Squarepusher "Hard Normal Daddy" (Warp, WARP50CD, '97, CD) - 1)Coopers World 2)Beep Street 3)Rustic Rauver 4)Anirog D9 5)Chin Hippy 6)Papalon 7)E8 Boogie 8)Fat Controller 9)Vic Acid 10)Male Pill Part 13 11)Rat / P's And Q's 12)Rebus Squarepusher "Vic Acid" (Warp, WAP90CD, '97, CDS) - 1)Vic Acid (Hard And Normal Mix) 2)Lone Raver (Live In Chelmsford Mix) 3)Fat Controller (G7000 Remix) 4)The Barn (303 Kebab Mix) drum'n'bass がその名の通り、高速の打ち込みパターンと緩いダブ流儀のベース ラインの拮抗によって、その強調された時間的空間的多層性を形作るものである としたら、Tom `Squarepusher' Jenkinson が作る音は "Feed Me Weird Things" (Rephlex, CAT037CD, '96, CD) の時点で、自から言うまでもなく、すでに drum'n'bass とは言えなかったのかもしれない。なぜなら、複雑怪奇な高速打ち 込みに拮抗するような意味でのベースラインはすでに無いからである。Tom Jenkinson の生演奏のベースは、打ち込みの時間の流れに逆行するものではない。 にもかかわらず、Squarepusher の音は多層的である。それは、free jazz 以降の ベース抜きのトリオ構成 − 例えば、サックス、ピアノ、ドラムのような − にも似ている。それぞれの音の構成要素は、拮抗するというより、まるでフリー ドラミングのような打ち込みに促され距離が絶えず変化するのだ。新作で言えば "Papalon" のような展開の曲がありうる − その出来の良し悪しは保留すると して − のは、まさに、このような音構造ならでは、だと思う。そして、それは drum'n'bass というより drum'n'bass 以降なのかもしれない。 前作 "Feed Me Weird Things" の魅力は、そういう各パートが装飾無しに衝突 していることだった。それに対して、この "Hard Normal Daddy" では、なかり 装飾といえるものが増えている。確かに、そこに新しい展開を見出しているの かもしれない。しかし、この新作の物足りない点は、そこでアウトな音やリズムを 感じさせない所である。そのかっちりした展開が、以前ならフリードラミングに 聞こえた打ち込みがを、単なるフィルインにしてしまっている。 "Rustic Rover" や "Chin Hippy" のような、むき出しなフリーな曲の方が、 だから魅力的だ。そういう意味では、ズブズブに歪んだキーボードの音も アシッドなうえスクラッチ音も派手な "Fat Controller" や題名からしての "Vic Acid" など、「フリーキートーン」をうまく使った曲をシングル・カット したのは正解だとも思う。 Squarepusher のこの流れを聴いていると、Anthony Braxton, Dave Holland, Barry Altschul と素晴らしい free jazz アルバム Circle "Paris Concert" (ECM, ECM1018/19, '71, 2LP) を出したその直後に fusion の名作 Chick Corea "Return To Forever" (ECM, ECM1022, '71, LP) を出した Chick Corea を 思い出してしまう。 そう、まさに曲の仕上がりからしてもそうなのだが、70年代電化 Miles Davis や Miles Davis Band から生まれた Weather Report や Return To Forever への 流れに近いものも感じてしまう。これも、post - 60s free の試みの一つの帰結 なわけだが。しかし、Miles Davis は75年に引退し、他は緊張感を"洗練"で 置き換えた fusion になっていく…。 奇麗な曲に仕上がっていて楽しめないわけでないが、曲の展開が読めないと 思わせるようなワクワクするような所が無い。もう、この先には"洗練"しか 無いとも思う。これが、このアルバムを聴いていて、「もう終わっているかな」 という感じる理由だ。 Rubber Johnny "Jamrolypoly" (Warp, WAP91CD, '97, CDS) - 1)DrumRolyPoly 2)Dickie's Magick Poppers 3)Pocket Drums 4)Trouser Snake それに比べて、Richard `Aphex Twin' James の変名ともいわれる Rubber Johnny の シングルは、飾り気なしに骨格むき出しな分だけ、ビートの複雑さ − 実際は Squarepusher のものとあまり変わらないのだが − が映えている。 しかし、こういう展開も逆の意味で予定調和なのではないか、とふと思ってしまう。 もはや、"Squarepusher Theme" を初めて聴いた感動をこの界隈から求めるのは もう無理なのかもしれない。 97/5/17 嶋田 "Trout Fishing in Japan" 丈裕