(Noel Akchote 曰く)「僕は IRCAM で Pierre Boulez が始めたプロジェクトの 下で働いてきたんだ。コンピュータと即興演奏できる人を探す時間はいくらでも あったし。それは良いことだし、実際、僕は Sub Rosa や Mille Plateau レーベルが好きなんだ。だって、彼らは中間に位置しているだろ。彼らは、 良い Techno 的なものや良い IRCAM 的なものをなんとか使って、僕らが生きて いる時によりぴったりくる音楽を作っている。IRCAM は国立だし、そこにいれば そのことを実感するだろう。彼らは、Techno のような音楽をやることも、 そのレコードを実際にリリースする必要も感じていない。ちょっとそれは 非現実的だ。」 Mille Plateau から僕たち (Noel Akchote と Will Montgomery) は90年代の 音楽における反復の重要性をについて語り始めた。それが、彼のソロ即興の アルバムでの演奏のいくつかにおける痙攣的な形態の中に明らかにみられる ものであるのは、確かだ。 -- Will Montgomery (1997) [1] Experimental Audio Research "The Koener Experiment" (Mille Plateau, CDMP37, '97, CD) - Produced by Thomas Koener and Porter Ricks - Sonic Boom, Kevin Martin, Eddie Prevost, Kevin Shields; Thomas Koener, Andy Mellwig Sonic Boom (ex- Spacemen 3), Kevin Martin (Techno Animal), Eddie Provost (AMM), Kevin Shields (My Bloody Valentine) という顔合わせも興味深いプロジェクト E.A.R. の最新作 (おそらくアルバムは3枚目) は、Frankfurt のレーベル Mille Plateau から。 レーベルからもある程度想像できるのだが、音はある意味で「音響派」と言われる ものである。ある意味で、メロディやリズムがなかり擦り切れた音楽である。 sax (Kevin Martin)、percussion (Eddi Provost)、treated guitar (Kevin Shields) といったものがクレジットされているが、その楽器の"具体的"な音色が聴かれる ことななく、音源がわからない程に処理されている。 といっても、断片的な音が少しずつ色合いを変えながら反復されており、それが いくつかフェードイン/アウトしながら重ねられている。それらが微妙なメロディや リズムというものを生んでいるし、なんといっても一つ一つの音が良い。いくつか もっている、この類のCDの中では、最も聴こうと手が伸びるCDである。 先に「音響派」という言葉を使ったが、ここ2〜3年だろうか音楽雑誌でよくみかけ られる言葉だが、その実体というのは極めて曖昧だ。例えば、"The Wire" 誌を 読んでいても、これに相当する言葉に出合うことがない。という意味では「ノイズ」 同様、日本製の言葉なのかもしれない。 ただ、この E.A.R. の顔ぶれからして象徴的なのだが、いくつかの流れがある。 Sonic Boom や Kevin Shields などがそうであるが、一つに post/out rock の流れ から音響派からの流れがある。guitar のフィードバック音の拡大の行きついた先。 その一方で、"The Wire" 誌で electronica と呼ばれるような techno における minimalism の極北とでもいったものかもしれない。ambient の流れとして捉える べきなのかもしれないが。 Panasonic や Oval のような音もそうだろうし、 ここでは、Thomas Koener (a.k.a. Portal Ricks) や Kevin Martin がそうなの かもしれない。 もちろん他にもいろいろな面があるのだが、しかし、意外に語られない (全く語られ ないわけではない) のが、自由即興の行き着く先としてのだ。慣用句的なメロディや リズムを排した結果残るのは、音響だということだ。そういう意味で、この E.A.R. に AMM の Eddie Provost が参加しているのは象徴的かもしれないし、Noel Akchote が Mille Plateau や Sub Rosa からリリースされる electronica な techno に興味を 持つのもそうかもしれない。E.A.R. が Thurston Moore + Don Flemming との カップリングである7"を出しているのもそうかもしれない。Thurston Moore や Noel Akchote と共演作を出している Derek Bailey や、Derek Bailey と共演する 前にも Thurston Moore のプッシュで "Zero Tolerance For Silence" (DGC, '94) を 出した Pat Metheny なども、ある意味で近い位置にいるミュージシャンかもしれない。 さらに、Bill Frisell、Raoul Bjorkenheim や Terje Rypdal といった ECM の ギタリストまで視野にいれていいのかもしれない。 ところで、これらのミュージシャンがみなギタリストであるというのは、鍵盤楽器を 除くと guitar ほどに適切に電気化された楽器はあまりないということなのかも しれない。この guitar に次にくるのは、trumpet だろうか…。 参考文献: [1] Will Montgomery: Noel Akchote - Rectanglar Resistance, The Wire, Issue 160, p.14, June, 1997. 97/6/22 嶋田 "Trout Fishing in Japan" 丈裕