去年から噂になっていた CD がついにリリースされた!! Jean-Luc Godard "Nouvelle Vague" (ECM, ECM1600/01, '97, 2CD) - Digitally remixed by Francois Musy. Album procuded by Manfred Eicher - Dino Saluzzi, Paul Hindemith, Arnold Schoenberg, Paul Giger, Patti Smith, Meredith Monk, Heinz Holliger, Werner Pirchner, Alain Delon, Domiziana Giordano, Roland Amstutz, Laurence Cote Jean-Luc Godard の映画 "Nouvelle Vague" ('90) の音をCD 2枚に収めたもの。 音楽だけでなく会話や効果音を含めて全て収録したもの。Audivis / Travelling の "Le Cinema Ca S'Ecoute" シリーズにも似ているが、代表的なシーンだけで なく、全シーンを収録しているのだ。 映画 "Nouvelle Vague" は、Patti Smith "Distant Fingers" ("Radio Etiopia" (Arista, '76) 所収) を除いてほとんど ECM の音源のみを soundtracks として 使っていたことで知られていたので、このように CD の良い音で聴かれるように なったのは嬉しい。 商業映画に復帰してからの最近の Godard の映画は、Francois Musy による凝った 音編集処理が特徴なだけに、CD 化によって、その凝った音世界に焦点を当てて 楽しむことができる。唐突にしかし計算しつくされたかのように出入りする音が、 カットアップ的というより、ダブ的に階層を取り外されて並立している。 音楽と会話と効果音 (カラスの鳴き声や車の音) が対等に扱われているのだ。 確かに仏語の聴きとりができない者にとっては厳しい面があるが、− 言葉が わかれば、もっと面白いのだろうとは思う。− それでも、このCDは 音として 楽しめるのは、Musy の音処理だけでなく、もともとの Godard の映画が物語を 追うこととは違う点で面白い形式的な面の強い映画だからだと思う。 ECM ならではの凝ったパッケージも嬉しい。CD ケースと独立したブックレットを 収めた箱入り。CD ケースのブックレットには、最近の Godard ならではの美しい 映画のスチル写真を何枚か見ることができる。しかし、興味深いのは、独立した ブックレットに載っている Claire Bartoli による文章。(仏語。独英語訳付き。) なんと、彼/彼女は23歳で視覚を失った人なのだ。 といっても、やはり映像付きで楽しみたいとも思う。実際、これを聴いていると、 ふとシーンが目に浮かぶことがある。実は、僕はこの映画のヴィデオを ECM の 音楽ヴィデオとして B.G.M. / B.G.V. に家でたまにかけることがある。 ヴィデオの音質画質がいまいちだし、CD なら気軽にどこでも聴かれるという 利点があるのだが。 実は、これは、いきつけのジャズ喫茶 (Mary Jane) で、このCDを実際にかけて もらいながら書いていた。こんなCDを持っていってかけてくれと頼む方もなんだが、 それを2枚ともフルにかけてしまうジャズ喫茶というのもすごいとは思う。 しかし、良いサウンドシステムで聴いていると「聴く映画館」といった具合で、 実に面白い。少ないながら他の客の反応もなかなか。ディスプレィしてあった ジャケットを手に取る客はもちろん、「いつもと違う雰囲気だけど、いいね。」 と言ってくれた客もいた。というわけで、B.G.M. としてもお薦め。 最近の Jean-Luc Godard の映画の音楽といえば、Les Rita Mitsouko "The No Comprendo" (Virgin, '86) を使った "Soigne Ta Droite" ('87) も、とても 面白い音作りだった。この映画も、"Nouvelle Vague" のような soundtracks を リリースしてくれないものだろうか…。 97/5/31 嶋田 "Trout Fishing in Japan" 丈裕