去年後半から Everything But The Girl の "Walking Wounded" (ebtg / Virgin, CDV2803, '96, CD) や "Missing" (Eternal / Blanco Y Negro, NEG84CD, '95, CDS) が自分のCDプレーヤーでヘヴィーローテーションしている TFJ です。 "Missing" や "Walking Wounded"、"Wrong"、"Before Today" を大音響で聴き ながら踊りまくりたい、と思い Everything But The Girl のライブへ行った。 Everything But The Girl 赤坂 Blitz 97/3/26, 19:00-22:00 開演時間の19時から遅れること15分余り、まだロビーには人が溢れていた。まだ 前座のDJか、と思って会場に入った。中は Photek、Source Direct や No U Turn 一派のやりそうな dark core な drum'n'bass が響いていた。立席のフロアは 人でいっぱいだが、体を揺らすくらいの余裕はあった。が、誰も踊っていない。 音が小さいからかな、と思いつつフロアの中央の方へ人を分けて進んでいるとき、 DJ が Ben Watt だということに気付いた。Everything But The Girl の曲からの ブレイクを折り混ぜながらプレイするも、周囲の誰も体も揺らそうとしないのだ。 45分頃終わり Ben はステージを去るときレコードを掲げて挨拶したとき、踊りも してなかったのに盛大な拍手をする客。いやな予感がした。 暫くの休憩の後、20時からライブが始まった。Ben Watt & Tracey Thorn に Martin Ditcham は "Amplified Heart" (Blanco Y Negro, 4509-96482-2, '94, CD) での perc/ds。さすがに Danny Thompson ではなく黒人ベース奏者だったが。 この4人の編成。Tracey は透けた白いブラウス (下は黒のブラジャー) に黄/橙の スカートという服装で、きしゃな体でゆらゆら漂い泳ぐようにたよりなげに踊り 歌う姿が、声質と妙に不釣り合いなのが印象的だった オープニングは drum'n'bass な "Big Deal" ("Walking Wounded" 所収) だが、 誰も踊り出そうとはしない。確かに音圧が低くてあまり気持ちいい音ではないが。 DJタイムでは周囲に合わせておとなしくしていたが、もう周囲の迷惑も省みず 踊り出す。Howie B との共作曲 "Flipside" では、客が踊らず手拍子を始めようと する始末だ − が、それも盛り上がらない。 曲はアンコールを含めて、最近二作 "Walking Wounded" と "Amplified Heart" からが中心。それより前の作品は Todd Terry remix のシングルが出ている "Driving" ("The Language Of Life" (Blanco Y Negro, '90) 所収) をもちろん house 流儀で。あとは、"Idlewild" (Blanco Y Negro, BYN14, '88, LP) − "Amplified Heart" と雰囲気の似た軽いダンス・ビートも使っている作品だ。 僕はそれが気にいって、これは当時に買っていた。 − から3曲のみ。Massive Attack での客演曲 "Bitter Things" ("Protection" (Wild Bunch, WBRCD1, '94, CD) 所収もやったが。80年代後半から90年代初頭にかけて Everything But The Girl から遠ざかっていたので、知らない曲も多いだろうと思っていただけに、 知っている曲ばかりで嬉しかった。 "Eden" (Blanco Y Negro, BYG1, '84, CD) や "Love Not Money" (Blanco Y Negro, BYG3, '85, LP) の頃の曲は、半端な形でやるくらいなら演奏して欲しくなかった、 ということで期待していなかった。実際、やらなくて良かったと思う。 確かに "December 25th" ("Amplified Heart" 所収) や "The Night I Heard Caruso Sing" ("Idlewild" 所収) のような歌を静かに聴かせるときもあったが、 明らかにダンス志向の選曲。"The Night I Heard Caruso Sing" の Ben の独唱の間 下がっていた Tracey が出てきてからの "Walking Wounded" 〜 "Missing" の あたりからは音も少し大きくなってだいぶ良くなってきたのに、それでもほとんどの 人がせいぜい軽く体を揺らす程度。踊ろうとすると、周囲の立ちつくしている人が 邪魔だ。まあ、向こうも踊っている僕を邪魔だと思っているだろうから、お互い様 だろうが。結局、最後の "Wrong" まで、ほとんどの客がろくに踊り出すことなく 終わってしまった。 アンコールは "Mirror Ball" ("Walking Wounded" 所収) と "I Always Was Your Girl" ("Idlewild" 所収) をしっとり歌って聴かせておしまい。 思いっきり踊りまくりたい、と思っていたが、しかし、音圧が気持ちいいほどは 無かったし、周囲に立ち尽くす客たちで取りかこまれてしまい、踊りまくれな かった。選曲も、演奏も Tracey の歌声も良かっただけに、妙な欲求不満になって しまった。あともう少し音が大きかったら、踊りまくれる空間があったら!! 初期の頃の曲も「おしゃれなAOR」的な頃の曲もほとんどやらずに最近のダンス 志向の曲を中心に据えた Everything But The Girl と、客の間に妙なスレ違いを 感じたライヴだった。確かに、彼らがポピュラリティを得たのは "The Language Of Life" や "Worldwide" (Blanco Y Negro, '91) といった作品でであり、 彼らにこのような音楽を期待している聴衆が一番多いのだろう。実際、Everything But The Girl 以外では drum'n'bass や house を聴いたこともなさそうな客が ほとんどだった。終わった後、ロッカーの所で「やっぱり歌がないところはダメぇ」 とコンサバなファッションのOL風の女性が言っているのを、耳にしてしまったし。 もしかしたら日本だけのことかもしれないのだが、今の Everything But The Girl は中途半端な位置にいると思う。ダンス志向でありながら、「おしゃれなAOR」的な ファンを引きずってしまっている。そして、「おしゃれなAOR」的な音ではない ダンス志向の彼らに僕は期待している。今の彼らがすべきなのは、こうも引き ずってしまっているファンをぶっちぎってしまうくらい過激な remix 作品を作る ことではないか、と僕は思う。 97/3/27 嶋田 "Trout Fishing in Japan" 丈裕