abstruct hip-hopの伝説的な編集盤 Various Artists "Headz" (Mo'Wax, MWCD026, '94, 2CDs)の続編が出た。 Various Artists "Headz II - Part A" (Mo'Wax, MW061CD, '96, 2CDs) - CD1-1)A NightS Interlude (Nightmare On Wax) 2)Cantona Style (The Prunes) 3)The Real Thing (90bpm version) (Peshay) 4)Modulor (Modulor Mix produced by Solid) (Air) 5)Searchin' (The Dust Brothers) 6)Flow (RPM) 7)My Bloody Valentine (DJ Wally) 8)Garage Piano (U.N.K.L.E.) 9)Kemuri ('94 Part II) (DJ Krush) 10)Do You Understand? (Sam Sever And The R.O.T.L.A.) 11)What Is Soul? (Instrumental) (Stereo MC's) 12)Covert Action (Urban Tribe) 13)Cabin Fever (Lo-Fi Sensibilities) 14)Code (Midnight Funk Association) CD2-1)Concentric Circle (DJ Food) 2)27 Years Of Solitude (Cool Breeze (Special Projects) 3)Discotron (Stasis) 4)Mango Maracatu (Scott Free And Cybil Ant) 5)The Source Of Uncertainty (Tortoise) 6)Karmacoma (U.N.K.L.E. Situation Mix - Instrumental) (Massive Attack) 7)Bodhisattva Vow (Instrumental) (Beastie Boys) 8)Simean Groove (Folk Implosion) 9)Martian Economics (Olde Scottish) 10)Eastward (Urban Tribe) 11)Spacewalk (Lunar Funk) 12)New Element (Forme) 13)Pressure II (Solo) 14)Organized Crime (Innervisions) Various Artists "Headz II - Part B" (Mo'Wax, MW062CD, '96, 2CDs) - CD1-1)Spectral Arc (Luminis) 2)Sharp AZ (Luke Vibert) 3)World Lesson Part II (Money Mark) 4)Swiss Air (Twig Bud) 5)Time Has Come (Portishead Plays U.N.K.L.E. Mix) (U.N.K.L.E.) 6)It's Coming (Grantby) 7)Wirecutter (Donut Productions) 8)The Groomsman (The Dust Brothers) 9)Crash (Skull) 10)Flute Loop (Instrumental) (Beastie Boys) 11)Maze (DJ Krush) 12)Sketch (Attica Blues) 13)Ultimatum Ultra Mix (Jungle Beats / Jungle Bass) (Jungle Brothers) 14)Science Fu Beats (Danny Breaks) 15)Future Tense (The Force) CD2-1)The Beast (Palmskin Production) 2)The Real Thing (Peshay) 3)In The Mood (Dillinja) 4)Tribetoon (Roni Size & DJ Krust) 5)The Silent Witness (Source Direct) 6)The Counterpoint (As One) 7)Bug In The Bassbin (Innerzone Orchestra) 8)Object Orient (Black Dog Productions) 9)Trilogy (Special Forces) 10)`Quiddity' (Max 404) 11)Shadow's Legitimate Mix (1991) (Zimbabwe Legit) 2編に分けられて売られているけれども、実質は併せて1つの作品。CD 4枚 (アナログ ではLP 8枚) で76m16s+77m06s+72m33s+79m27s=305m22sと、約5時間の大作だ。 Mo'Waxならではの紙製のかなり凝ったパッケージは、CDの出し入れに難がるのだが。 "Headz"のビニールのケースに入った紙のCDパッケージも、難があったが。(画一的な デザインで出ている再発のパッケージはどうなのだろう?) "A Soundtrack Of Experimental Hip Hop Jams"という副題が銘打たれていた"Headz" がabstruct hip hopとその周辺を集めた編集盤だったのに比べ、"Breaking Down Barriers And Messing Up Heads"というこの"Headz II"は、−曲目リストを見れば わかるだろうが−、Mo'Wax勢はもちろんtrip hop (Massive AttackやOlde Scottish (Howie B))やよりfreestyleなbreakbeats (DJ Food) ものだけでなく、より広く drum'n'bass (DillinjaやSource Direct)やtechno (As OneやBlack Dog Productions) さらにはout rock (Folk ImprosionやTortoise)やUS hip hop (Beastie BoysやJungle Brothers)まで視野に入れた編集になっている。Alex Reece (A2-11のLunar Funk)、 Carl Craig (B2-7のInnerzone Orchestra)、Rupert `Photek' Parkes (B2-9のSpecial Forces)なども別名で参加している。副題通りあまりジャンルにこだわらずUKから見た 90年代半ばの脱rock的で半ばアンダーグラウンドなポップの様式を網羅した編集盤 だと思う。これから、聴き進もうという人には良い入門盤になるだろう。参加 ミュージシャンからして、大きく外れることはないだろう。悪いはずがない。 _ _ _ この"Headz II"だけでなく、この手の「レーベルやジャンルを越えた」編集盤が、 この2年ほどの間に目につくようになってきているように思う。例えば、Virginの AMBTシリーズの中の編集盤やSSR / Crammed DiscsのFreezoneシリーズなども、 "Headz"と似たような感触を持っていると思う。 この手の編集盤は大抵、インストゥルメンタルもしくは歌が目立たない曲からなり、 耳触りの良く統一感のある編集がなされており−AMBTにしてもFreezoneにしても、 ambientの編集盤として始まっているのだが−B.G.M.として使うのにちょうどいい。 とっかえひっかえ聴かなくてもいろいろな音が聴くことができるのも嬉しい。喫茶店 などで下手な有線の番組をかけるくらいなら、こういうCDをかけていた方が遥かに いいと思う。軽いビート感も環境音楽として気持ちいい。 イデオロギーを越えるということも一つのイデオロギーである。「ジャンルを越えた」 といっても、これらのCDは既にひとつのジャンルになっているともいえる。実際に この手の編集盤に現れるミュージシャンは、"Headz II"、AMBTシリーズ、Freezone シリーズで重なっている。それは、新たなポップ音楽のジャンルの成立の現場なの かもしれない。しかし、それをまとめあげる枠組みがambientの延長にあるものであり、 実際に耳障りが良すぎるのが気になるのだ。 ポストパンク期にもスタイルやレーベルを越えて独立系レーベルの音楽を収録した 編集盤が出たけれども、もっとひっかかるような感触だったと思う。"Headz II"に 収録されたミュージシャンにしても、個々に見ればけっこう刺激的な音を出している。 それを均してしまうような感がある所に、これらの編集盤の問題があると思う。 _ _ _ これを書くためにこれらの編集盤をいろいろ聴いていて、84〜85年頃にFM東京で深夜 に放送されていたFM Transmission - Barrigadeという番組を思い出した。欧米の ポストパンク独立系レーベルからリリースされた「実験的」な音楽をノンストップで つないで放送していた。今はめったにFM放送を聴かなくなってしまったが、今でも こういう番組はあるのだろうか。こういう編集は、固定的なCDというメディアよりも、 FM番組のような一時的なメディアの方が似合うように思う。 96/11/17 嶋田 "Trout Fishing in Japan" 丈裕