_The Instant Composers Pool 30 Years_ / Misha Mengelberg + Han Bennink, _MIHA_ (ICP, ICP031, '97, Book+CD) - Recorded on 97/1/31,92/1/4 - Misha Mengelberg (p), Han Bennink (ds) ICP (Instant Composers Pool) の30周年を記念する本が ICP からリリースされた。 30cm x 15cm くらいの大きさの64ページの手作りっぽい所もある装丁の奇麗な本で、 ナンバー入り1000冊限定。おまけのCDがついているが、これは Misha Mengelberg と Han Bennink の最近の duo の演奏で、ICP の30年の歩みを音で辿れるものではない。 ICP は'67年から Amsterdam, Holland を拠点に活動しているフリージャズ/即興の ミュージシャンの集団で、レーベルもある。Misha Mengelberg や Han Bennink と いったミュージシャンを中心に活動している。 本には、ICPからリリースされたアナログ盤/CD33タイトル全てのジャケット写真の他、 演奏風景や舞台裏の写真、パンフレットや雑誌・新聞記事、ICP のディスコグラフィ、 あと、Kevin Whitehead によるエッセーが載っている。僕が知っているのは最近の 活動だけなので、昔の写真やジャケットを見ているととても興味深い。 僕が Misha Mengelberg, Han Bennink, Willem Breuker Kollektief といった オランダのフリージャズ・即興界隈のミュージシャンの名前を知ったのは、 中学時代に親しんでいた山下洋輔のエッセーでだった。「オランダのウイレム・ ブロイカー・イレブン・ピース・バンドというめちゃくちゃな、という意味は最高の スラップスティック・パロディ・バンドを見た。舞台の上でナワトビはやるわ、 輪になって走り回るわ、ズタ袋いっぱいのナベ、カマ、オシャブリをぶちまけるわ、 急に、多分オランダの民謡を吹きだすわの大騒ぎ。」(『ピアニストを笑え』) とか、 「グローブユニティオーケストラやハン・ベニンクとミーシャ・メンゲルベルクの デュオなどはハプニングパフォーマンスと変わらないことが多い。」(『ピアニストに 手を出すな』) といった記述を読んで、めちゃくちゃで面白そうだとは思ったが、 音的にジャズや即興音楽に今ほどの興味もなかったこともあり、当時は音を聴いて みたいとも思わなかった。それから10年余り経って、実際に彼らの演奏を聴いた ときに、そのまともな(!?)音に意外に思ったものだった。しかし、この本に載って いる70年代前半の写真を見たりすると、全てではないが、芝居かパフォーマンスか といった様子のものもあり、そういう「めちゃくちゃ」なことをやったときも あったのだろうなぁ、と思わせてくれるものがある。 あと、Kevin Whitehead によるエッセーを読んでいて、"Instant Composition" と いう言葉が、Jimmy Guiffre の'58年のレコードライナーノーツの中で Jim Hall に よって使われていたということを知った。確認してみようと、いきつけのジャズ 喫茶のレコードをいろいろ探してみたが、みつからなかったが。Misha Mengelberg は そのことを知らなかったそうだが、この符合は繋がるようなところも感じてとても 面白いように思う。 しかし、僕がもっているICPのレコードは、CDによるリリースがあるものだけなので、 初期のアナログのジャケットの図版は、それだけ見ていても楽しい。音源はほとんど 全くCD化されていないのだが、聴いてみたいものも多い。そういう意味では、付属の CDが、ICP 30周年を音で辿れるような編集盤ではなく、90年代の Misha Mengelberg と Han Bennink の duo の録音だというのは、ちょっと残念である。もちろん、 「玩具箱をひっくり返したような」という形容が似合いそうなちゃかぽかした Han Bennink のドラミングや、おおむねぽつぽつと曲を繰り出してくる Misha Mengelberg の演奏は、聴いていて楽しいものではあるが。 限定ということでコレクターズ・アイテム的な面もある作品だと思うし、音が追え ないという問題もあるが、ヨーロッパのフリー・ジャズ/即興に興味がある人で あれば、資料的にも興味深いCD本ではないかと思う。 98/2/11 嶋田 Trout Fishing in Japan 丈裕