Joy Division _Heart And Soul_ (London, 828 968-2, '97, 4CD+Book) 70年代末の脱パンク期に活躍した、というより、今や New Order の先駆のバンドと いった方が通りがよいかもしれない、Manchester, England の4人組 Joy Division の 決定的ともいえるアンソロジー CD 4枚組がリリースされている。奇麗にデザイン されたブックレットが付いたボックスセットだ。 このCDを聴いていると、Joy Division はロック・バンドだったのだなぁ、と改めて 思うところがある。それは、vo, g, b, dsというロック・バンドの標準的な構成から なる音というだけではない。Ian Curtis という強烈な印象を与える歌手がおり、 その主観的な表現に負っているところが多い、という意味においてだ。むしろ、 Ian Curtis の自殺によって、Joy Division 〜 New Order はロックの呪縛から脱する ことができたのかもしれない。 確かに、Ian Curtis は Kraftwerk などを好んでおり、彼が死んでいなくてもバンドの 音は New Order のようになっただろう、という話もある。_Closer_ (Factory, FACT25, '80, LP) の "Atrocity Exhibition" のような曲を聴くと、そうかもしれないと思う。 しかし、_Unknown Pleasure_ (Factory, FACT10, '79, LP) から _Closer_ へと歩を 進めた脱ロックの道をさらに進むのに最大の障害になっていたのは、Ian Curtis の 歌唱と言えるだろう。逆に言えば、特に _Closer_ での Ian Curtis の歌唱は、 その居場所を失うぎりぎりの位置にある。その際どさがこの Joy Division の魅力だ。 繊細な感受性を持った表現者としての歌手、のような極めてロック的な部分を、 Ian Curtis はその自殺により一身に引き受けている。そして、残されたメンバーは、 その後、カリスマ的な歌唱ではなく匿名的な歌唱、男女混成のバンド編成、ダンス・ ビートのより一層の導入、と、New Order として脱ロックしていくわけだが。 そして、この Ian Curtis の顔写真を表紙につかった Joy Division のアンソロジー CDボックスセットも、そのロックの呪縛を引き受けている。(そもそもアンソロジーを 編集するということ自体がそうなのかもしれない。) しかし、単なるロック・ヒーロー /アイドル的なアンソロジーとは一線を画した出来になっているようにも思う。 それは、Joy Division 〜 New Order のマネージャ Rob Gretton、ジャケット・ デザインを手掛けてきた Peter Saville、そして、メンバーだった Peter Hook、 Stephen Morris、Bernard Sumner の3人の、計5人によるコンセプトと題ということで、 関係者のコントロールの行き届いたアンソロジーになっている、という理由もある かもしれない。しかし、むしろ、選曲とブックレットの編集等で、ロンドン・パンクの ドキュメンタリー『イングランズ・ドリーミング』(シンコー・ミュージック, '95) (_England's Dreaming_, '91) の著者として知られる Jon Savage が参加しており、 その客観的資料にも配慮が行き届いた編集がなされているからだと思う。 80ページ余りのカラーのブックレットには、ヴィデオ (_Here Are The Young Men_ (Factory, FACT37, '82, VHS) か?) から起こしたメンバーのスチル写真も多く使われ、 ブックレットには New Order, _The New Order Story_ を手掛けたジャーナリスト Paul Morley の書き下ろしエッセー "Listen To The Silence"、Jean-Pierre Turmel が Joy Division, _Licht Und Blindheit_ (Sordide Sentimental, SS33022, '80, 7") のために書いたエッセー、そして、Jon Savage が'94年に _Mojo_ 誌のために書いた エッセー _Good Evening, We're Joy Division_ が収録されている。さらに、全歌詞が 載っている。公式リリース分の完全ディスコグラフィだけでなく、セッショングラフィ (いつ、どこのスタジオで、どういう録音をしたかという、セッションのリスト) や、 Joy Division に関する本のビブリオグラフィ、ヴィデオやTV番組出演のリストまで あり、資料的な部分にかなりを割いたものになっている。 CD 4枚に収録されているのは、CD1 が1stアルバム _Unknown Pleasure_ とその前後に 録音されたセッションから、CD2 が2stアルバム _Closer_ とその前後のセッション からの音源で、未発表のものはない。CD4 の未発表ライヴ録音は、Joy Division の イメージを覆すような音ではない。演奏が良いという意味ではなく、興味深いのは、 CD3に収録されている、78年にRCA からリリースする予定のLPのために録音し結局は お蔵入りしてリリースされなかった3曲。歌声とバックの歌のバランスのせいもあるの だろうが、意外と普通のロックといった制作で、もしそのままメジャー RCA から デビューしていたら、かなり違う展開になっていたのかもしれない、と思った。 あと、CD3の最後の New Order になる直前のセッションも、「ぎりぎりの位置」に ある音という意味で興味深かった。これから Joy Division を聴こうという人には ちょっとマニアックかもしれないが、_Unknown Pleasure_、_Closer_ そして、 シングル曲集の _Substance_ (Factory, FACD250, '88, CD) とばらばらに買うより、 全体像は見やすいかもしれない。 ちなみに、デザインには、Peter Saville のほか、Touch や WMO でのデザインで お馴染みの Jon Wozencroft が参加しており、むしろ、その色が濃いようにも思う。 Jon Wozencroft は選曲やリマスタリング、ブックレットの編集にも参加しており、 このアンソロジーの作成に重要な役割を演じている。 参考までに、曲目などの詳細は以下の通り。 