UK総選挙労働党勝利祝勝企画、というわけでもないが (そもそも、そんな時期は とっくに逸しているって)。 Billy Bragg は、善し悪しは別についチェックしてしまう歌手ではある。 去年から活動を本格的にしており、そこそこリリースがあるので、まとめて紹介 したい。 Billy Bragg "William Bloke" (Cooking Vinyl, COODCD100, '96, CD) - 1)From Red To Blue 2)Upfield 3)Everybody Loves You Babe 4)Sugardaddy 5)Brickbat 6)The Space Race Is Over 7)Northern Industrial Town 9)The Fourteenth Of February 10)King James Version 11)Goalhanger - Produced by Grant Showbiz - Billy Bragg (vo,g), Terry Disley (Hammond B3,strings), Terry Edwards (as,bs), Caroline Hall (tb), J.F.T. Hood (ds,perc), Fionn O'Locklainn (b), Cara Tivey (organ,p,keyboards), Dave Woodhead (tp,flugel horn), Diedre Cooper (cello), Chris Morgan (double b), Chucho Marchan (double b), Ashley Drees (mandolin), Nigel Frydman (b) Billy Bragg "Don't Try This At Home" (Go! Discs, '91) 以来、長らく育児休職 していた Billy Bragg が活動を再開した。 この "William Bloke" は、「君は赤 (労働党) から青 (保守党) へ変わって しまった。」と歌う "From Red To Blue" ではじまる。(この作品が出たときは、 まだ、保守党長期政権下だったのだ。) もしくは、「僕は核心の社会主義を 得たんだ "I've got a socialism of the heart"」と元気よく歌うシングル曲 "Upfield" といった左翼的な言及も目立ち、その点では、従来の Billy Bragg と はあまり変わってはいない。 しかし、"From Red To Blue" で、「自分に問いなおすときもあるんだ/僕は 自分の階級のために"赤"に投票すべきなのか/自分の子供のために"緑"に投票 すべきなのか」と歌うことでも象徴的なのだが、このような揺らぎが、この 新作に今までの Billy Bragg の作品に添えているかもしれない。それは、 "Brickbat" での「君は赤ん坊とお風呂に入っている僕をみつけるだろう。」と いう歌詞などもそうかもしれない。そして、それは、Bragg の私生活において 子供が生まれたということの、自然な反映なのかもしれない。善し悪しは別に しても、以前よりは角がとれたかもしれない。 しかし、例えば、ヴァレンタイン・ディについて歌った "The Fourteenth Of Febuary" にしても、以前に同じような題材で歌った "Valentine's Day Is Over" のほうがずっと辛辣だ。他にも、性・政治・経済の社会機構についての歌は あるのだが、以前の歌と似たような切り口なうえ、以前のもののほうが切れ味 よく聞えてしまうのが、ちょっと辛いか。 音の構成は、前作 "Don't Try This At Home" (Go! Discs, '91) に比べも たいして変わってはいないが。ギターの音も全体的に穏やかだ。もう少し勢いや 粗さのある曲が欲しい気がしている。まあ、10年たって子供もできたいまさら "Talking With The Taxman About Poetry" (Go! Discs, '86) のようなことを 歌っているわけにもいかないのだろうが。 Billy Bragg "Upfield" (Cooking Vinyl, FRYCD051, '96, CDS) - 1)Upfield 2)Rule Nor Reason 3)Thatcherites - Produced by Grant Showbiz "William Bloke" からのシングル第一弾は、socialist of the heart な "Uplifted"。勢いのいい歌なので悪くはないが。そんなものかな、という感も。 Billy Bragg "The Boy Done Good" (Cooking Vinyl, FRYCD064, '97, CDS) - 1)The Boy Done Good 2)Sugardaddy 3)Just One Victory 4)Qualifications - Produced by Grand Showbiz Billy Bragg "The Boy Done Good" (Cooking Vinyl, FRYCDX064, '97, CDS) - 1)The Boy Done Good (Extended edit) 2)Sugardaddy (Moonswings remix) 3)Never Had No One Ever 4)Run Out Of Reasons - Produced by Grand Showbiz. 2) remixed by Moonswings. シングル第一弾は、Johnny Marr (ex-The Smiths, The The, Electronic) との 共作曲 "The Boy Done Good"。remix ものと2種類リリースされているの だけれども、メジャーでよくあるこういうリリース、Billy Bragg が真似し なくてもいいではないか…。 いかにも Johnny Marr (というか80sの The Smiths) な旋律なのだが。サッカーの 試合にたとえたセックスの歌で、歌詞もユーモラスなのだが。僕は気にいっている。 ただ、Johnny Marr のギターソロも強烈にかっこいい "Greetings To The Brunette" ("Talking With The Taxman About Poetry" ('86) 所収) や、ノリノリの "Sexuality" ("Don't Try This At Home" ('91) 所収) など、名曲を残している Billy Bragg meets Johnny Marr という組み合わせだけに、もっともっともっともっと いい曲が作られたのではないか、という気になってしまう。 remix シングルの方は、少々 Johnny Marr のギターソロが長いか。"Sugardaddy" の ほうもひと昔前の dance remix という感じの緩いビートだ。こちらに収録されて いる "Never Had No One Ever" は仏 "Les Inrockaptibles" 誌が企画した The Smiths "The Queen Is Dead" カヴァー企画 Various Artitsts "The Smiths Is Dead" (Sony France, 486745-2, '96, CD) に収録されていたもの。 と、シングルがいろいろ出ているのだが、全てを追いかける気合がない人なら、 Billy Bragg "Bloke On Bloke" (Cooking Vinyl, COOKCD127, '97, CD) - 1)The Boy Done Good 2)Qualifications 3)Sugardaddy (Smokey Gets In Your Ears mix) 4)Never Had No One Ever 5)Sugardaddy 6)Rule Nor Reason 7)Thatcherites - Produced by Grand Showbiz. 3,5) remixed by Moonswings. がお薦めだろう。More From The William Bloke Session ということで、シングル に納められた曲を集めた限定のミニアルバムだ。それも、5曲目の "Sugardaddy" の remix は、シングル〜アルバム未収で、post-drum'n'bass 時代の downtempo breakbeats とでもいったものになっている!! Massive Attack "Risingson" (Wildbunch, WBRX8, '97, CDS) や Various Artists "Freezone 4 - Dangerous Lullubies" (SSR, SSR187, '97, 2CD) も、drum'n'bass 以降ならではの重い ベースの downtempo breakbeats という展開になっていたのだが、それと同じ ような remix (もちろんそこまでベースは重くないのだが) になっているというのが、 とても感慨深い。凄い。ううむ。 97/7/21 嶋田 "Trout Fishing in Japan" 丈裕