The Raincoats _The Kitchen Tapes_ (RIOR USA, RUSCD8283, '98, CD) - 1)No One's Little Girl 2)Balloonacy 3)Oh Oh La La La 4)Only Loved At Night 5)I Saw A Hill 6)Mouth Of A Story 7)The Body 8)Shouting Out Loud 9)Rainstorm 10)Dance Of Hopping Mad 11)Animal Rhapsody 12)Puberty Song 13)No Side To Fall In 14)Honey Mad Woman - Recorded live at The Kitchen, NY, 82/12/12. - Originally released as (ROIR, A120, '83, casette) - Vicky Aspinall (p,vln,vo), Gina Birch (b,g,vo), Ana Da Silva (g,vo), Richard Dudanski (ds,perc), Derek Godard (ds,perc), Paddy O'Connell (b,g,sax), Shirley O'Loughlin (manager) 80年代初頭のイギリスの脱パンクのシーンを駆け抜けた (90年代に再結成して 活動中。) 女性トリオ The Raincoats の82年当時のライブ音源がCD化された。 もともと、当時はカセット・テープ専門のレーベルだった ROIR から'83年に リリースされた音源を、ディジタル・リマスタリングしたもの。 ドラム等はゲスト・ミュージシャンを迎え、女性三人がヴァイオリン、ベース、 ギター、ピアノとった楽器を持ち替えて、ヘタウマ風に歌う、というのが、 このトリオの作風だが。曲調としてはトラッド、もしくはフォークを思わせる ところもあるのだが、ダブ的なリズムや音の処理によって、そして、下手と いうよりもそれによってガヤガヤとした会話調の感じが、ロック的な部分を 脱構築していた。 それでも、再結成以前の最後のアルバム _Moving_ (Rough Trade, ROUGH66, '83, LP) はプロデュースされ過ぎという感もあったと思う。同時期のライヴ であるこの _The Kitchen Tapes_ は、それに比べて音の粗さも演奏の拙さも 目立つものだが、逆にこのバンドの魅力も引き出していると思う。 オープニングの "No One's Little Girl" の「イィーイィー」というコーラスと それに続く「私は誰の"可愛い女の子"でもない。なりたくない。」は、彼女らの 開会宣言としてぴったりだと思う。特に、パーカッションだけを背景に歌われる "Puberty Song" と "No Side To Fall In"、さらに南アフリカ風のギターと ベースが加わっての "Honey Mad Woman" と繋がる最後のメドレーは、 ガヤガヤした楽しい中にも凛とした気分にしてくれるものがある。 もう15年間にわたって何度となく聴いているけれども、"Puberty Song" から "No Side To Fall In" に入っていくところは、ゾクゾクしてしまう。 もちろん、ジャケットにはオリジナルのカセット・テープのジャケットの写真が 用いられ、オリジナルのライナー・ノーツとして付いていた Greil Marcus の エッセー "Disorderly Naturalism" も付いている。 ちなみに、このライヴが収録された、NYの The Kitchen というスペースは、 71年に Rhys Chatham が始めたオルタナティヴ・スペース。Steve Reich や La Monte Young, John Gibson, Musica Elettronica Viva らのライヴが行われて きたスペースなのだが、どういう経緯でこの The Raincoats がここでライヴを したのか、もしくはこの当時は、脱パンク的なバンドのライヴも行われる ようになっていたのか、興味がある。 80年代初頭の脱パンク期において、女性・男女混成バンドがどのようにロックの 自然主義を脱構築していったのか、その一つのドキュメントとしてお勧めしたい。 98/5/12 嶋田 Trout Fishing in Japan 丈裕