Sleater-Kinney "Dig Me Out" (Kill Rock Stars, KRS279, '97, CD) - Produced by John Goodmanson. Recorded on 96/12-97/1. - Corin Tucker (vo,g), Carrie Brownstein (g,vo), Janet Weiss (ds) Heavens To Betsy の Corin Tucker が、Excuse 17 の Carrie Brownstein らと 結成した女性3人組 Sleater-Kinney の Kill Rock Stars の新作は、過去2枚の アルバムから比べてもぐっとポップになったものだ。 Corin Tucker の歌声は金切声直前に抑えられて辛辣な感をとりもどしているし、 Carrie Brownstein の低めの落ち着いた歌声と、良いコントラストを成している。 歌の中の二つの声が、単調さを排し、他面性を保証している。さらに ds が 変ったこともあるのかリズムがぐっと表に出て、二人の歌声を異化している。 そのメロディと勢いのいいリズムとドライヴ感あるギターは、ふと Go-Go's "Beauty And The Beat" (I.R.S., '80) なんて思い出してしまうような pop さ すら持っている。 Corin Tucker のような辛辣で凛とした歌声は、英米の rock の中でも希なものだ。 それが生き生きとした pop 曲に乗って蘇っている。彼女の辛辣なこの歌声に ぜひ耳を傾けて欲しい。 Heavens To Betsy は90年代前半に活動した Riot Grrrl の一翼を成す Olympia の 女性2人組だった。Kill Rock Stars や Yoyo Recordings からの編集盤に収録された "My Red Self" (Various Artists "Kill Rock Stars" (Kill Rock Stars, KRS-201, '92, CD) 所収)、"Baby's Gone" (Various Artists "Throw" (Yoyo Recordings, YoyoCD-1, '92, CD) 所収)、"She's The One" (Various Artists "Julep" (Yoyo Recordings, YoyoCD-2, '93, CD) 所収) といった歌は、他の同郷の Bikini Kill や Bratmobile といった Riot Grrrl のバンドと比べても、Corin Tacker の凛と した緊張感のある歌唱も際立った個性的なものだった。しかし、一枚残した アルバム Heavens To Betsy "Calculated" (Kill Rock Stars, KRS-222, '94, CD) は、 歌声も金切声っぽくなり、その punk 風の単調な曲とあいまって、ありがちな Riot Grrrl のアルバムになってしまっていた。 Heavens To Betsy 時代からサイドプロジェクトとしてやっていたというこの Sleater-Kinney は、今まで2枚のアルバム Sleater-Kinney "Sleater-Kinney" (Chainsaw, CHSW12, '95, CD) と、Sleater-Kinney "Call The Doctor" (Chainsaw, CHSW13, '96, CD) をリリースしている。Heavens To Betsy のアルバムほど単調 ではないし、Corin と Carrie の歌唱もいいのだが、この新作ほどに魅力的な ものではない。まだ曲の pop さがどうもふっきれていないのだ。これから 聴くなら、まず新作 "Dig Me Out" を聴いて欲しい。 Heavens To Betsy が大好きだったし、"Option"誌に特集記事[1]が載ったり、 Greil Marcus の Real Life Rock で何回か取り上げられたり[2]もしており、 以前からかなり気になっていたバンドだったのだが、あまり輸入盤店にも入荷せず、 実は僕は最近まで音を聴くことができないでいた。新宿の Tiger Hole で 「Sleater-Kinney は入荷していませんか?」と何回尋ねたことか。しかし、 "Dig Me Out" が出る直前にそこで買い物したときに、Sleater-Kinney を買った わけではないが、"Dig Me Out" のポスターをもらってしまった。結局いい作品 だったし。とても嬉しい。 参考文献 [1] Neva Chonin: Sleater-Kinney, Option, Sep/Oct 1996, pp.82-86. [2] Greil Marcus: Real Life Rock Top Ten - 2. Sleater Kinney "Dig Me Out", Artforum, April 1997, p.32. 97/7/22 嶋田 "Trout Fishing in Japan" 丈裕