フランス極右政党反対+総選挙左派勝利祝勝企画、第三弾。 Miossec "Baiser" (Play It Again Sam, PIAS351CD, '97, CD) - 1)La Fidelite 2)Une Bonne Carcasse 3)Ca Sent Le Brule 4)Je Plaisante 5)Le Celibat 6)Le Mors Aux Dents 7)Tant D'Hommes (Et Quelques Femmes Au Fond De Moi) 8)L'Infidelete 9)On Etait Tellement De Gauche 10)Juste Apres Qu'il Ait Plu 11)La Guerre 12)Le Criterium 13)Salut Les Amoureux - Production: Bruno Green, Yves Andre Lefeuvre, Guillaume Jouan, Christophe Miossec - Olivier Mellano, Christophe Miossec, Yves Andre Lefeuvre, Guillaume Jouan, Christophe LeBris "Oh mon amour, mon amour, je creve de ne pouvoir te toucher / Oh mon amour, mon amour, je creve de ne pouvoir te BAISER" (「君に触れられない のがたまらない/君とキス (セックス) できないのがたまらない」) という 一曲目 "La Fidelite" (「貞節」) の印象的なリフレインから題がとられた Miossec の新作。 Christophe Miossec は、France 北西部というか Bretagne の最西端 Brest 出身。95年に Belgium のレーベル Play It Again Sam から Gilles Martin (Crammed Discs で Minimal Compact など多くのバンドをてがけてきている。) の制作の Miossec "Boire" (Play It Again Sam, PIAS311CD, '95, CD) で デビュー。 (フランス語で歌っているとはいえ、Bretagne 出身で Belgium からリリースしているバンドを、France のバンドといっていいのだろうか…。) しかし、このドラムレスのトリオ構成に Blaine L. Reininger らをゲストに 迎え Bruxelles で録音された "Boire" は、繊細な folk rock いった感だが、 なんともとりとめの無い出来だった。歌詞が良いとは言われているが (しかし、 いわゆる "post-punk love song" でなないような…。) 、フランス語では いかんともしがたいし。というわけで、この2ndは全く期待していなかった。 歌詞については保留するところがあるとしても、ドラムが加わり音の輪郭が はっきりした − 初期の McCarthy のような 80s 中ばの UK のギターバンド のよう − ことだけでなく、"La Fidelite" での "Oh mon amour,..." や "Tant D'Hommes (Et Quelques Femmes Au Fond De Moi)" (「あまりに多くの 男とわずかばかりの女」) での題とおりの歌詞の、Miossec の英米の pop / rock ではあまり聴かれない独特の抑揚と声質で歌われるとても印象的なリフレイン − 前作にはあまりなかった − が、この新作の魅力だ。fiddle 的に フィーチャーされる violin や violincello の響きも緊張感を加えてくれる。 繊細さと辛辣さ、英米の最近の indie rock / pop でもあまり耳にできなく なっていたこの感覚を耳にすることだできるだけでも、このアルバムは成功 していると思う。 Miossec はラヴソングを主に歌うのだが、前作 "Boire" でも移民排斥 Pasqua - Debre 法に無関心な人々に注意を呼びかける "Regarde Un Peu La France" (「少しはフランスを注意しろよ」) という歌を歌っていた。この "Baiser" なら、 "On Etait Tellement De Gauche" (「人々はあんなに左翼だったのに」) だ。 「僕らの思想がどうなってしまったかみるのは滑稽なことだ "C'est drole de voir ce que nos pensees sont devenues"」と歌いだされるこの歌は、 Mitterand 左派政権後の右派の Chirac 大統領の下で急激に右傾化した France 社会を歌ったものだ。この歌では「だから人々は手をポケットに つっこんだまま、拳を握りたいとさえ思わない。"Alors on laisse nos mains dans nos poches, meme plus envie d'avoir le poing tendu"」と歌われる のだが。しかし、この6月1日の総選挙では左派が圧勝し、右派の Chirac 大統領の下、左派の Jospin 内閣が成立した。ポケットにつっこんだ手で 拳は握らなかったかもしれないけれども、移民排斥法をはじめ極右まがいの 政策を展開した右派政府に批判票を投じるくらいのことはした、ということ なのかもしれない。 Miossec は Dominique A らと、nouvelle chanson と呼ばれれており、 Pops Francaises の新しい動きとして注目されている。Dominique A の新作 Dominique A "La Memoire Nevve" (Lithium, '97) や、Autour De Lucie "Immobile" (Le Village Vert, '97) の制作も Gilles Martin であり、 新しい動きの鍵にもなっている。また、independent labels をベースに活動 しているという特徴もある。「人々があんなに左翼だった」 Mitterand 時代 なら Barclay のようなメジャーからリリースされていたかもしれないし、 そもそもそんな音は出てこなかったかもしれない。まさに、Chirac 時代 ならではの Pops Francaises なのかもしれない。かつて、Greil Marcus は "Real Life Rock" の1980年のTop 10で、 「右手で失業とインフレを高くもちあげる一方、もうひとつの右手で社会 福祉を切り払い、かつ「白人ならよろしい」という移民政策を押しつけて、 サッチャーは危機意識あふれる音楽を興隆させた。」 -- Greil Marcus [1] として、当時の UK の首相 Thatcher にMVPを与えている。僕はこれに倣って France の Chirac 大統領に97年上半期のMVPを与えたいと思う。しかし、 Greil Marcus はさらにこう続ける。 「PILの悪疫ディスコからビート (The English Beat) の用心ポップに至る まで、その音楽では批判のエネルギーは権力に対してだけ向けられている のではなく、ポップ自体の誘惑的な保守性にも向けられていた。」 -- Greil Marcus [1] Miossec や Dominique A だけでないが、France から出てくる pop を聴いても、 後者まで批判のエネルギーが充分に届いているように感じられないのが、 少々気になるところではあるのだが…。 [1] グリール・マーカス: 1980年トップ10 in ロックの「新しい波」, 晶文社, 1984 97/6/8 嶋田 "Trout Fishing in Japan" 丈裕