待望の再発CD化を祝して!! Gang Of Four、Delta 5、Scritti Politti と共に Leeds, England から出てきて、 今や Chicago, IL に根拠を移している、脱パンク・ロックバンド Mekons が 最も良かったのは、カントリー〜トラッド色が濃かった80年代後半だったと思う。 フィドルやアコーディオンを全面にフィーチャーし、パンク的なノリを持った ツー・ステップからカントリー・ワルツを演奏していた。有名なところでは、 The Pogues と似ている、といえば、判りやすいだろうか。 Jon Langford と Tom Greenhalgh のよれた歌声と Sally Timms の凛と辛辣な 歌声が議論するような、明らかに左翼がかった、そんな歌も良かった。 この時期に Mekons はライヴ盤を除くと4枚のアルバムを出しているのだが、 そのうち − それだけでなく全アルバムのうち − 唯一CD化されていなかった このアルバムがついにCD化された。 Mekons "The Edge Of The World" (Sin / Quater Stick, QS42CD, '86/'96, CD) - 1)Hello Cruel World 2)Bastard 3)Oblivion 4)King Athur 5)Ugly Band 6)Shanty 7)Garage D'or 8)Big Zombie 9)Sweet Dreams 10)Dream Dream Dream 11)Slightly South Of The Border 12)Alone & Forsaken 13)The Letter - Recorded and Mixed 86/3-4. - Rico Bell (accordion,vo), Lu Edmonds (b,g), John Gill (fiddle,melodeon), Steve Goulding (ds), Tom Greenhalgh (vo,g), Susie Honeyman (vln), Jon Langford (vo,g), Ken Lite (vo,g), Dick Taylor (g), Sally Timms (vo), Brendan Croker (vo,slide g), Tim Taylor (slap b) 凛としたドローン的なフィドルの響きも険しい名曲 "Hello Cruel World" で はじまる5thアルバム。重く引きつるような − 特にフィドルが − 演奏を背景に 淡々とかつ険しく Timms がナレーションする "Garage D'or" もかっこいい。 同様、"Alone & Forsaken" は Langford のナレーション風の歌だか、こういう 緊張感のある曲はいっているのが、このアルバムの特徴だ。その一方で、 シングル・カットされた "Slightly South Of The Border" は、当時の Mekons らしい伸びやかなカントリー・パンク・ポップ曲で、これもいい。 ちなみに、元盤は Mekons "The Edge Of The World" (Sin, SIN003, '86, LP)。 A面が7曲目まで。CD化による追加曲はない。 最近の Mekons の作品はいまいちぱっとしないので、これから Mekons を聴くなら、 むしろ、この手の再発CDから聴くのがお薦めだろう。というわけで、消費者向け CDガイドを。 Mekons "Original Sin" (Sin / Rough Trade, RTDCD105, '85/'89, CD) - 1)Chivalry 2)Trouble Down South 3)Hard To Be Human 4)Darkness And Doubt 5)Psycho Cupid (Danceband On The Edge Of Time) 6)Flitcraft 7)Country 8)Abernant 1984-85 9)Last Dance 10)Lost Highway 11)(A Dancing Master Such As) Mr. Confess 12)Beaten And Broken 13)Chop That Child In Half 14)Hey! Susan 15)Garage D'or 16)Slightly South Of The Border 17)Coal Hole 18)$1,000 Wedding 19)Rescue Mission 4thアルバム Mekons "Fear And Whiskey" (Sin, SIN001, '85, LP) の10曲に、 シングルなどのレア・トラックを9曲も加えて、タイトルを変えてCD化したもの。 "Fear And Whiskey" は Greil Marcus が Real Life Rock で80年代ベスト・ アルバムとして挙げている[1]ほどの、この頃の Mekons を代表する名盤だ。 特に、「人間的であることは難しい」と歌われる "Hard To Be Human" は名曲。 堕胎を制限しようというコリー法案に反対して作られた [2] プロチョイス (堕胎権運動) のアンセムともいえる "Chop That Child In Half" など、 追加された曲も良い。Mekons の最盛期を楽しめる一枚だ。 当時の彼らのレーベル Sin は、そのロゴから明らかなように Elvis Presley が デビューしたレーベル Sun を受けたものでもあるが、このCDの題 "Original Sin" からわかるよう「原罪」が当時の彼らの歌の主要なテーマになっている。 それは、84年の Everything But The Girl の1stアルバムの題 "Eden" にも繋がる ものなのだが。