最近、一部で注目を浴びているフランスのレーベル Deux Z。遅ればせながら少し 聴いてみたのだが、面白い作品もあるので、少し紹介したい。 Various Artists "L'Amour - Quelques Instants Chavires" (Deux Z, ZZ84117, '94, CD) - 1)Les Vagues (Yves Robert Quartet feat. Corin Curschellas) 2)Oune Der Grounde (Noel Akchote Unit) 3)Un (Deux) (Noel Akchote Unit) 4)Abraham Adzenyah (Kartet) 5)Intimes Convictions (Thierry Madiot) 6)Paris Chaviree (Julien Lourau Groove Gang) 7)Gagaku (Francois Corneloup Quartet) - Recorded live in 94/6 "new European experimental jazz music" 中心のステージを展開しているという Paris の Les Instants Chavires Jazz Club での、愛 (love) をテーマにした ライヴを収録した、Deux Z のサンプラーともいえるアルバム。 いきなり、Yves Robert のtromboneと Corin Curschellas の女性の甘い (フランス 語ということもあるのだろうが) 声が愛を語り合うような "Les Vagues" で、 これが凄い。演奏は甘い「ジャズ」じゃ全くないフリー的なものだけに、対比も 面白い。 そういう意味では、女性ラップをフィーチャーする Julien Lourau Groove Gang も、 ファンク的な演奏と辛気臭い即興演奏との振幅が激しく変だ。 最後の Francois Corneloup Quartet の、ペラペラ鳴る Francois Corneloup のss、 パーカッシヴな Francois Roulin のpiano、ギター的なフレーズを繰り出す Remi Chaudagne のelectric bass、断続的にビートを繰り出す Manuel Senizet のdrums からなる、間をうまく使った即興演奏も緊張感があっていい。このquartetでの CD作品が出ていないのが、惜しまれる。しかし、"Gagaku" というのは「雅楽」か? と、フリー・即興〜ファンクな音が詰まっていて、そこそこ楽しめたので、さらに いくつか聴き進んでみた。まずは Yves Robert なのだが、これはなかなか良かった ので、追って別途に紹介したい。で、まずは Noel Akchote 。 Noel Akchote M.A.O. "Red Boot" (Deux Z, ZZ84125, '95, CDS) - 1)La Guerre Revoltionnaire 2)Giant Mao 3)Little Red Book 4)Red Boot (jungle remix) - Dom Farkas (vo), Noel Akchote (g), Helene Labarriere (stick), Erik Borelva (ds) Noel Akchote 率いる free jazz rock バンド M.A.O. のシングルCD、全15分余。 赤い星のジャケットや、曲名、Walter Benjamin の引用や、毛沢東の写真なども 気になるし、Noel Akchote のギターはノイジーかつフリーキーなのだが。 hard funk punkな1〜2曲目は、もう少しがんばれば Minimal Compact のあたりの 線までいけそうだが、どうも線が細い。ぐちゃぐちゃなフリーの3曲目も細い。 が、4曲目の "Red Boots (jungle remix)" が凄い。もちろん、jungle だ。 jungle〜drum'n'bassといっても、かなり軽めの高速打ち込みが主で、ベースの 線が細い。パターンの複雑さはかなり良いのだが、Akchote のギターはあまり 目立たない。ただ、Derek Bailey "Guitar, Drums'n'Bass" (Avant, '96) より 面白く感じるのはサンプリングのせいもあるだろう。95年にこういう作品が 既に出ていたのが驚き。 このNoel Akchote M.A.O. は際物好き向けかもしれないが、このCDにはおまけに Deux Z レーベルと傘下の L'Empreinte Digitale レーベルのサンプラー盤が ついている。 Various Artists "Deux Z Catalogue" (Deux Z, ZZ84123, '95, CD) 全23曲入りで、ブックレットには各作品のジャケットも載っており、Deux Z と L'Empreinte Digitale がどういうレーベルなのかの入門にはお徳かもしれない。 Kartet "Pression" (Deux Z, ZZ84118, '95, CD) - Recorded 94/11 - Guillaume Orti (as,ss), Benoit Delbecq (p), Hubert Dupont (contrabass), Benjamin Henocq (ds) 企画盤 Various Artists "L'Amour - Quelques Instants Chavires" の "Abraham Adzenyah" はいまいち地味な Kartet だが。これは、いきなり Dizzy Gillespie "A Night In Tunisia" のようなテーマが飛び出すfree bopのノリのいい演奏。 パーカッシヴで華やか目の Benoit Delbecq のpianoと、ぶっとい音でグルーブを 出す Hubert Dupont のcontrabassがとくにいい。特に奇抜なことをやっている わけでもないので、もっと力強さがあればいいのだが。 最後にこれ。 The Recyclers "Rhymes" (Deux Z, ZZ84111, '94, CD) - Recorded summer '93 - Steve Argueelles (ds), Noel Akchote (g), Benoit Delbecq (p) A.D.D. Trio で超絶flute Robert Dick と強力guitar Christy Doran を相手に Han Bennink に負けじとdrumを叩いていた Steve Argueelles の率いるトリオ。 それも、Kartet でのpianoも派手な Benoit Delbecq、M.A.O. ではjungleにも挑戦 していた Noel Akchote とのトリオということで期待したが。 ちょっと散漫なフリー即興になってしまったか。どうも音に緊迫感がなく、たれ 流しっぽく聴こえるときの方が多いのがつらい。 ここまで聴いてきて思うのだが、音の緊迫感の無さは録音の悪さがあるような 気がする。FMP、Hat Art、ECM などのCDと交えて聴いていると、妙に音が遠いのだ。 小さな独立系レーベルは仕方ないのか。ECM となると音を作っていると言われるが、 Noel Akchote のようなロック的なアプローチもみせるなら、そういうところから もっとこだわっていいのではないかと思う。 と、アタリありハズレありではあるが、どうも気になるレーベル Deux Z だ。 で、Yves Robert 編に続く。 97/1/18 嶋田 "Trout Fishing in Japan" 丈裕