1996年に発売された中から選んだ10枚。 第一位: Squarepusher "Feed Me Wierd Things" (Rephlex, CAT037CD, '96, CD) BPMのイデオロギーを打ち砕く、高速複雑怪奇な打ち込みパターンとブンブンいう Tom `Squarepusher' Jenkinsonのベース。もしdrum'n'bassはjazzを未来形だと 言うなら、これはfree jazzだ。特に、その幕開けを飾るギターのサンプリングも 爽やかな Squarepusher "Squarepusher Theme" (Rephlex, DOG037, '96, 12"45rpm) は、まさに彼のテーマとして相応しい曲だ。 第二位: Everything But The Girl "Walking Wounded" (ebtg / Virgin, CDV2803, '96, CD) 個性的なTracey Thornの歌声が、drum'n'bass〜house〜abstruct hip hopの自由な 音空間を得て、復活。「drum'n'bassは21世紀のbossa novaだ」という彼らの主張を 具現した"Corcovado"を収録したEverything But The Girl "Single" (ebtg / Virgin, VSCDT1600, '96, CDS)のRupert `Photek' Parkesの、間の絶妙なdrum'n'bassも良い。 第三位: A.D.D. Trio "Instinct" (L+R, CDLR45104, '96, 2xCD) Robert Dickの超能力的なフルート演奏だけでも一聴に値する。しかし、それに 半ば即興で応じる、Christy Doranの破壊的なギターとSteve ArgueellesのHan Benninkばりのドラムも負けていない。緊張漲る瞬間瞬間が新鮮だ。 第四位: Tortoise "Galapagos (Version One)" (Thrill Jockey / City Slang, SHELL003, '96, 12"33rpm) Tortoise "Millions Now Living Will Never Die" (Thrill Jockey, THRILL025, '96, CD) は退屈だったが、4枚出た一連のリミックスは、abstruct hip hop (U.N.K.L.E.) からelectronica (Markus `Oval' Popp) を経てdrum'n'bassまで、 飽きなかった。特に崩壊drum'n'bassが聴かれるこの盤は、一連のリミックスの 中だけでなく、いくつかのout rock vs drum'n'bass対決の中でも最高の出来。 (4枚を1枚のCDに収めたTortoise "Remixed" (Thrill Jockey / Tokuma Japan, TKCB-71016, '96, CD) がお買い得だろう。) 第五位: Han Bennink + Dave Douglas "Serpentine" (Songlines, SGL1510-2, '96, CD) Monsieur Hulot (Jacques Tati) が叩いたらこうなるのではないかと思わせるような ユーモアあふれるHan Benninkのドラムその他いろいろな音と、Suzanne Vegaや Cibo Mattoといったポップ畑での活躍も目が離せないDave Douglasのラッパによる、 オモチャ箱をひっくりかえしたような即興演奏が楽しい。 第六位: Kronos Quartet "Howl, U.S.A." (Nonsuch, 7559-79372-2, '95, CD) Allen Ginsberg自ら吠える"Howl"も聴き物かもしれないが、McCarthismの悪夢を 張り詰めるような四つの弦の響きで切り刻む"Sing Sing: J. Edgar Hoover"が、 この作品の中で最も成功している。 第七位: Derek Bailey + Will Gaines "Will" (Incus, VD01, '96, VHS) 驚愕のrockを演奏するArcana "The Last Wave" (DIW, DIW903, '96, CD)に、 drum'n'bassと対決したDerek Bailey "Guitar, Drums'n'Bass" (Avant, AVAN060, '96, CD)と、若返ったDerek Bailey。しかし、Incusヴィデオ第一弾のこの作品の、 壊れた機械仕掛けの人形のように不規則な音を立てながら踊るタップダンサーの 脇で椅子に座って黙々と非慣用句的な音を発し続けるBaileyの対比も笑えるが、 そんな中、疲れて椅子に座っているGainesに踊りを促すようギターをかき鳴らした ときに見せたBaileyの微笑みが忘れられない。 第八位: Stereolab "Emperor Tomato Ketchup" (Duophonic UHF Disks, D-UHF-CD11, '96, CD) 曲の輪郭がはっきりしてきてますますポップになったStereolabだが、そのポップな メロディの甘い声で「社会は何の上に成立しているの?」と問いかけられるのが、 なんともたまらないのだ。 第九位: Los Lobos "Colossal Head" (Warner Bros., 9362-46172-2, '96, CD) 今や売れっ子Mitchell Froom & Tchad Blakeの制作した作品というと、若干濃めの Suzanne Vega "Nine Objects Of Desire" (A&M, 31454 0583-2, '96, CD)や、佳作 だが地味な大作Richard Thompson "You? Me? Us?" (Capitol, CDP7243 8 33704 2 9, '96, 2CD's) も悪くないが、やはり、勢いいいChicano rock "Mas Y Mas"にノって 哀愁の未来形Ranchera "Maricela"で涙のこの作品の歌心にはかなわないだろう。 第十位: Plug "Drum'n'Bass For Papa" (Blue Angel, ANGEL1CD, '96, CD) Tom `Squarepusher' Jenkinsonと並ぶdrum'n'bass前衛主義者Luke `Plug' Vibertは、 このアルバムでの切れはいまいちだったが、一連のremixで見せた鋭さを代表して。 JenkinsonやVibertを送り出したRichard `Aphex Twin' JamesのAphex Twin "Richard D. James Album" (Warp, WARPCD43, '96, CD)は、ストリングの響きも甘い前衛 drum'n'bass曲が美しい作品だった。 次点: Dub Narcotic Sound System feat. Lois "Ship To Shore" (K, KLP60, '96, CD)は、 ジャケットのLoisの微笑みのように魅惑的だったが、その魅惑を長続きさせるには、 1曲のリミックスだけでは足りない。もう何曲か欲しいところだ。 番外特選 (ライヴ): Gastr Del Sol @ 新宿Pit Inn (10/4) の繊細だが強烈な2本のギターの響きも確かに 良かったが、非ライブハウス/ホール的空間で観た演奏が印象に残った一年だった。 ノリよく楽しかった World Saxophone Quartet feat. Fontella Bass @ Tower Records 渋谷店前 (1/28) の路上演奏、いきつけのジャズ喫茶で和やかに盛りあがった Marcio Mattos with Sabu Toyozumi @ Mary Jane (4/30)、前半で1/4近くの落伍者を出すほど 強烈な循環ブレス奏法を見せた Evan Parker @ 世田谷美術館 (5/1) も忘れ難いが、 やはり、上尾の床屋さんでの Peter Broetzmann @ バーバー富士 (4/15) の、手が 届きそうな距離での強烈なブロウに耳がぎしぎしいった感じと握手したときの強力な 握力で受けた手の痛みは、今でも余韻が残っている。 97/1/1 嶋田 "Trout Fishing in Japan" 丈裕