Vilnius, Lithuania のレーベル Sonore を知ったのは、96年の年始に手にした 80s のソ連を代表する前衛ジャズコンボ The Ganelin Trio (Vyacheslav Ganelin, Vladimir Tarasov, Vladimir Chekasin) がソ連の Melodia に残した録音の リイシューでだった。Sonore は The Ganelin Trio の打楽器奏者 V. Tarasov (Archangelsk, Russia 生まれで、68年に Vilnius に移住。) のレーベル。 London のレーベル Leo からのリリースで The Ganelin Trio の trio とは 思えない quintet のような超絶演奏を楽しんでいたので、興味深く思って、 CDにあった Lithuania の P.O. Box に手紙を出してみた。 96年の1月末に出したエアメールに返事が届いたのは6月。4月の消印だったが、 封筒は濡れてしわしわ、破れて封が開きかけていた。中には、A4大のカタログ一組、 CD ジャケット大のディスコグラフィ二枚に、タイプされた手紙が同封されていた。 国際郵便為替などが使えないので、注文は英米のディストリビューターを介するか、 物々交換にして欲しいとの返事だった。そんなこともあり、その後、特に気合を 入れて探していなかったのだが、偶然、デッドストックらしき Sonore のCDを 入手できた。 Vladimir Tarasov & Ilya Kabakov _Olga Georgievna, Something is Burning! - Conversation In A Communal Kitchen_ (Sonore, SN011CD, '94, CD) - Recorded 93/12, Academy Schloss Solitude Stuttgart Vladimir Tarasov と Russia (生まれは Ukraine) の現代美術作家 Ilya Kabakov とがコラボレーションしたパフォーマンスを記録したCD。限定盤のようで、 ジャケットにシリアル番号が入っている。4桁なので、千枚単位で作ったようだ。 正直言って音だけ聴いてもわけわからないのだが、解説を読むと、ソ連時代の 共同炊事場 (を再現したインスタレーション?) の中で、調理器具や食器を楽器に 二人が即興演奏したものという。また、台所で数人の女性が交わした会話からの 断片も同時に朗読している。この会話はおそらくロシア語で、そのテキストが 英訳とともにブックレットに収録されている。ライナーノーツによれば、 「ソヴィエトの日常生活のちょっとした百科事典」といったものらしい。 演奏というほどそれらしい音はなく、即興劇の音によるドキュメンタリーとでも いうものが1時間ほど続く。言葉もわからずそれも音だけで楽しむのはかなり 無理がある。コレクター向けか。 ジャケットデザインは Ilya Kabakov によるものなのだが、特に絵本風の絵を 使ったりはせず、写真を使ったシンプルなもの。その写真はパフォーマンスの 様子を収めたものではなく、パフォーマンスの様子を収めたものと思われる映画か ヴィデオを上映しているところを収めたもの。画面の両側に OHP 用スクリーンが あり、対訳と思われるテキストが写されている。こんな様子なのか。 ちなみに、ライナーノーツによると Ilya Kabakov と Vladimir Tarasov の コラボレーションによるインスタレーション作品は、他に Music Installations by Ilya Kabakov & Vladimir Tarasov: _The Red Wagon_, Kunsthalle, Duesseldorf, 1991 _Incident At Museum Or Water Music_, Ronald Feldman Gallery, New York, 1992 _Incident At Museum Or Water Music_, Museum Of Contemporary Art, Chicago, 1993 _Incident At Museum Or Water Music_, Hessisches Landesmuseum, Darmstadt, 1994 _The Red Pavillion_, La Biennale di Venezia, 1993 _Symphony Of Flies_, Chateau d'Oiron, France, 1993 といったものがある。そのうち、'92〜'94年に制作した _Incident At Museum Or Water Music_ については、以下のCDがリリースされている。 Vladimir Tarasov & Ilya Kabakov _Atto VII - Watermusic_ (Sonore, SN007CD, '94, CD) こちらは、インスタレーション用に作った音楽を収録したものらしいので、 もっと音楽的なのだろうか。 さて、同時に入手したのは、いきつけのジャズ喫茶で聴いて気にいっていたこれ。 Vladimir Tarasov & Lithuanian Art Orchestra _Waltz Atto_ (Sonore, SN009CD, '93, CD) - Recorded 93/1 名前からして Vienna Art Orchestra を連想してしまうが、もちろん、いわゆる クラッシックのオーケストラでもジャズのビックバンドでもない。Globe Unity に 連なる Europe に多くある前衛/フリーのジャズオーケストラ風。といっても、 全て Lithuania のミュージシャンからなる。あまりけたたましい感はなく、 慣習的な表現がちぐはぐに組み合わされてちょっとユーモラスな感じもある。 Willem Breuker Kollektief や ICP Orchestra とか好きな人は気に入るのでは ないだろうか。 97/9/14 嶋田 "Trout Fishing in Japan" 丈裕