Loren MazzaCane Conners _A Possible Dawn_ (hatNoir, 801, '97, CD) - Recorded 1995-1996 except 11) recorded on 97/1/11 - Loren MazzaCane Conners (guitar); Jean-Marc Montera (guitar) on 11, Thurston Moore (guitar) on 11 USA出身ながら、Roy Montgomery や The Dead C といった New Zealand 発の post-rock シーン界隈でよく名前をみかける Loren MazzaCane Conners の新譜が、 Hat Hut Records の新シリーズ hatNoir の第一弾としてリリースされている。 ソロ演奏では、ひしゃげた el. guitar の音が、音数少なくマイナーな旋律を ゆっくりと奏でていくという展開で、このゆっくりとした間合いが緊張感に微妙な ブルース感を加えている。これが実に渋い。Hal Hartley や Jim Jarmusch の 映画の一シーンにぴったりハマりそうな、映像的な音でもある。Hal Hartley は Ned Rifle の名で自分の映画の音楽を演奏しているわけだが、そのギターの響きを 連想させるところもある。 一方で、最後の1曲 (といっても約33分と全収録時間の半分以上) では、2人の el. guitar 奏者 (一人は Sonic Youth の Thurston Moore) を迎え、歪んだ音に よる即興を聴かせてくれる。drums 抜きとはいえ、William Hooker, _Shamballa_, (Knitting Factory Works, KFW151, '93, CD) での T. Moore の演奏を思い 出させてくれる緊張感もある。最近 Sonic Youth が自身のレーベル SYR から リリースしている音とも近い音だが、こちら音の方が遥かに良い。 と、緩いブルースと激しい即興が隣り合うその緊張感が気持ち良いCDだ。お勧め。 さて、このリリースをした hatNoir は、スイスの hat Hut Records が新たに 始めた3つのシリーズの一つ。CDになってから hatART 6000 シリーズとして free jazz / improv. や contemporary classic / new music の CD をリリース してきたのだが、これからは、前者は hatOLOGY、後者は hat[now]ART という シリーズとなる。この hatNoir はそのどちらでもない革新的な音、もしくは spoken word を扱うシリーズという位置づけという。今後のリリースにも期待 したい。ちなみに、財源的な事情から、hatART 6000 シリーズの末期から全ての リリースは限定となっている。この Loren MazzaCane Conners のCDも1,500枚限定だ。 さて、Loren MazzaCane Conners, _A Possible Dawn_ に参加している Thurston Moore のバンド Sonic Youth が、自身のレーベル SYR (Sonic Youth Records の略) からリリースしている一連のリリースも、同様のインストゥルメンタルな曲が 収録されている。今まで3枚のリリースがあり、以下の通り。 Sonic Youth _Anagrama / Improvisation Ajoutee / Tremens / Mieux: De Corrosion_ (SYR, SYR1, '97, CDS) Sonic Youth _Slaapkamers Met Slagroom / Stil / Herinneringen_ (SYR, SYR2, '97, CDS) Sonic Youth / Jim O'Rourke _Invito Al Cielo / Hungara Vivo / Radio-Amatoroj_ (SYR, SYR3, '98, CDS) もやはメジャー Geffin の大物ロックバンドという感もある Sonic Youth だが、 _Option_ 誌 Mar/Apr 1998 号の特集記事でも、"Back To The Grind"、"Gets Back To Basics" というような見出しが付いているように、ある意味で原点に戻った かのような音になっている。 _Index_ 誌 Jan/Feb 1998 号のインタヴューによると、SYR からは、Geffin からの アルバム収録できなかった曲をリリースしているとのこと。レコーディング中には、 歌ができるときも、もっと緩やかな作曲物ができるときもあって、結局たくさん 録音するのだが、アルバムは曲で溢れさせるわけにはいかないため、多くのバンドが 作るようにアルバムを作ると、どうしても歌もの中心になってしまう、という ことらしい。 正直なところ、Geffin 時代の Sonic Youth にはほとんど興味がなくて、ちゃんと 聴いているわけではないが、今のところリリースされた3枚の曲は比較的気に いっている。歪んだ音の中にはっと美しい旋律も聴こえる1枚目が一番良いように 思う。2枚目はもっと激しいノイズに近い音も詰まっているが、そんな中、最後の 曲の歌声がはっとする。Jim O'Rouke との共演名義の3枚目では、管楽器 (おそらく brass) も聴こえるのだが、使い方が中途半端のようにも思う。 個人的には、_Index_ 誌の記事でも触れられている去年の Cooler, NY であった Cecil Taylor と Thurston Moore が共演したライヴ、というのがとても気になる。 ライヴ音源がCD化されると嬉しいのだが。去年に初演された Merce Cunningham Dance Company の _Scenario_ の音楽では、小杉 武久 - Thurston Moore - Jim O'Rourke が共演していたのだが、今年の秋の日本公演でもそれが実現するか、 気になるところでもある。もしくは音だけでもレコード化されないのだろうか。 98/3/29 嶋田 Trout Fishing in Japan 丈裕