形式主義者としての Ornette Coleman。 Ornette Coleman "In All Languages" (Caravan Of Dreams / Harmolodic, 531 915-2, '87/'97, CD) - 1)Peace Warriors 2)Feet Music 3)Africa Is The Mirror Of All Colors 4)Word For Bird 5)Space Church (Continuous Services) 6)Latin Genetics 7)In All Languages 8)Sound Manual 9)Mothers Of The Veil 10)Cloning 11)Music News 12)Mothers Of The Veil 13)The Art Of Love Is Happiness 14)Latin Genetics 15)Today, Yesterday And Tomorrow 16)Listen Up 17)Feet Music 18)Space Church (Continuous Services) 19)Cloning 20)In All Languages 21)Biosphere 22)Story Tellers 23)Peace Warriors - 1-10)Ornette Coleman (as,ts), Don Cherry (tp), Charlie Haden (b), Billy Higgins (ds); 11-23)Ornette Coleman (sax,tp), Denardo Coleman (ds), Calvin Weston (ds), Jamaaladeen Tacuma (b), Al MacDowell (b), Charlie Ellerbee (g), Bern Nix (g) 40 years of Harmolodic music - '57-'97 − ではないだろうが、'87年に 30 years of Harmolodic music - '57-'87 とリリースされた名盤がCD再発された。 30年間に Ornette Coleman が用いた「あらゆる言葉で "In All Languages"」 − といっても、Don Cherry を含む初期の Atlantic 時代の2管 piano-less quartet と70年代以降のレギュラー・バンド Prime Time での演奏だけだか、 それで十分だろう − の演奏を収めたもので、もともとはLP 2枚組で一枚には quartet のもう一枚には Prime Time による演奏が収録されていた。 この作品の特徴は、quartet での演奏10曲、Prime Time での演奏13曲のうち、 実に7曲が同じ曲だということだ。同じ主題を2つの「言葉」で語ってみせている 作品ともいえる。この再発CDでは1枚になっているので、プログラミングして 同じ曲の quartet での演奏と Prime Time の演奏を続けて聴くことができる。 そしてそうして聴くと際立つのは、差違だ。 この作品は30年間の Harmolodic 理論の一貫性を美的に証明するものなのかも しれないが、むしろ2つの演奏が併置されることによってその差違も際立つ。 それは、quartet での演奏の変奏、解体、リミックスとしての Prime Time の 演奏、というのと違うニュアンスを持って提示されている。30年という前後 関係を意識しがちだが、30年前の quartet での作品を Prime Time でカヴァー しているわけではないのだ。むしろ、Prime Time の曲を quartet で演奏して みせている感すらある。 そもそも、Prime Time の演奏からして、Ornette Coleman を要の位置に2つの リズム隊 (g+b+ds) を併置したものだ。いや併置というやり方は、Ornette Coleman Double Quartet "Free Jazz" (Atlantic, '61) まで遡ることができるだろう。 左チャンネルに Ornette Coleman (sax), Don Cherry (tp), Scott Lafaro (b), Billy Higgins (ds) の quartet の演奏を、右チャンネルに Eric Dolphy (sax), Freddie Hubbard (tp), Charlie Haden (b), Ed Blackwell (ds) の quartet を 録音してあるこのアルバムは、単に2倍の力をもって聴き手に迫るだけでなく、 あれ (たとえば Ornette Coleman) とこれ (対する Eric Dolphy) の差違を 際立たせる。最初の quartet ですら、b+ds を要に Ornette Coleman が リーダーというよりむしろ Don Cherry を対等に併置させている感もあるのだが。 Ornette Coleman の作品のこういった併置のやり口は、音そのものに聴き手を 集中させるというというより、音と音の差違 − 相対的な関係とそれからなる 構造を聴き手に意識させるものかもしれない。絶対的な音 − なんていうもの すら近代的な概念にすぎないのかもしれない − の追求というよりも、併置に よるあらゆる音の相対化こそ、Ornette Coleman の挑戦なのかもしれない。 quartet や Prime Time の演奏はそれほど「前衛的」な印象を直接には与えない。 慣用句的な表現をとことん排除したり、フリーキーな音を多用するわけでも ないからだ。しかし、それにもかかわらず、Ornette Coleman が聴き手に異質な 印象を与えるのは、この差違の美学のせいなのかもしれない。 といっても、この作品が素晴らしいのは、併置という形式だからではない。 こういうコンセプチャルな作品は、往々にしてぱっとした魅力に欠けるものだが、 この "In All Language" はそうではない。quartet の演奏は30年来と思えない ほど若々しいし。Prime Time のちょっと変化のある funk の重量感のある ビートもかっこよく Prime Time のアルバムとしても最も良いものだろう。 LP それぞれが、quartet と Prime Time の作品としても楽しめるものだからこそ、 併置も生きるというものなのだろう。 