80年頃から活動しているBelgiumの独立系レーベルCrammed Discsのtechno / house / ambient / ... 専門レーベルSSRの、年刊の編集盤シリーズにFreezoneというものが がある。94年にリリースされた、第一弾 Various Artists "Freezone 1 - The Phenomenology Of Ambient" (SSR, SSR129, '94, 2CDs) - Compiled by Mark Hollander, Sequenced & Edited by Solar Quest は「アンビエントの現象学」という副題も示すよう、アンビエント音楽的な音を 集めたものだった。具体的に言えば、Crammed Discsの付随音楽専門レーベルMade To Measureからの音源半分、ambient technoの音源が半分、という感じだった。 この第一弾は、Crammed Discsを設立したMarc Hollander (ex- Aksak Maboul) が SSRのtechnoユニットSolar Questの助けを得て編集、音源は既発のもので、80年代 に遡るものも含まれていた。 この編集盤にDavid Byrne "Machu Pichu"という曲が収録されているのも象徴的 なのだが、このSSRの本体のレーベルCrammed Discsは、Brian Eno + David Byrne "My Life In The Bush Of Ghosts" (EG, EGLP48, '81, LP)的とでも言うべき音を 多く出してきたレーベルだと思う。初期('83)の名盤の再発Zazou / Bikaye / CY1 "Noir Et Blanc" (Crammed Discs, CRAM2534CD, '90, CD)のライナーに"compared it to Byrne and Eno's "Bush Of Ghosts""を言及されているのも偶然でないだろう。 このライナーの言葉を借りれば"hot & cold, tribal & futurist, ethnic & electronic"だ。非西洋音楽的要素と、ダンス音楽としてのファンク、そして アンビエント音楽。80年代の看板バンドMinimal Compactの中近東風味と鋭角 ファンクにしても、Made To Measureでのちょっと異国趣味的付随音楽にしても、 そういう色だった。 90年代に入って、SSRや、jungle / drum'n'bassのレーベルSelectorといった レーベルを傘下に持つようになり、Crammed Discsは、ダンス音楽的要素がethnic / funkからtechnoやdrum'n'bassにシフトしたし、Tuxedomoonのような室内楽的な 環境音楽にambient technoの要素が加わった。そして、それを特にambientの面から 象徴するのが、このFreezoneシリーズだと思う。 Various Artists "Freezone 2 - Variations On A Chill" (SSR, SSR129, '94, 2CDs) - Compiled by DJ Morpheus (a.k.a. Samy Birnbach), Sequenced by DJ Morpheus, Mark Hollander, Catherine Piault and Kinnor Eve (The Voice) 1年後にリリースされた第二弾は、編集が元Minimal Compactの歌手のSamy Birnbach ことDJ Morpheusに変わったこともあるのか、Hector Zazou / Harold Buddの曲が 一曲残るが、Made To Measure色がほぼ一掃されたものになっている。音源はみな 同時代的なものだけだが、この編集盤のために録音されたものがあるかは、不明。 貼られたシールによると、Ambient 50%, Trip Hop 30%, Jungle 20%。それがどれ だけ妥当か計りかねるが、「あるチルの変奏曲集」という題名通り、軽いビート 感も気持ちよい編集になっている。また、この第二弾では、第三弾が予告されている。 Various Artists "Freezone 3 - Horizontal Dancing" (SSR, SSR167, '96, 2CDs) - CD1-1)So Many Times (Phume) 2)Bells Dozing (Fila Brazillia) 3)Your Mind (Los Jugaderos) 4)Universal Horn Remix 96 (JMJ + Richie) 5)Theme For A Man Who Wants To Take Over The World (iO) 6)Dub Angel (Snooze vs DJ Cam) 7)Multiplicity Of Zeros And Ones (Claude Young) 8)Gabrielle's Horns (Blak Crowe) 9)Camberwell Green (Mixmaster Morris vs Jonah Sharpe) 10)Solar Winds (Nu Era) 11)Freeze (Herbert) CD2-1)Arizona (2 Player) 2)Fumble Free (Future 3) 3)Alien Resident (Tha Huh, Huh, Mellow Mix) (Kid Loops) 4)Miasma (Coldcut Mix) (The Illuminati Of Hedfuk) 5)Out Of The Blue (Kruder & Dorfmeister) 6)Five Days (Howie B) 7)Tribe Of Benjamin (Glenn Underground) 8)The Rough With The Smooth (PFM) 9)Emissions (Josh Wink) 10)Hopeless Romantic (Envoy) 11)Smooth Helmet (Plug Mix) (Smooth Helmet) 12)ES-30 (Parametric) - Compiled by DJ Morpheus, Sequenced by Marc Hollander, Vincent Kennis, and DJ Morpheus. そして、この今年リリースされた第三弾では、曲目を見ればわかるだろうが、より drum'n'bass〜abstruct hip hop色を濃くしたものになっている。参加者も豪華で、 変名での参加も、Ashley Beedle & Phil Asher (CD1-3のLos Jugaderos)、Pulsinger & Co. (CD1-4のiO)、Matt Herbert a.k.a. Doctor Rockit (CD1-11のHerbert)、 Coldcut (CD2-4のThe Illuminati Of Hedfuk)、Mu-Ziq vs Wagon Christ (CD2-11の Smooth Helmet)、Carl Craig (CD2-12のParametric)がいる。それも、クレジットに よれば、23 tracks exclusively created for FZ3とある。多くの編集盤が既発曲の 編集なだけに、もし本当に全て独占的に作られたトラックだとしたら、すごい企画 だと思う。 副題は「横になったまま踊ること」。前作以上に軽快なビートが強調された出来に なっていると思う。眠られない夜に、横になったままビートに身を任せるのに、 このシリーズは確かにうってつけかもしれない。 第三弾の編集もSamy BirnbachことDJ Morpheus。最近はこういう仕事が中心なのだ ろうか。ちなみに、the third yearly essay on the state of chillということで、 年刊であることが宣言されている。FZ4へ続くとも書かれているが、この微妙に色を 変えながら続いているこのシリーズ、97年にはどういう顔ぶれになっているのだ ろうか? _ _ _ これを少しずつ書き貯めながら、Freezoneシリーズに交えて、Brian Eno & David Byrne "My Life In The Bush Of Ghosts"や、Crammed Discsの初期の名編集盤 Various Artists "Made To Measure Vol. 1" (Crammed, CRAM029LP, '84, LP) Various Artists "It's A Crammed, Crammed, Crammed World" (Crammed, CRAM033LP, '84, LP) を聴いていた。ここから何が変わって、何が残ったのか。全く異質に聴こえる − "It's A Crammed, Crammed, Crammed World"はもっと粗い出来だ − ことも あれば、全く溶けこんで聴こえるように思うときもある。例えば、"Headz"や "Freezone"の世代の聴き手が、このCrammed Discsの編集盤を遡って聴いたときに、 どこを時代遅れと感じ、あったとしてどこに今の時代における有効性を見出す のだろうか…。 96/11/18 嶋田 "Trout Fishing in Japan" 丈裕