UKの現代音楽を概観するのにお手頃なCDが2枚別売りで出ているので紹介したい。 といっても、僕も詳しいわけでないので、簡単に。 Various Artists "Century XXI UK A-M" (New Tone, NT6750-2, '96, CD) - 1)Re-Mix (Steve Martland) 2)Flak (Graham Fitkin) 3)Drowning (Orlando Gough) 4)Euthanasia (John Godfrey) 5)Canta (David Cunningham) 6)The Swim (Laurence Crane) Various Artists "Century XXI UK N-Z" (New Tone, NT6751-2, '96, CD) - 1)Waltz (Michael Nyman) 2)Oppenheimer (Jocelyn Pook) 3)Lullaby (Howard Skempton) 4)Poems And Toccatas No. 10 (Andrew Poppy) 5)Deadwood (Jeremy Peyton Jones) 6)Darwin (Nicholas Wilson) 7)Cri/Me (Glyn Perrin) 8)Spire (John Stanley) 1枚目の前半は、Louis Andrissen school といった感じだ。 まずは、Steve Martland の代表作 "Re-Mix" の Icebreaker による未発表演奏。 続いて Graham Fitkin "Flak" は、もともと Factory からリリースされていた 音源。Martland も Fitkin も、Holland の現代音楽家 Louis Andrissen に師事 しており、かつて Factory から作品を出していたという共通点がある。 90年前後、Factory はこの界隈の現代音楽のリリースを積極的に行っていた。 ちなみに Factory から出ていたのは、以下のとおり。 Steve Martland "Babi Yar / Drill" (Factory, FACD266, '89, CD) Steve Martland, Sarah Morris "Glad Day" (Factory, FAC306, '90, 12") Steve Martland "Crossing The Border" (Factory, FACD366, CD) Steve Martland "Wolfgang" (Factory, FACD406, CD) Graham Fitkin "Flak" (Factory, FACD346, '90, CD) ちなみに、Steve Martland のアルバム 3 枚は Catalyst (BMG傘下の現代音楽の レーベル) から再発されている。Graham Fitkin の "Flak" は再発されていないと 思うが、作品は Argo (Decca 傘下の現代音楽のレーベル) から出ている。 Icebreaker も Louis Andrissen "De Snelheid" (Icebreaker "Terminal Velocity" (Argo, 443 214-2, '94, CD) 所収) を演奏するために結成された現代音楽の楽団だ。 音列 (serie) 主義や John Cage らの不確定性 (indeterminacy) やミニマリズムと いったいかにも「現代音楽」というのとは違って、引用の音楽というか ("Re-Mix" という題など象徴的。) 折衷的な作風がポストモダン (笑) か。聴きやすい。 classic music, post-punk, jazz の影響とライナーに書かれているが、post-punk というのは Factory 〜 Les Disques Du Crepuscule 界隈で、jazz というのは Willem Breuker Kollektief や I.C.P. のことですね、たぶん。 Orlando Gough は元 The Lost Jockey, Man Jamping で、80年代は Les Disques Du Crepuscule からミニマルな感じの作品を出していた。収録された "Drowning" は、 "Savage Water" というダンスのための曲の一部で、残りは Bruce Gilbert (ex- Wire) が書いたそう。併せて聴いてみたかった。やはり反復が基調だが、サンプリングを 使ったりしてポップだ。最近は Catalyst からリリースがある David Cunningham は元 The Flying Lizards 、Michael Nyman のプロデューサーと しても有名。この "Canta" は、David Cunningham "Voiceworks" (Piano, PIANO505, '92/'96, CD) 所収。声のサンプリングをぐちゃぐちゃにいじったのが、気持ちイイ/ ワルイ作品だ。 2枚目の頭は、Peter Greenaway の映画音楽で知られる Michael Nyman の "Waltz"。 The Michael Nyman Band の演奏する優雅なワルツ "Waltz in F" に、反西洋近代的な Peter Broetzmann の暴力的にぶっとい bcl & ts と Evan Parker の循環ブレス ss ピロピロ音が殴り込みをかける、という趣向で、とても笑える作品。もともと、 Michael Nyman "Michael Nyman" (Piano, '82) で出ていたもの。再発してくれま せんかね。> David Cunningham / Piano Records ちなみに、この編集盤の第一、二集が、"A-M"、"N-Z" となっているのは、Peter Greenaway "Some Organising Principle" (The Glynn Vivian Art Gallery, '93) に 基づいているとのこと。 唯一の女性 Jocelyn Pook の "Oppenheimer" は歌モノ。Glyn Perrin "Cry/Me" の 音声モノのほうが人工的でおもしろいか。Andrew Poppy は ZTT からも作品を出して いた人だが、ここの作品はそれとは違うクラシカルなもの。 最後の John Stanley "Spire" の marimbas のソロがいいなと思ったら、Steve Martland に師事していたらしい。本人の弁によると、marimbas による人力 techno。 Steve Reich "Sex Marimbas" (Nonsuch, 9 79138-2, '86, CD) よりシンプルで 可愛らしい。 もちろん、この編集盤にも抜けはあり、ライナーに挙がっている残念ながら収録 できなかったアーティストのリストから、これだという人を拾っても、Alexander Balanescu (The Balanescu Quartet)、Gavin Bryers、Brian Eno、Simon Fisher Turner、Dave Smith (The Smith Quartet)、David Toop、Kevin Volans がいる。 としても、ライナーノーツもしっかりしているし、音としても楽しめるものが多い。 UKの現代音楽の入門として良いCDだろう。 97/3/9 嶋田 "Trout Fishing in Japan" 丈裕