Ellery Eskelin with Andrea Parkins & Jim Black _One Great Day ..._ (hatOLOGY, 502, '97, CD) - Recorded on 96/9/30 - Ellery Eskelin (ts), Andrea Parkins (accordion,sampler), Jim Black (perc) 「私は伝統的なリズム・セクション/ソリストのパラダイムに対する オルタナティヴであるようなグループと一緒に演奏することに特に興味がある んだ。それに、音のスペクトルの底の部分を空けておいたときに起きることが 好きなんだ。それは、各楽器のまわりの雰囲気を開けたものにするから。 また、誰も一つの機能に従事させられていないような流動的な状況を作り 出すことによって、楽器を役割分担から解放することにとても興味があるんだ。」 --- Ellery Eskelin (http://www.irss.unc.edu/wdavis/aim/eskelint.html) Ellery Eskelin は、Baltimore 出身の tenor sax 奏者。New York を拠点に 活動するミュージシャン (Jim Black, Drew Gress, etc) との共演も目立つ。 70年代末から活動しているようだが、最近になって bass-less trio の編成を 取るようになってから、ぐっと面白い録音を残すようになった。 そんな Ellery Eskelin の trio の新作が、Swiss の Hat Hut Records の 新シリーズ hatOLOGY から出た。 Roland Kirk の "The Inflated Tear" を演奏していることからも想像できる ように、近傍で活動している Tim Berne や Dave Douglas (は tp だが) に比べ、 ぐっと泥臭い sax の音を出す。それが、いい個性になっている。 Tim Berne's Bloodcount で特に印象的な Jim Black のちょっと粗いカシャ カシャバタバタした感じの drums は、ちょっと控え目だが、あい変らず。 いい変化になっているのは、Andrea Parkins の accordion/sampler で、 bass 風に低音を繰り出し普通の sax trio のように聴かせるときもあれば、 piano 風の音になって bass-less piano trio のようになるときもある。 ただ、piano が打楽器的で持続する音があまり出せないのに対し、accordion は 時間軸に対しまさに伸縮自在な分だけ、時間展開にも自由さを感じる。 それが、Eskelin の sax がそれほど派手に動きまわらない分を埋めている。 bass-less trio であり、それも、piano でもなく、guitar でも cello でもなく、 accordion だという編成も面白いし、その編成を充分に生かした音を聴かせて くれる。お勧めだ。 さて、この変則 trio は以前にも一枚CDをリリースしている。 Ellery Eskelin _Jazz Trash_ (Songlines, SGL1506-2, '95, CD) tk#1 - Ellery Eskelin (ts), Andrea Parkins (accordion and sampler), Jim Black (ds) - Recorded live on 94/10/27,28 題名とおり、こちらの方は"trash"な感じ。hatOLOGY (というか Hat Hut) の 録音のクリアさに比べ、くぐもった感があるかもしれないが、勢いの良さが あるので、楽しめるものになっている。 Ellery Eskelin _The Sun Died_ (Soul Note, 121 282-2, '96, CD) - Ellery Eskelin (ts), Marc Ribot (g), Kenny Wollesen (ds) - Recorded on 96/1/3-4 Ellery Eskelin の bass-less trio の試みは、accordion trio だけでなく、 もう一つ guitar trio のものがある。これは Gene Ammons tribute 作品で、 Eskelin はファンキーにフレーズを吹くのだが、Marc Ribot の guitar (そんなメチャクチャはやってない) がそれを脱構築していく。ノリの良さと 壊れ具合のバランスが楽しい。 _ _ _ Tim Berne Bloodcount, _Unwound_ (Screwgun, SCREWU70001, '97, 3CD) と いえば、今年リリースされたjazz系のCDの中でも最高出力な出来だったと 思うが、これをリリースした Tim Berne のレーベル Screwgun から、もう次の Tim Berne リーダー作が2題出た。_Unwound_ 同様、Steve Byram デザインの 紙パッケージだ。 Tim Berne Paraphrase _Visitation Rites_ (Screwgun, SCREWU70002, '97, CD) - Drew Gress (b), Tim Berne (bs,as), Tom Rainey (ds) - Recorded live in Berlin, 1996 Tim Berne, Marc Ducret, Tom Rainey, _Big Satan_ (Winter & Winter, 910 005-2, '97, CD) の編成の、Marc Ducret (g) の代わりに Drew Gress (b) が入ったもの。bass-less で Ducret の自由度のある guitar が鳴る trio に 比べて、普通の trio になってしまったな、とは思う。音には迫力が出るが。 迫力ある音といえば Bloodcount があるわけで、ちょっと半端か。 Tim Berne Bloodcount _Discretion_ (Screwgun, SCREWU70003, '97, CD) - Tim Berne (bs,as), Chris Speed (ts,cl), Michael Formanek (b), Jim Black (ds) - Recorded in 1997 in Iowa, New York, and Germany で、_Unwound_ での暴走っぷりが快感だった Bloodcount の方だが、こちらの 期待が過大だったか、意外とおとなしい。もっとつっ走って欲しい。 というわけで、_Unwound_ でつい期待が過大になったか、どうも聴いていて こちらが不完全燃焼してしまいそうな、そんな2枚だった。ううむ。 97/11/3 嶋田 "Trout Fishing in Japan" 丈裕