Trio Clastrier - Riessler - Rizzo _Palude_ (Wergo J, 8010-2, '95, CD) - Valentin Clastrier (hurdy-gurdy), Michael Riessler (reeds), Carlo Rizzo (tambourin) フランスの hurdy-gurdy 奏者と、ドイツの reeds 奏者と、イタリアの tambourin 奏者による変則 trio 。hurdy-gurdy や tambourin といった楽器から、もっと folk 寄りの作品かと思いきや、かなり free jazz / improv. 寄りの構成の 音だった。といっても、きっちり作曲されたと思われる曲ではあるが。 音の組み立てが、最近 free jazz / improv. シーンで目立つ bass-less guitar trio による演奏に近い。guitar の代りに hurdy-gurdy が入った感がある。実際、電化 されていないもののビュィーンとうなりを上げる Clastrier の hurdy-gurdy の音は、 エフェクトをかけた guitar のような響きもあったりする。Rizzo の tambourin も、 細かいリズムと多彩な音色でリズムを刻む一方、drums 並みのビートを叩き出す こともある。どうやら、polytimbral tambourine もしくは polytonal tambourine というようであるが、普通の tambourine とどう違うのか気になるところがある。 リーダーの Michael Riessler は太め低めの音が多く、特にブリブリという感じの 音が気持ちいい。少し前の作品だけれども、お勧めしたい。 hurdy-gurdy 奏者の Valentine Clatrier は、Jaques Brel のバンドで演奏を してきた人。avant-garde な hurdy-gurdy 演奏で知られ、Silex から何枚か リーダー作もリリースしている。tambourine の Carlo Rizzo は Venice 出身、 もともとは、folk のバンドで演奏しはじめた人のようだ。 このCDをリリースしているレーベル Wergo は現代音楽のレーベルとして知られる。 Wergo J というのは、その jazz のシリーズ Wergo Jazz のこと。70年代から Manfred Schoof、Willem Breuker といったヨーロッパの free jazz / improv. の レコードを細々とリリースしてきたシリーズだ。最近は他に Michael Reissler の リーダー作をリリースしているようである。 この sax の Michael Riessler は、現代音楽シーンでも活躍するミュージシャン なのだが、特に、Mauricio Kagel の作品で目立つように思う。 Mauricio Kagel _Zwei Akte / Rrrrrrr... 5 Jazzstuecke / Blue's Blue_ (Audivis Montaigne, MO782003, '90/'96, CD) - Mauricio Kagel (voice,glass-trumpet), Michael Riessler (clarinets,saxophones) Brigitte Sylvestre (harp), Theodor Ross (acoustic guitar), Kristi Becker (piano), Geoffry Wharton (violin) その Mauricio Kagel の jazz 的な作品を集めたこのCDでも、Michael Riessler の sax は活躍している。"Rrrrrrr... 5 Jazzstuecke" など、題名通り jazz の イディオムを用いた、五つの小曲からなる曲。といっても、単に jazz ぽい雰囲気を 出すことを主眼としているとはおおよそ思えない作品である。例えば、"Bebop" など、 ノリだけ聴けば、およそ bebop とは思えない。そのズレが面白いのだが。 前半は、Riessler の sax/cl を軸に、harp、piano、vln が絡む、音も少な目の 70s以降の free jazz / improv. の、特にポストモダンな試みの音とも共通する ものがある。しかし、爆笑なのは後半の "Blue's Blues"。明らかに偽者とわかる トレースノイズをバックに、Mauricio Kagel がいかにも昔の blues を歌う、という ヴィンテージの blues のSP盤の演奏の真似事だ。blues が脱力気味に脱構築されて いくのがなんともいえない。 Mauricio Kagel といえば、ポストモダンな作風で知られるアルゼンチン出身で ドイツ在住の現代音楽の作曲家で、theater music piece が多い。_Finale / ... Den 24.xii.1931_ (Audivis Montaigne, MO782009, '92/'94, CD) や _Variete_ (Audivis Montaigne, MO782009, '92/'95, CD) 、_Exodica_ など、 Ensemble Modern による演奏が多いのだが。『musee』誌03号に載ったEnsemble Modern の Rumi Ogawa-Helferich のインタビューによると、「カーゲルは、 観客にうけることを意図して書いていたり、自分がシアター・ミュージックの 天才だと言ったりするとても可愛らしい人です(笑)。」とのこと。実際、"Blue's Blue" なんて、実に微笑ましい!?出来だと思う。 ウケ狙いな Mauricio Kagel といえば、一昨年にリリースされた、 Mauricio Kagel _Der Tribun / ... Nach Einer Lektuere Von Orwell_ (Wergo / Ars Acoustica, WER6305-2, '96, CD) - 1)Der Tribun (Fuer einen politischen Redner, Marschklaenge und Lautsprecher) (1979) 2)... Nach Einer Lektuere Von Orwell (Hoerspiel in Germanischer Metasprache) (1984) - 1) Recorded live at 89/11/9. 2) Recorded 84/5 では、"Der Tribun" というデマゴーグ演説をネタにした曲を演奏している。 デコマーグ演説をするのは、もちろん、Mauricio Kagel 自身。ドイツ語の響きから Hitler の演説をつい連想してしまうところはあるが、特に Hitler 流というわけ ではない。とってつけたような、テープで流されていると思われる観衆のどよめき、 とか、いかにも勇壮で盛り上げるようなアンサンブルがちょっと音をハズして みせたり、という、その批判的脱構築具合が言葉が分からなくても充分に笑える 出来だ。ライヴ録音なのだが、客の失笑も、たまに聞えてくる。 しかしだ、このライヴが行われたのは、1989年11月9日なのだ。統一のお祭り騒ぎの 当時のドイツにおいて、このようなデコマーグ演説・演奏を批判するようなライヴを、 それもウケをも狙ってやってみせる Kagel の心意気が良い。 98/2/15 嶋田 Trout Fishing in Japan 丈裕