Evan Parker - Sainkho Namtchylak "Mars Song" (Victo, CD042, '96, CD) - Recorded 96/5/15 - Evan Parker (ss,ts), Sainkho Namtchylak (vo) 循環気法を濫用して起承転結を排したかのようなフレーズをピロピロ吹き続ける Evan Parker と、khoomei (throat singing) を含む非「人間」的な声を発し続ける Sainkho Namtchylak の2人の火星人 (Evan Parker は UK 出身、Sainkho Namtchylak は Tuva 出身だが。) が、火星の歌で地球=西洋近代にマーズ・アタック(崩)。 というのは、このCDを手に取ったときに頭を過った妄想だ。ちょっと陳腐で書いて いてくらくらしたが。で、ちょっと恐くてしばらく手を出しかねていたのだ。結局、 聴いてしまったが、この妄想からあまり外れていなかった。良く言えば期待を裏切ら ない出来だが、悪く言えばありがちな展開。 Evan Parker の soprano sax と tenor sax を交互に持ち替えてひたすらミニマルな 感じでピロピロやっているのは、96/5/1の世田谷美術館でのライヴと同じよう。 と、録音を見たらその2週間後だった。 対する Sainkho Namtchylak だが、どうもいい声が出ていないような気がする。 僕が持っている彼女の作品 Sainkho "Out Of Tuva" (CramWorld, CRAW6, '93, CD) と Sainkho Namtchylak "Letters" (Leo, CDLR190, '93, CD) では、もっと通る 声が聴かれるのだが、この "Mars Song" では喉をかするような声や地声が多用 されている。 Jorge Luis Borges に捧げされた "Time That Other Labyrinth" のラスト近くの soprano sax vs khoomei 対決あたりは気にいっているので、もっとこういう瞬間が あればいいのだが。美術館のような所で生で聴いたら、面白いような気もするのだが。 というわけで、火星人 (なんていないって) 向けといったところか。 _ _ _ 買った直後の帰途上CD WalkmanにこのCDをセットして聴いていたのだが、五反田の 東急ストアの生鮮食料品売場で夕食用の食材をみつくろっていたときに、ふと我に かえって、というか、正気・現実に戻って、いうか、そんな感じになってしまい、 どうして「ピロピロ/あ〜う〜」いってるCDをこういうこんなところで聴いてるん だろう/どうして僕はここでこんなことしているのだろう、というか、妙におかしく なってしまい笑いだしてしまった。そういう日常的な状況を異化する強烈な力は あるかもしれない。 そういえば、以前に jazz ML の宴会を Mary Jane でやったときに、Sainkho Namtchylak をかけたら、会話が止まってしまったということがあった。彼女の 声も抽象的なようでやはり人の肉声なのだなあ、と実感した瞬間だった。 97/4/1 嶋田 "Trout Fishing in Japan" 丈裕