Arnaldo Antunes "Nome" (BMG Brasil, 3-01500, '93, VHS) から3年、僕が見た MPBの未来はどうなってしまったのだろうか? 去年末に Marisa Monte の新作と 前後して買っていたのだが、納得いかずに悶々としていたこの2枚を。 Arnaldo Antunes "O Silencio" (BMG Brasil, 7432139014-2, '96, CD) - Arnaldo Antunes (vo), Edgard Scandurra (g), Paulo Tatit (b), Pedro Ito (ds), Zeba Moreau (key); Mitar Subotic (sampler), Peter Price (perc), etc - Produzido por Mitar Subotic Liminha (ex- Mutantes) 制作の前作 Arnaldo Antunes "Ninguem" (BMG Brasil, 7432126593-2, '95, CD) に続くこの新作は、前作同様 rock / pop 色濃いものだった。 が、曲の旋律やアレンジがどうも古臭く − Antunes がかつて在籍した Titas も そうだったが、ちょっと前の欧米の new wave みたいなのだ −、面白いものとは とうてい言えないものだ。 メンバーは "Nome" 以来変わらないのだが、"Nome" のセッション的な面がパーマ ネントなバンドになったとたん失われ、その rock / pop 的な形式に足をとられた とでもいったところか。 それとも、Arnaldo Antunes は詩はいいかもしれないが、曲作りの能力に欠ける のか。彼に必要なのは、詩に見合った音を作ることができる人だろう。"Nome" の ときの Arto Lindsay のように。 そういう意味では、"Nome" の後を引き継いでいるのは、こちらか。 Edgard Scandurra "Benzina" (Rock It! / Virgin Brasil, 813420-2, '96, CD) - Edgard Scandurra (vo,vln,g,plug), Marisol Jardim (vo), Andrei Ivanovic (b), Mitar Subotic (key,programming), Denis Feres (ds); Jorge Pena (perc), Clarissa Maiorino (palmas), Cristina Velasco (palmas), Arnaldo Antunes - Produzido e Gravado por Mitar Subotic Arnaldo Antunes のバンドのギター奏者 Edgard Scandurra のリーダー作 は、 Antunes 同様 Mitar Subotic 制作。Antunes も数曲で詩作で参加している。 drum'n'bass からストリングも入る感傷的な旋律のアコステックな曲まで。 女性歌手も使ったりといろいろやっている分だけ聴きやすいか。 やはり、Arnaldo Antunes "O Silencio" と同じく、new wave を思いださせる ような雰囲気を持っている − 制作が同じということもあるのだろうが。 Edgard Scandurra の方が drum'n'bass の導入など、足どりは軽そうだが。 しかし、あの衝撃的な "Nome" があるだけに、もっと凄いことができるだろう、 と思ってしまうのだ。3年前に見た未来はなんだったのだろうか。 _ _ _ 是非ともこの作品を聴いて・観て欲しい (といっても、今や入手困難だが) ので、 関連する情報も併せて改めて軽く紹介。 Arnaldo Antunes "Nome" (BMG Brasil, 3-01500, '93, VHS) - Realizacao by Arnaldo Antunes, Celia Catunda, Kiko Mistrorigo, Zaba Moreau (BMG Brasil, M30.072, '93, CD) - Produzido por Arnaldo Antunes, Paulo Tatit e Rodolfo Stroeter - Arnaldo Antunes, Paulo Tatit, Rodolfo Stroeter, Ze Eduardo Nazario, Peter Price, Edgard Scandurra, Marisa Monte, Arto Lindsay, Zeba Moreau, Pericles Cavalcanti, Joao Donato, etc Titas の Arnaldo Antunes は、Titas 解散後、しばらく詩人として活動していた のだが、その後に手掛けた詩と音楽と映像によるプロジェクト。 Arnaldo Antunes の詩の叫びと Marisa Monte の歌声と、断片的な旋律/リズムと、 非音楽的な音響と、凝ったタイポグラフィの詩の字幕と、映像からなる、マルチ メディア・コラージュだ。衝撃的な名作だ。Brazil の video art を代表する 作品といっていいのかもしれない。 "LEONARDO - The Journal of the International Society of Arts, Science and Technology" という MIT Press の雑誌の '95 Special Project (Issue?) に、 "A Radical Intervation: The Brazilian Contribution to International Electronic Art Movement" というのがあるのだが、その中の Arlindo Machado "Video Art: The Brazilian Adventure" という論文の中で Arnaldo Antunes "Nome" が紹介 されている。 メディア・アートの動向に興味ある人は、"LEONARDO" は一読の価値がある雑誌 だろう。是非参照してみてほしい。これらは、WWWで参照できる。 LEONARDO http://www-mitpress.mit.edu/Leonardo/leohome.html LEONARDO / Brazilian Electronic Art http://www-mitpress.mit.edu/Leonardo/isast/spec.projects/brazil.html LEONARDO / Brazilian Electronic Art / Video Art: The Brazilian Adventure http://www-mitpress.mit.edu/Leonardo/isast/spec.projects/machado.html Arnaldo Antunes を含む Brazil の現代詩の紹介としては、 An Introduction to Modern Poetry in Brazil http://wwwl3.crl.com/~brazil/poesia.html が参考になる。その他、文学、ポピュラー音楽などの紹介もあり、 Brazilian Culture http://wwwl3.crl.com/~brazil/ が参考になるだろう。 しかし、この "Nome" が日本でちゃんと紹介されないのはどうしてだろう。 "Nome" を上映しようという気概のある美術館/画廊はないのだろうか? 97/3/3 嶋田 "Trout Fishing in Japan" 丈裕