映画音楽を映画の中で使われている状態で収録しているシリーズ Le Cinema Ca S'Ecoute / Movies To Listen To が生きるのは、こういう喜劇作家こそなの かもしれない。 Jacques Tati "Le Cinema Ca S'Ecoute - Les Compositeurs De Jacques Tati" (Auvidis / Travelling, K1504, '95, CD) Monsieur Hulot で知られるフランスの映画監督・俳優 Jacques Tati (1908-1982) が監督・主演したコメディ映画4本の音楽・ダイアログ・効果音を収録したもの。 収録されたのは以下のとおり。 1-6) "Jours De Fete" 「のんき大将・脱線の巻」 (un film de Jacques Tati, 1959) 7-11) "Mon Oncle" 「ぼくの伯父さん」 (un film de Jacques Tati, 1958) 12-17) "Les Vacances De Monsieur Hulot" 「ぼくの伯父さんの休暇」 (un film de Jacques Tati, 1953) 18-21) "Playtime" 「プレイタイム」 (un film de Jacques Tati, 1967) Philipps から出ている original soundtrack と収録されている映画と同じなのは、 版権のせいだろうか。ちなみに、"Jours De Fete" を除いて Monsieur Hulot シリーズだ。 音楽よりもふんだんに収録されている効果音が面白いCDだ。特に "Les Vacances De Monsieur Hulot" が面白い。休暇に向かう駅の雑踏の中でもごもごいって 聞き取れない駅の案内放送、Hulot の車のバリバリと壊れそうな走行音、海岸 ホテルに着いたときの風が扉からふきこむ音、食堂での様々な音、みながラジオに 聴きいっているときおもいきり騒々しいレコードをかけるのだが電源を切られて 脱力するその音楽、テニスのカシーンという音、などなど聴いているだけで笑い 出してしまう。"Jules De Fete" での蜂の羽音や、"Mon Oncle" での超モダンな 家の家電製品の音も悪くないが。しかし、音だけなら "Les Vacances Du Monsieur Hulot" が格段に面白いというのは発見だった。 そう、これを聴いていて改めて思わされたのは、不自然なまでに過剰な記号に 溢れた音世界だ。風が吹けばビューといい、ドアが閉まればバタンといい、 テニス・ボールを打てばカシーンという。もちろん、Tati はこの記号を極端に 用いることによって、ギャグにしているのだが。こういう「大袈裟さ」は、向きは 違うとはいえ Jean Cocteau / Georges Auric の映画にも繋がるとも "Le Cinema Ca S'Ecoute" を聴いていても思うが。映画がリアリズムに足をすくわれてしまった のは、いつなのだろう…。 97/1/25 嶋田 "Trout Fishing in Japan" 丈裕