最近のUKでのnew roots / dubの動きを追いかけて感じるのは、リズムとメロディの バランスの悪さだ。例えば、70s半ばのreggaeの名曲Jacob Miller "Baby, I Love You So"と、そのダブAugustus Pablo "King Tubby Meets Rockers Uptown"の関係は シングルA/B面のように表裏一体だ。Max Romeo And The Upsetters "War Ina Babylon" (Island, '76)は、Max Romeoの歌とLee Perry & The Upsettersのダブワイズな演奏・ 音処理との間の緊張関係が、それを名盤としていた。UK new roots / reggaeの多くは 演奏・音処理志向が強すぎて、緊張感に欠けているのだ。 脱punk期のrock / popへのdubの導入においても、その緊張感が重要な役割を担って いた。例えば、XTCのポップな歌と一連のdub作品 (XTC "Explode Together - The Dub Experiments '78-'80" (Virgin, CDOVD308, '90, CD) で聴くことができる。)、 もしくは、Public Image Ltd. "Metal Box" (Virgin, '79) でのJohn Lydonの歌唱と 背景の演奏の対峙を、思い出してみるといい。 Dub Narcotic Sound Systemは、Olympia, WAを拠点として活動するKレーベル界隈の ミュージシャンがdubの影響下で2〜3年前から活動しているプロジェクトだ。彼らの dubへのアプローチはUKのnew roots / dubのものとはかなり異なる。"Option"誌 1996年Nov/Dec号のdub特集記事では、HIMやUiとともにD.I.Y. Dubとカテゴライズ されているが、instrumental rock的色彩を残しておりdance志向の薄さがその特徴と いえるかもしれない。しかし、こういった演奏を聴いていてもの足りなく思うのは、 やはり対峙すべき鮮やかな旋律や個性的な歌唱だ。Dub Narcotic Sound System界隈 からXTCのものほどのポップチューンが生まれてきているだろうか? 個性的な歌声は? そういう意味で、Dub Narcotic Sound Systemは、もっと積極的にいろんなシンガー/ ソングライターをフィーチャーして、対峙して欲しいと思っていた。そんなところ、 この作品が出た。 Dub Narcotic Sound System featuring Lois "Ship To Shore" (K, KLP60, '96, CD) - 1)Ship To Shore (Boot Party Mix) 2)DJ Dervishs Ship Shape Remix (Additional Production And Remixing By Nathan David) 3)Rougher (Additional Text By Elizabeth Smart) 4)Do That (Team 714 1200 Music) 5)Scat Mix (By DJ Riz) Olympia界隈から出てきたちょっとファニーだかあっさりした感で歌う女性シンガー ソングライターLoisをフィーチャーしたミニ・アルバム。自身の作品でのギター 弾き語りスタイルはいいかげん単調になってきていたこともあり、この作品の方が 魅力的だ。ダブワイズな音空間も、彼女の歌声を得て、その面白さが際立っている。 "Ship To Shore"はもともとDub Narcotic Sound Systemの演奏で、そのremixが どれも興味深い仕上がりだ。特に2曲目が気持ちいい。3曲目の"Rougher"だけは 違う歌でLoisでの演奏のものにちょっと細工しただけでこれは平凡か。 ちょっと斜めに構えて微笑む顔写真を使った真っ赤なジャケットが素敵なので、 アナログ12"盤で買ったほうが良いかもしれない。 Dub Narcotic Sound Systemへの興味はほとんど失せていたのだが、"Ship To Shore" が面白かったので、これが収録されたアルバムも聴いてみた。 Dub Narcotic Sound System "Boot Party" (K, KLP40, '96, CD) - 1)Test Pattern 2)Monkey Hips And Rice 3)Ship To Shore 4)Super Dub Narcotic 5)Afi-Tione 6)Shake A Puddin 7)King Harvester 8)Robotica 9)Dunny Echo 10)Boot Party - Brian Weber (g,organ), Todd Ranslow (b), Larry Butler (ds), Lois Maffeo (vo), Lindiwe Coyne (g), Jennifer Smith (vo), Calvin Johnson (minikorg,melodica,ds), DJ Sayeed (cuts and scratches) 以前よりインストゥルメンタル志向も薄れ歌をフィーチャーした曲も増えたし、 演奏も以前よりずっとグルービーになったと思う。意外に楽しめたが、やはり "Ship To Shore"が一番良かったのが残念。Calvin Johnsonの歌声は確かに個性的 なのだが、John Lydonのような緊張感に繋がらないのが惜しい。 やはり、Dub Narcotic Sound Systemには、もっといろいろな歌手を迎えて対決 して欲しい。Beckや (Beck "One Foot In The Grave" (K, KLP28, '94) はDub Narcoticでの録音だ。)、Jon Spencer (The Jon Spencer Blues Explosion! "Experimental Remix" (Matador, OLE111-2, '95) の"Soul Typecast"を思い 出そう。) など、どうだろう。Dub Narcotic Sound System feat. Luscious Jacksonなんていうのも素敵だと思う。(Daniel Lanoisに制作させるくらいなら。) 契約の問題が難しいのかもしれないが。 そして、Dub Narcotic Sound System and Friendsみたいなレコードが出たら、 これは本当に面白いと思う。それを楽しみにしたい。 96/12/2 嶋田 "Trout Fishing in Japan" 丈裕