Joy Division _Heart And Soul_ (London, 828 968-2, '97, 4CD+Book) - CD1-1)Digital 2)Glass 3)Disorder 4)Day Of The Lords 5)Candidate 6)Insight 7)New Dawn Fades 8)She's Lost Control 9)Shadowplay 10)Wilderness 11)Interzone 12)I Remember Nothing 13)Ice Age 14)Exercise One 15)Transmission 16)Novelty 17)The Kill 18)The Only Mistake 19)Something Must Break 20)Autosuggestion 21)From Safety To Where... CD2-1)She's Lost Control 12" 2)Sound Of Music 3)Atmosphere 4)Dead Souls 5)Komakino 6)Incubation 7)Atrocity Exhibition 8)Isolation 9)Passover 10)Colony 11)Means To An End 12)Heart And Soul 13)Twenty Four Hours 14)The Eternal 15)Decades 16)Love Will Tear Us Apart 17)These Days CD3-1)Warsaw 2)No Love Lost 3)Leaders Of Men 4)Failures 5)The Drawback 6)Interzone 7)Shadowplay 8)Exercise One 9)Insight 10)Glass 11)Transmission 12)Dead Souls 13)Something Must Break 14)Ice Age 15)Walked In Line 16)These Days 17)Candidate 18)The Only Mistake 19)Chance (Atmosphere) 20)Love Will Tear Us Apart 21)Colony 22)As You Said 23)Ceremony 24)In A Lonely Place (detail) CD4-1)Dead Souls 2)The Only Mistake 3)Insight 4)Candidate 5)Wilderness 6)She's Lost Control 7)Disorder 8)Interzone 9)Atrocity Exhibition 10)Novelty 11)Autosuggestion 12)I Remember Nothing 13)Colony 14)These Days 15)Incubation 16)The Eternal 17)Heart And Soul 18)Isolation 19)She's Lost Control - Ian Curtis, Peter Hook, Bernard Sumner, Stephen Morris - CD1,CD2,CD3-12,13,15,22) Produced by Martin Hannett. CD3-1-4) Produced by Warsaw. CD3-5-7) Produced by John Anderson, Bob Auger, Richard Searling & Joy Division. CD3-8) Produced by Bob Sargeant. CD3-9-11,14) Produced by Martin Rashent. CD3-16-19) Produced by Stuart James. CD3-20,21) Produced by Tony Wilson. - CD1-1,2) released on Various Artists, _A Factory Sample_, '79/1. CD1-3-12) released on _Unknown Pleasures_, '79/5. CD1-13,14,17-19) released on _Still_, '81/10. CD1-15,16) released on _Earcom 2_ '79/10. CD2-1,3) released on _She's Lost Control_, 12", '80/9. CD2-2,4) released on _Still_, '81/10. CD2-3,4) released on _Licht Und Blindheit_, '80/3. CD2-5,6) released on _Komakino_, flexi, '80/4. CD2-7-15) released on _Closer_, '80/7. CD3-1-4) released on Warsaw, _An Ideal For Living_, 7", '78/6. CD3-5-7) previously unreleased RCA demo. CD3-8,20,21) John Peel Show, '79/2,12 and released on _The Peel Session_, '90. CD3-9-11,14) previsouly unreleased Genetic Record Session. CD3-12,13,15) previously unreleased. CD3-16-19) previously unreleased Piccadely Radio Session. CD3-22) released on flexi, '80/4 and New Order, _Video 586_, 12", '97/9. CD3-23,24) previously unreleased. CD4) previously unreleased. CD4-1-10) recorded live at The Factory, Hulme. CD4-11) recorded live at Prince of Wales Conference Centre, YMCA, London. CD4-12-14) recorded live at Winter Gardens, Bournemouth. CD4-15-19) recorded at Lyceum Ballroom, London. 98/3/8 嶋田 Trout Fishing in Japan 丈裕