今年こそ二ヵ月に一枚 (若干下方修正) は紹介したい現代音楽作品。というわけで、 ネタがあるうちに。(って、誰が読んでいるのか、って気もするのだが。) Geoffrey Madge "Keys To Russia 1" (BVHAAST, CD9602, '96, CD) - 1)Sonata no. 2 op. 4 (Alexander Mossolov, '23-24) 2)Deux Poemes (Nicolai N. Roslavetz, '20) 3)Sonata no. 1 op. 12 (Dimitri Shostakovich, '26) 4)10 Aphorisms op. 13 (Dimitri Shostakovich, '27) 5)Sonata no. 2 op. 61 (Dimitri Shostakovich, '42) - Geoffrey Madge (p) Vladimir Tatlin の「第三インターナショナル記念塔」('20) の側面図がジャケットに 使われている!! というだけで買ってしまった、ロシア・アヴァンギャルドのピアノ 曲集。赤と黒からなる構成主義的なデザインもいい。 さて、まずは構成主義音楽の第一人者 Alexander Mossolov (1900-73) のsonata。 といっても、この作品はあまり前衛的ではないかな。リズムが強烈な最終の第三 楽章はかっこいいが。 彼の代表作はバレエ「鋼鉄」のための「鉄工場 "Iron Foundry" ('27)」という 管絃楽 〜 機械音楽 (machine-music piece) で、「無数の歯車の回転を思わせる 半音階の弦のオスティナートに始まり、金管のパーカッションがヒステリックな 絶叫をあげ、全オーケストラの強奏でもって閉じられるわずか三分半の小品である。 会場につめかけた聴衆は、音の濁流とでもいうしかないグロテスクな響きのうちに、 溶鉱炉から吐き出されるむせ返るような炭気を、コミュニズムの輝かしい未来を、 あるいは労働者大衆とは縁のない、アヴァンギャルド音楽家の悪しき「フォルマ リズム」を感じとった。」[1]というものらしい。これは、是非、Ensemble Modern あたりの演奏で聴いてみたい。 続いて「ロシアの Schoenberg 」こと Nicolai N. Roslavetz (1881-1942) の 4分半の小品。これは、あまり Viennese school っぽくないような気もする。 最後の Dimitri Shostakovich (1906-75) は、さすがに比較的知られている作曲家 だろう。30秒〜2分の短い10個の曲からなる "10 Aphorisms op. 13" が、手を変え 品を変えテンポ良くアイデア − 格言 − が出てくるような感じで面白い。 "Sonata no.2 op. 61" は、勇ましい、というかそういうテーマが出てくるところに、 社会主義リアリズム期というより第二次大戦中という時代を想像してしまうのは 邪念か。他の曲とちょっと気色が違うので特に気になるのだろうが。 このCDは、実は78年にリリースされたLPに、Shostakovich の "Sonata no. 2 op. 61" を加えて再発CD化したものという。それも「この再発は、ソヴィエト連邦成立期の ほとんど知られていないピアノ音楽に捧げる新しいシリーズの布石である。」 ピアニストの Geoffrey Madge がどういう人か、よく知らないのだけれども、 彼の演奏で、これから2年間にCD 5枚の予定とのことで、とても楽しみだ。 Stalin 時代に徹底的に弾圧された芸術運動のため、Stravinsky や Shostakovich は まだしも、あまり知られていない音楽だし、その演奏のCDもあまり売られていない。 Vladimir Mayakovski の詩や Alexander Rodchenko のポスター、Kazimir Malevich の 無対象主義絵画の背景にどういう音楽が流れていたのか、とても興味はあるだけに、 こうして聴かれるのはとても嬉しい。 _ _ _ 図らずしも Tomoko Mukaiyama "Women Composers" (BVHAAST, CD9406, '94, CD) に 続いて BVHAAST のからの現代音楽作品を紹介することになってしまったが、この Amsterdam, Holland のレーベルは、スラップスティックかつ演劇的なフリージャズ 集団 Willem Breuker Kollektief のレーベル。Han Bennink + Misha Mengelberg の ICP や Michael Moore の Ramboy などの配給もしている Holland の中心的な レーベルだ。ちなみに、Willem Breuker Kollectief / BVHAASTのホームページの URLは http://www.ws4all.nl/~wbk/wbk.html。 _ _ _ 向井山 朋子のために書いた Frederic Rzewski の曲というのも気になっているのだが、 年越しのセールで買って聴いた Frederic Rzewski "The People United Will Never Be Defeated!" (hat Art, CD6066, '90, CD) - Recorded 86/10 - Frederic Rzewski (piano) が良かった。Sergio Ortega & Quilapayun "El Pueblo Unido Jamas Sera Vencido!" を Rzewski が36の変奏曲に仕立て直した "「不屈の民」変奏曲" の、Rzewski 自身に よる演奏だ。(高橋 悠治をはじめ、いくつか人の演奏のCDが出ている有名な曲だ。) で、Quilapayunといえば、軍事クーデターで虐殺されたChiliのnueva cancion悲劇の 詩人 Victor Jara のバックもやっていたグループ。悲劇の革命歌の哀愁の旋律に涙。 副読本はもちろん、「百年の孤独」よりも面白いこれ[2]。 参考文献 [1] 亀山 郁夫: ロシア・アヴァンギャルド, 岩波新書, 1996. [2] G. ガルシア=マルケス: 戒厳令下チリ潜入記, 岩波新書, 1986. 96/1/3 嶋田 "Trout Fishing in Japan" 丈裕