'53年にParisで結成されたthe Littrist International。(Guy Debordも参加しており、 the Situationist Internationalの先駆でもある。) その機関誌"Potlatch" No.23 ('55/10/13)は、"Rational Embellishment to the City of Paris" (「パリの街に 理性的な装飾を施すこと」とでもいうことだろうか。) という題がついており、 SurrealistのAndre Bretonの33年の論文の注釈にはじまり、さらに「Dadaとは何か」 ということまで遡るものだった。 その"Rational Embellishment"の「もう一つのヴァージョン」(by Greil Marcus)が、 66年の秋にストラスブール大学で起きた。その「仮想的革命」は、芸術的、文学的、 戦術的の三面を持っていたのだが、芸術的な面を担っていたのが、学生だったAndre Bertrandのマンガ"The Return Of The Durutti Column" (元題は"Le Retour de la Durutti Column"。「ドルッティ部隊の復活」という意。) だった。 そのマンガ − Greil Marcus "Lipstick Traces" [1]で、その一部を見ることが できる。 − の題は、Raoul VaneigemがSituationist Internationalの「説明的な イメージ」として提案した、スペイン内戦初期に生き残った人たちに全てを一から 築きあげられるよう社会構造を全て破壊して歩いたカタロニアの革命家Buenaventura Duruttiに率いられたアナキスト部隊 − ストラスブールの様子を伝えた"Sunday Telegraph"誌の記事への皮肉でもあるのだが − に捧げられていた。[1] それから13年後、Manchesterの独立レーベルFactoryから、このStrassbourgのマンガ の題をとった、紙やすりをジャケットにした − 棚から取り出す度に、隣のレコード ジャケットをずたずたにするように − レコードがリリースされた。 _ _ _ 79年から活動しているVini ReillyのプロジェクトThe Durutti ColumnのFactory時代の 音源が、Londonレーベル傘下のFactory音源専門の再発レーベルFactroy Onceから、 '96年冬と'97年春の2回に分けて廉価CD再発される。リマスターされたうえ、 アルバムと同時期に録音された音源を、追加収録しているのが嬉しい。ジャケット デザインがオリジナルのものとかなり異なる、再発シリーズのものになっている のが残念だが。 The Durutti Columnが良かったのは、アルバムで言うなら"Amigos Em Portugal" (Fundacao Atlantica, 165207-1, '83, LP)までだと、僕は思っている。ということで 第一期分の4タイトルのうち、これを紹介したい。 The Durutti Column "The Return Of Durutti Column" (Factory Once, FACTO14, '96, CD) - 1)Sketch For Summer 2)Requiem For A Father 3)Katherine 4)Conduct 5)Beginning 6)Jazz 7)Sketch For Winter 8)Collette 9)In "D" 10)Lips That Would Kiss 11)Madeleine 12)First Aspect Of The Same Thing 13)Second Aspect Of The Same Thing 14)Sleep Will Come 15)Experiment In Fifth - 1-13) Produced by Martin Hannett. 14,15) Produced by Vini Reilly. - 1-9) Vini Reilly (g), Martin Hannett (switches), Pete Crooks (b), Toby (ds) 1st "The Return Of The Durutti Column"を中心にそれに続いて録音された以下の 音源が収録されている。ジャケットの写真は、サンドペーパーのジャケットの一部。 背景のピントがぼけているのは、"LC"と"The Guitar And Other Machines"の ジャケットの一部。 このサンドペーパーのジャケットは限定2,000部で制作されたもの。レコード店に かざられているのを一度見たことがあるが、かなり目の粗い淡い黄色のサンド ペーパーで、やすり面が外側になるようにジャケットが作られている。この ジャケットのコンセプトも、Situationistに影響を受けたものだ。 −あのアルバム ("The Return Of The Durutti Column") の初回プレスは、きれいな サンドペーパーに包まれてましたね。それはあなたの発想、コンセプトですか。 「いいえ、あれはトニー・ウィルスンのアイデアです。手作りの限定盤で、 ファクトリーのオフィスでジョイ・ディヴィジョンが手伝って一枚一枚丁寧に ノリでサンドペーパーを貼ってくれました。この発想はシチュエイショニスト (情況主義者) らの考えからヒントを得たもので、彼等はサンドペーパーを使った 本を出そうとしました。本棚に置いといて他の本をメチャメチャにするために。 それと同じ発想です。」 ---- Vini Reilly (1984) [2] ちなみに、第二版以降のジャケットは、黒の布目の紙を使ったもので、上から 1/4 くらいの中央に、小さな横長の長方形の白っぽい青みがかった水彩絵が三枚、 金色の線でふちどられて横にならんでおり、下端に金文字で "The Return Of The Durutti Column" と銘打たれていた。 1-9) The Durutti Column "The Return Of Drutti Column" (Factory, FACT14, '79, LP) 10,11) The Durutti Column "Lips That Would Kiss" (Factory Benelux, FBN2, '80, 12") 12,13) Martin Hannett "Test Card" (Factory, FACT14C, '79, flexi) 14) Various Artists "From Brussels With Love" (Les Disques Du Crepuscule, TWI007, '79, 2LP's) 15) Various Artists "The Fruit Of The Original Sin" (Les Disques Du Crepuscule, TWI035, '81, 2LP's) "The Return Of The Durutti Column"の録音の様子がライナーノーツ書かれている のだが、それによると、これは2日間で録音されたものという。Martin Hannettは 2日間変なノイズやリズムを出すことしかせず、時々Vini Reillyはそれに愛用の Les Paulで応じる、という具合で制作されたようだ。