オリジナルの quartet の演奏も Prime Time の演奏も楽しめるうえ、コンセプト 的にもいろいろな聴き方ができ、聴くという行為がどういうことなのか考えさせて くれるような深さを持つこの作品、Ornette Coleman の入門としてこれほど うってつけのものはないだろう。是非、このCD再発を機に聴いて欲しい。 Ornette Coleman "Sound Museum - Three Woman" (Harmolodic, 531 657-2, '96, CD) - 1)Sound Museum 2)Monseur Allard 3)City Living 4)What Reason 5)Home Grown 6)Stopwatch 7)Don't You Know By Now 8)P.P. (Picolo Pesos) 9)Women Of The Veil 10)Yesterday, Today, & Tomorrow 11)Biosphere 12)European Echoes 13)Mob Job 14)Macho Woman - Ornette Coleman (sax,tp,vln), Geri Allen (p), Charnett Moffet (b), Denardo Coleman (ds); Lauren Kinban (vo), Chris Walker (vo) on 7 Ornette Coleman "Sound Museum - Hidden Man" (Harmolodic, 531 914-2, '96, CD) - 1)Sound Museum 2)Monseur Allard 3)City Living 4)What Reason 5)Home Grown 6)Stopwatch 7)Women Of The Veil 8)P.P. (Picolo Pesos) 9)Biosphere 10)Yesterday, Today, & Tomorrow 11)European Echoes 12)What A Friend We Have In Jesus (Variation) 13)Mob Job 14)Macho Woman - Ornette Coleman (sax,tp,vln), Geri Allen (p), Charnett Moffet (b), Denardo Coleman (ds) そんな Ornette Coleman の差違の美学が端的に現れた最近の作品が、去年同時に リリースされたこの2枚のCDかもしれない。ともに、"Sound Museum" と題され 色違いでほとんど同じデザインのこの2つのCDは、演奏者も同じで、順が若干 異なるが曲目も実に14曲中13曲が同じだ。"In All Language" よりさらに徹底 されている。もはや、解体、リミックスといったニュアンスの入る余地はない。 どちらもオリジナルであり、どちらもオリジナルではないのだ。 "In All Language" の2枚の観賞が Bernd & Hilla Becher の木造の採掘塔と 鉄骨の採掘塔の写真を併置して観る − 一聴/見して差違が明らか − ような ものだとしたら、この "Sound Museum" の2枚は 杉本 博司 の「海景」の2枚の 写真を併置して観るのに近い。差違を知るためにはディテールに踏み込む 必要があるからだ。 この1年近くたびたびこの2枚のCDを僕は聴いてきたが、ブラインドでこの2枚を 聴かされたとして、どちらか正しく判別できる自信はない。Ornette Coleman の piano quartet ということで、この2枚のいずれかということは判別できる だろうが。もちろん、いくつか2枚を判別する点は押さえているし、歌が入って いるかどうかという明白な差違もあるが。それにしても、僕はいったい何を 聴いているのだろうか、と考えさせられてしまうところもある作品ではある。 もちろん、ディテールも面白い。'58年の Paul Bley の quintet (Paul Bley "The Fabulous Paul Bley Quintet" (America 30, 30AM6120, '71, LP) や I.A.I. の2枚のLPで聴くことができる。) から piano の Paul Bley が抜け いわゆる Ornette Coleman の quartet になってから、piano との共演を徹底 して避けてきた Ornette Coleman が、piano 入り quartet で演奏している というだけでも面白い。Geri Allen にはもう少しパーカッシヴに弾きまくって 欲しい気もするが。 Ornette + Joachim Kuehn "Colors" (Harmolodic, 537 789-2, '97, CD) - Recorded on 96/8/31 at the Leipzig Opera - Ornette Coleman (as,tp,vln), Joachim Kuehn (p) そんな、Ornette Coleman の今年に入っての新作は、なんと piano との duo。 ここにきて俄然 piano づいているが、どうしたのだろう。 "In music there are no leader" というライナーノーツに言われるまでもなく、 sax / tp / vln と piano の併置だ。duo というのは、ボクシングの試合に 例えられることもあるくらいで、構造的に対等という形になりやすいともいえる。 といっても、ここでの二人の演奏はボクシングの試合というより、話題が自由に 移りゆく会話という感じ。 旧東ドイツ出身で60sからヨーロッパの free jazz / improv. シーンで活躍する Joachim Kuehn のちょっと華やかで流麗な piano が、Ornette Coleman の こぶし入った感もある sax のフレーズと、とてもいい対比になっている。 b と ds がいないだけに際立つのかもしれないが。 Ornette Coleman / Harmolodic Inc. のホームページ ( http://www.harmolodic.com/ ) によると、最近の一連のプロジェクトは "? Civilization" というコンセプトで 行われている。この差違の美学によって彼が問い直そうとしているのは、まさに 文明 (civilization) なのかもしれない。 97/7/28 嶋田 "Trout Fishing in Japan" 丈裕