しかし、それはユダヤ教〜キリスト教的な宗教の教義を見直そう というものではなく、むしろ晩年の (Frankfurt school の) Max Horkheimer の 原罪論を受けたものだ。 「たとえわれわれが幸福でありうるとしても、その幸福の一瞬一瞬は、数限りない 他の被造物 (人間であれ動物であれ) の犠牲によって贖われているのだ。」 ---- Max Horkheimer (1970) [3] Mekons をまずどれか一枚、といったら、このCDをお薦めしたい。Rough Trade盤の CDは廃盤だが、米 Twin/Tone から同題同内容で今もリリースされている。 Mekons "The Mekons Honky Tonkin'" (Sin / Twin/Tone, TTR87113-2, '87, CD) - 1)I Can't Find My Money 2)Hole In The Ground 3)Sleepless Nights 4)Keep On Hoppin' 5)Charlie Cake Park 6)If They Hang You 7)The Prince Of Darkness 8)Sin City 9)Kidnapped 10)Sympathy For The Mekons 11)Spit 12)Trimdon Grange Explosion 13)Please Don't Let Me Love You 14)Gin Palace 15)Danton 16)Prince Of Darkness "The Edge Of The World" に続く6thアルバム。CD化にあたって、8, 15, 16の3曲が 追加されている。A面は7曲目まで。シングル・カットされた、名曲 "The Prince Of Darkness" を含む。night clubbin' ではなく honky tonkin' というほうが ぴったりな、基本的に過去2作の延長の作風だ。ジンのような安酒が似合いそうな、 夜の雰囲気もある。 このアルバムは、一曲ごとに参考文献が挙げられており、それがとても興味深い。 Terry Atkinson という美術作家の作品(カタログ)が2曲で挙がっているのが、 気になっている。あと、Theodor Adorno "Minima Moralia"。この Adorno の本は 次のアルバムのライナー・ノーツでも、2箇所引用されている。 Mekons "So Good It Hurts" (Sin / Twin/Tone, TTR88114-2, '88, CD) - 1)I'm Not Here (1967) 2)Ghosts Of American Astronauts 3)Road To Florida 4)Johnny Miner 5)Dora 6)Poxy Lips 7)(Sometimes I Feel Like) Fletcher Christian 8)Fantastic Voyage 9)Robin Hood 10)Heart Of Stone 11)Maverick 12)Vengeance 13)Revenge ポルカ meets レゲエな Edward The Second And The Red Hot Polkas "Two Step To Heaven" (Cooking Vinyl, COOKCD019, '89, CD) と前後して制作されたせいか、 レゲエともツー・ステップというような、明るい曲の多い7thアルバム。 A面は6曲目まで、13曲目がCDでは追加されている。 オープニングの "I'm Not Here (1967)" は、パンクを受けた彼らのデビュー作 "Never Been In A Riot" (Fast Product, '78) を思い出させるようなテーマだが。 ここで受けているのは、1967年6月16-18日のモンタレーであり10月のワシントンだ。 この作品の後に、Mekons は Blast First に移籍し、ロック色がぐっと濃くなる ことになる。 さて、このような80年代後半の Mekons のライヴを収録したのが、このCDだ。 Mekons "New York" (ROIR, 88561-5026-2, '87/'90, CD) 「<ハード・トゥ・ビー・ヒューマン>が舞台上、このグループの最高の瞬間だと いうことを証明するもの。」[4]というのが、Greil Marcus のコメントだが。 MCや聴衆のざわめきも良く収録しており、このグループの最高の瞬間を捉えた ドキュメンタリーともいえるが、曲を完全に収録していないなどの欠点もある。 単なるライヴ盤というのとは異なる編集なのは Mekons らしいが。4th〜7th アルバムを聴いてからの方が楽しめる作品だろう、という意味では、ファン向けか。 このライナー・ノーツで挙げられている Mekons へ貼られてきたレッテルが面白い。 「シチュアショニスト、フェミニスト、左翼主義者、ダダイスト、酔っぱらい、 夢想家、変質者、道化」。そんな彼らの魅力を、これらのCDから楽しんで欲しい。 [1] グリール・マーカス: リアル・ライフ・ロック・トップ・テン (19), ミュージック・マガジン, 1990年3月号. [2] グリール・マーカス: ひとりよがりな<原発反対>映画「ノウ・ニュークス」 in 「ロックの「新しい波」」, 晶文社, 1984. [3] マックス・ホルクハイマー, 批判理論、昨日と今日, 1970. [4] グリール・マーカス: リアル・ライフ・ロック・トップ・テン (1), ミュージック・マガジン, 1988年4月号. 96/1/4 嶋田 "Trout Fishing in Japan" 丈裕