20世紀前半のフランスの代表的な作曲家で、Les Six (六人組) のメンバーの一人 Georges Auric (1899-1982) は (ちなみに残り5人は Louis Durey, Arthur Honneger, Darius Milhaud, Francis Poulanc, Germaine Tailleferre。) 、映画音楽を多く 手掛けていたことでも知られている。彼が初めて手掛けた映画音楽は「ある詩人の血 "Le Sang D'Un Poete"」('30, dir. by Jean Cocteau) であり、それ以来、Cocteau が監督もしくは脚本を手掛けたほとんどの映画で音楽を手掛けている。 Georges Auric "Le Cinema Ca S'Ecoute - Les Musiques De Georges Auric" (Auvidis / Travelling, K1506, '96, CD) Jean Cocteau が監督した映画6本 (中編を含めると8本) のうち4本の映画から、 その映画音楽を映画の中で使われた状態で収録したCD。もちろん音楽は全て Georges Auric によるもの。収録されているのは以下の4本で全約50分。 1) "Le Testament D'Orphee" 「オルフェの遺言」 (un film de Jean Cocteau, 1959) 2-7) "Orphee" 「オルフェ」 (un film de Jean Cocteau, 1949) 8-15) "Le Belle Et La Bete" 「美女と野獣」 (un film de Jean Cocteau, 1946) 16-21) "L'Aigle A Deux Tetes" 「双頭の鷲」 (un film de Jean Cocteau, 1947) オープニングやエンディングのクレジットタイトルの音楽、いくつかのテーマ曲、 ダイアローグとその背景の曲、そして Jean Cocteau 自身によるナレーションも 入っている。 Jean Cocteau だけに映像抜きの音というのはな物足りないところもあるが。 淡々とした音楽を背景とした Cocteau のナレーションは不思議な映画世界を思い 出させてくれる。"Le Belle Et La Bete" での「ヒャー!!」という Josette Day (Belle) の驚きの声 (13) や、しわがれた Jean Marais (Bete) の声もいいが。 やはりこのCDで一番の聴き所は、"L'Aigle A Deux Tetes" のエンディング (21)。 5分余りにわたって収録されていて、最後の Edwige Feuillere (The Queen) と Jean Marais (Stanislas) やりとりから − 一瞬音楽がとぎれて「殺して欲しい のであなたをののしりました。あなたを愛してます。」というセリフが入る所が 特にいい。 − 、Jean Marais が階段から落ちるあの音もしっかり入っている。 思い出してぞくぞくしてしまう。 と書いていて、やはり好きだった映画だから音だけ聴いてもいいのかな、と思う 所もある。というのは、Cocteau の一連の映画の中では "L'Aigle A Deux Tetes" と「悲恋 "L'Eternal Retour"」(un film de Jean Delanny, 1943) が好きだった からだ。ともにエンディングで Jean Marais が死ぬところが大袈裟 (「悲恋」 では床に横になったまま両手を上げて絶叫する。) なところが好きなのかもしれ ないが。こうやって聴いていると音楽も過剰なまでにドラマチックなような気が してきた。 と、Jean Cocteau と Georges Auric の共同作業に音の面から焦点を当てた好 企画盤。映画を観たことがなくても雰囲気は楽しめるのではないか、と思う。 このCDは、Le Cinema Ca S'Ecoute / Movies To Listen To という、映画音楽を 映画の中で使われている状態で、すなわち、ダイアローグやナレーションも含めた 形でCD化しているシリーズ。そのため、ジリジリというかシューというノイズも 入ってしまっているのだが。音楽だけ完全に独立させたサンンドトラック盤や 再演物とは違う味わいがある。このシリーズの第1弾はカタログ番号からすると、 Georges Delerue "Le Cinema Ca S'Ecoute - Les Musiques De Georges Delerue" (Auvidis / Travelling, K1501, '95, CD) Nouvelle Vague の映画音楽といえばまずこの Georges Delerue ということで、 妥当な線だろうか。Georges Delerue は Henri Busser と Darius Milhaud に 師事したとのことで、やはり Les Six の流れを組む作曲家といえるかもしれない。 あと、この CD のライナーノーツを Henri Colpi が書いている。参考までに、 収録されている映画を挙げておくと、 1-3) "Jules Et Jim" 「突然炎のごとく」 (un film de Francois Truffaut, 1962) 4-5) "Une Aussi Longue Absence" 「かくも長き不在」 (un film de Henri Colpi, 1961) 6) "Le Mepris" 「軽蔑」 (un film de Jean-Luc Godard, 1963) 7) "Hiroshima Mon Amour" 「二十四時間の情事」 (un film de Alain Resnais, 1958) 8-11) "Viva Maria" 「ビバ!マリア」 (un film de Louis Malle, 1965) 思い入れのある映画が収録されていないせいかそれほど面白いとは思わなかったが、 歌が4曲はいっているのがいい。というわけで、このCDの主役は実は Jeanne Moreau と Brigitte Bardot か。って、ジャケットの写真を見直して納得。残りの2本は Marguerite Duras 脚本ということで、Duras も主役に加えていいのかな。…と、 いったいどういう基準の5本なのか、ちょっと謎ではあるが。 このシリーズの全貌は不明なのだが、Jacques Tati のように監督に焦点を当てて 編集されたもの、30/40年代の映画の中の歌を編集したもの、というのもある。 最新のものはおそらく第10弾の Jean Renoir だ。 このシリーズをリリースしている Auvidis / Travelling というのはフランスの 映画音楽専門のレーベル。Milan に比べると知られていないが、現代音楽を聴く人 ならば Arditti String Quartet の一連の演奏や John Cage や Morton Feldman の 作品のリリースで知られる Auvidis / Montaigne の姉妹レーベルといえばピンと くるかもしれない。 _ _ _ Jean Cocteau の映画といえば、「コクトー全集」(東京創元社) を読破したのを 契機に、高校から大学にかけての頃に「全部観るぞ!!」と心に誓っていたことも あって、妙な思い入れがあるのかもしれない。結局、88年に三百人劇場であった 記念映画祭で監督作品については中編を除く6本については達成したのだが。 そんなことも、半ば忘れかけていたのだが、このCDのおかげですっかり思い出して しまった…。 「ローマの休日 "Roman Holiday"」も Georges Auric の映画音楽の中では好き なのだが。大学2年のとき語学の教材としてさんざん観させられたときに音楽が 気になったのでチェックしたら Auric だったのは、驚きだった。で、Auric って いいよねー、とかあの頃よく言ってたら、その当時の女友達の一人がくれたのが "Satie et Les Six" と題された作品リスト[2]だった。A4大で厚さ5mmくらいある 力作なのだが。コンプリートではないような気もするが、編成まで載っていて とても面白い。作曲家紹介の記事や年譜のようなものは無いのだが、作品リスト からある程度読みとれるし、Satie や Les Six の場合、題名だけみていても楽しい。 そもそもこれが売り物なのか、今でも版を重ねていて入手可能なのか、よくわから ないのだが、資料として今でも非常に重宝している。Erik Satie や Les Six に 興味がある人は探してみるといいかもしれない。 参考文献: [1] ケイブルホーグ編: 生誕100年記念−ジャン・コクトーの世界, 映画パンフレット, 1988. [2] 日本楽器池袋店楽譜係編: Satie et Les Six, 作品リストパンフレット, 1986. 97/1/25 嶋田 "Trout Fishing in Japan" 丈裕