hill (tenor), Jagdish Mistry (violin), Hermann Kretzschmar (piano), Ensemble Modern, HK Gruber (conductor) アメリカの作曲家George Antheil (1900-59)は、そのParisで過ごした1920sに DadaistやSurrealistと交流を持ち、フランスの画家Fernand Legerの「最良の ダダイズム的映画」(Hans Richter "Dada - Kunst Und Antikunst") "Ballet Mecanique"の音楽を手掛けたことで知られている。 このCDに収録されているのは、'19年から'33年のアメリカに戻る前の作品である。 1920前半のParis Dada〜Surrealism界隈の音楽家といえば、Igor Stranvinskiが Russiaから来ておりErik SatieやLes Sixがいたわけで、このGeorge Antheilのも それらと同じく新古典主義 (neo-classicism) 的な作品だと思う。 "Ballet Mecanique"は、サイレンや電気ブザー、プロペラも使った具体音楽 (Music Concrete) − それ自体は当時Futuristたちが騒音音楽として既にやって いたが − ということで、興味を持っていたが、今まで映画も音楽にも接した ことがなかった。映画はまだない。このCDのライナーノーツによれば、1台の 電気コンソールから16台のpianola (自動ピアノ) を制御して演奏すべく作曲 されたらしいが、当時の技術では実現できなかったという。'27年のアメリカの 初演では10人のピアニストを使って演奏したという。 このEnsemble ModernによるGeorge Antheilの作品集での"Ballet Mecanique"は、 4台のピアノの他、パーカッション (特にマリンバ) 、電気ブザーを用い、 なかなかけたたましい出来になっている。 "A Jazz Symphony"や"Jazz Sonata"など、'23-25にして (George Garshwin "Rapsody In Blue"が'25年だ。) jazzに影響を受けた曲もあり、新し物好き だったのだろうな、と微笑ましい。"Concerto For Chambre Orchestra" ('32) ともなると、Stranvinskiの影響も強力。 Antheilはアメリカに戻った後、Hollywoodに住み映画音楽を書いていたという。 Erik SatieもDadaisticな映画 "Entracte" ('24, senario by Francis Picabia, dir. by Rene Clair) − これは一見の価値はあるだろう − の音楽と担当して いたし、Les Sixの一人George Auricは、後に"Roman Holiday"をはじめ様々な 映画音楽を作っている。この頃のneo-classicismの音楽は、映画音楽のルーツの 一つといえるだろう。そしてこの"Ballet Mecanique"に映画音楽の原点を聴くの もいいかもしれない。 このGeorge Antheilの作品集を演奏しているEnsemble Modernは、80年にFrankfurt で設立された現代音楽専門のensemble。Frank Zappaの現代音楽作品Frank Zappa "The Yellow Shark" (Ryko, RCD15602) で演奏しているということで知っている 人も多いだろう。Heiner Goebbels "La Jalousie / Red Run / Herakles / Befreiung" (ECM, ECM1483)をはじめECM New Seriesにも何枚か作品がある。 このAntheil集を出したRCAからも、John Cage集やConlon Nancarrow集を出して いる。コンサートのレパートリーには、Ornette Coleman、Anthony Braxtonから Fred Frithまであるという。かなり節操に欠ける。 が、ポピュラー音楽から現代音楽に聴き進むのなら、このEnsemble Modernの 演奏あたりから入るのがいいのかもしれない。USのKronos Quartetや、UKの The Michael Nyman Band / Balanescu Quartetなどど同様に。しかし、日本にも こういう楽団があれば、少しは現代音楽の敷居が低くなるだろうに..。 96/10/22 嶋田 "Trout Fishing in Japan" 丈裕