国際ポピュラー音楽学会 (International Academic Society Of Popular Music) 金沢大会開催記念。といっても、7月末でもう終わってしまったし、僕は行かな かったのだけど。Simon Frith は育児求職中で来日していないし。が、ちゃんと 読んでから、などと言っていると、いつまでたっても紹介記事を書くことができ ないので、この機会に乗じて軽く紹介。去年末に買った本なのに〜。 Simon Frith _Performing Rites - On The Value Of Popular Music_ (Harvard Univ. Press, ISBN0-674-66195-8, '96) - pp.354, 24cm 「ポピュラー音楽における価値について」という副題からもわかるだろうが、 音楽についてその良し悪し語るときに、それを好き/嫌いの問題 - the ritual of "I like / you like" に帰着させないとすると、避けられない価値の問題に ついての本。 といっても、既に価値体系が確立されている、ハイ・カルチャー (クラッシック 音楽や近代文学) の価値体系をポピュラー音楽に移植しようとしているわけ ではない。これは、非権威的なポピュラー文化に学問体系を導入しようとする ときに非常にありがちな落とし穴だ。(例えば、岡田 斗司夫が『美術手帖』誌 97年8月号で日本のマンガが米国のコミックが優れていると主張する根拠は、 まさに19世紀的西洋近代文学のそれである物語、内容だ。これはもっと批判 されて然るべきだと思うのだが…。) もう一つの落とし穴は、ある意味その逆で、人々の嗜好のヒエラルキーを否定 するためポピュラー文化における価値判断の重要性を否定する、という ポピュリストの落とし穴だ。 Simon Frith は、この本はこのどちらも避け、2つの仮定から論が展開していく。 一つはポピュラー文化の実践の本質は判断を下し違いを評価することであること、 もう一つは、そのような判断が異なる文化圏では異なって機能すると先験的に 信じる理由は無いということである。そして、Simon Frith は、Pierre Bourdieu _Distinction_ (翻訳はピエール・ブルデュー『ディスタンクション − 社会的 判断批判 I・II』(藤原書店)。社会的判断は、社交的判断とも訳されうるもの だと思うが。) での議論 − 人の嗜好 (社会的判断) が、単に主観的なもの ではなく、むしろその人の育ってきた環境、特に受けてきた教育と強い相関が ある。 − に多く拠って、論を進めていく。 と、いうことで、この本を読み進むうちに、僕も Bourdieu に脱線?し、さらに Regulation 理論に脱線?して、やっと Fordism / Post-Fordism ((脱)フォード 主義) について少しは理解したという感じで、なかなか読み進めていないの だけれど。面白い本と思う。ポピュラー音楽における嗜好とは何なのかいろいろ 考えさせられる。 Simon Frith は、現在 Strathclyde University の教授。ロックの社会学・ 文化研究の第一人者ともいえる人で、IASPM の会長をしたこともある。 ロック・ジャーナリストでもあり、Fred Frithの実兄でもある。 翻訳としては、ポピュラー音楽学の教科書として書かれた サイモン・フリス 『サウンドの力』 (晶文社, ISBN4-7949-6026-3, '91) Simon Frith _Sound Effests_ ('78/'83) - pp.331+28, 22cm がある。いい本だが、書かれた時期もあって、punk 〜 post-punk についての 言及がいまいち物足りないか。(絶版だという話も聞くのだが。) 最近手にいれて読んだのだけれど、 Simon Frith _Music For Pleasure - Essays in the Sociology of Pop_ (Routledge, ISBN0-415-90052-2, '88) - pp.225, 22cm は80年代に書かれたエッセーを集めたもので、一つ一つが短いので、英語とは いえ、_Performing Rite_ のようなまとまった本より読みやすい。 章のタイトルが歌やレコードのタイトルを借用しているのがいい。ちなみに、 序文の Everything Counts (Depeche Mode)、ジェンダーに関する章の Playing With A Different Sex (Au Pairs) に、僕はウケた。 _ _ _ 期間は忘れてしまったが、今、新宿タイムズスクエア紀伊国店書店で洋書セールを やっている。3F特設会場といえば聞えがいいが、屋外のテラス部分なので、暑さと 戦いながら本を漁らなくてはならない。気合が必要だ。美術書は無く残念だった。 音楽関係の本の所に、Simon Frith _Performing Rites_ (Harvard Univ. Press) が 3,000円であった。をを。すぐに無くなる本ではないだろうから、我こそはという 人は買いに行ってあげてください。 97/8/3 嶋田 "Trout Fishing in Japan" 丈裕