音数少なく淡々としたギターの あまり展開の無いフレーズとリズムボックスの響きが、残響が少しきつい空間に 響きわたるのだが、B.G.M.的というより、ギターの弦のテンションがそのまま音楽の テンションになったような、そんな音楽だ。 "Lips That Would Kiss"は、自殺したJoy DivisionのIan Curtisに捧げられたという ことで有名な曲で、切なく舞い上がるギターのフレーズが美しい、初期を代表する 名曲だろう。 今回の再発で注目すべきは、初版のみに収録されていたflexiの2曲が収録されている ということ。Martin Hannettの出す淡々としたノイズなのだが。"The Return Of The Durutti Column"での背景のリズム/ノイズとも違う、奇妙な音だ。 これらの音源に続いてリリースされたのが、これだ。 The Durutti Column "LC" (Factory Once, FACTO44, '81/'96, CD) - 1)Sketch For Dawn I 2)Portrait For Frazer 3)Jaqueline 4)Messidor 5)Sketch For Dawn II 6)Never Known 7)The Act Committed 8)Detail For Paul 9)The Missing Boy 10)The Sweet Cheat Gone 11)For Mimi 12)Belgian Friends 13)Self Portrait 14)One Christmas For Your Thought 15)Danny 16)Enigma - 1-10,15,16) Produced by Vini Reilly and Stew Pickering. 11-13) Produced by Martin Hannett. 14) Produced by Vini Reilly. - Vini Reilly (instruments and vocals), 1-10,15,16) Bruce Mitchell (perc), 11-13) Donald Johnson (ds) 2nd "LC"とそれに先行して録音された以下の音源が収録されている。 1-10) The Durutti Column "LC" (Factory, FACT44, '81, LP) 11-13) Various Artists "A Factory Quartet" (Factory, FACT24, '81, 2LP's) 14) Various Artists "Ghosts Of Christmas Past" (Les Disques Du Crepuscule, TWI058, '81, LP) 15) The Durutti Column "Enigma / Danny" (Sordide Sentimental, SS45005, '81, 7") "LC"は以降The Durutti Columnのdrums / percussion奏者として長く活躍することと なるBruce Mitchellを迎えての初のアルバムであり、また、ピアノや歌が入る曲も あり、ある意味でThe Durutti Columnのスタイルが完成した作品だろう。 曖昧な歌唱に、ピアノとギターを重ねてドラムの少し前のめりのリズムがかかる "Sketch For Dawn I"の引き込まれるような緊張感が好きだ。同様に"Jacqueline"や "The Act Committed"、そして"LC"のハイライト"The Missing Boy" − Ian Curtisの ことだが − のような手数多く前のめりとでもいうようなリズムを持つ曲は、 Bruce Mitchellを迎えてこその曲だと思う。これは、先行するシングル"Enigma / Danny"にも共通するのだが。この緊張感をお薦めしたい。 聴き比べると面白いのだが、ファンク的なDonald Johnsonの"A Factory Quartet"の 3曲は、リズムがシンコペートしているのでゆったり聴くこえるのだが、Vini Reillyの ギターの緊張感には似合わないように感じる。 "LC"の題名の由来は何だろう、誰かのイニシャルだろうか、とでも思っていたのだが、 このCDのライナーノーツに由来が書いてあった。Anthony Burgessのローマに関する ドキュメントの中で、「ローマの人たちは2,000年間悪政を楽しんできた。そして、 それをもっともっと楽しみたいと期待してきた。」という説明の後、壁の落書き "Lotta Continua" (「定めは続く」とでもいう意味か? − ライナーノーツでは "The struggle goes on"と受けているが。) を映したという。それを題にしたという。 _ _ _ The Durutti Columnといえば、The Durutti Column with Debi Diamond "The City Of Our Lady" (Factory, FAC184, '87, 12"45rpm)に収録されたJefferson Airplaneの "White Rabbit"のカヴァーも名演だと思っているのだが、今回の再発の中で同時期の 録音を収めたThe Durutti Column "The Guitar And Other Machines" (Factory Once, FACTO204, '96, CD)から漏れている。残念だ。 _ _ _ もうすぐリリースされるというThe Durutti Columnの新作は長らく相棒を務めた Bruce Mitchellは参加していないらしい。Peter Hook (b) (New Order)とTim Kellett (tp) (ex-Simply Red。"The Guitar And The Other Machines"の頃、一時参加して いた。) のトリオらしいのだが、いったいどういう音になっているのだろうか。 10年近くThe Durutti Columnはあまり興味なかったのだが、去年出たThe Durutti Column "Sex And Death" (Factory Too, FACDR2.11, '95, CD-ROM)は、Londonの ICA (Instutute of Contemporary Art) がらみ[3]なので、とても気になっている。 残念ながら普通の音楽CDの版しか店で見たことがないのだが。 参考文献 [1] Greil Marcus: Lipstick Traces -- A Secret Histroy Of The Twentieth Century, Harvard University Press, 1990. [2] 大鷹 俊一: 来日したドゥルッティ・コラムほかに聞く, ミュージック・ マガジン, 1984年6月号, pp.24-31. [3] Paul Stump: Content In A Void -- Vini Reilly, The Wire, Issue 142, Dec. 1995, pp.34-37. 96/12/29 (modefied 97/1/12) 嶋田 "Trout Fishing in Japan" 丈裕