Caetano Veloso, Gilberto Gil, Gal Costa, Os Mutantes, etc _Tropicalia 30 Anos_ (PolyGram Brasil, 314-555 609-2, '98, 5CD box set) Tropicalismo 運動から30年を記念するCD5枚組のbox setが出ている。5枚のCDは、 '68年から'69年にかけて Tropicalismo の中から出てきた5枚のアルバムをCD化 したもの (バラ売りもされている) で、20頁のポルトガル語と英語対訳のブック レットが付属している。ちなみに、5枚のアルバムは以下のとおり。 Caetano Veloso, _Caetano Veloso_ (Philips, 838 557-2, '68/'90, CD) Gilberto Gil, _Gilberto Gil_ (Mercury, 518 121-2, '68/?, CD) Gal Costa, _Gal Costa_ (Mercury, 514 992-2, '69/?, CD) Os Mutantes, _Os Mutantes_ (Polydor, 829 498-2, '68/?, CD) _Tropicalia - Ou Panis Et Circenicis_ (Philips, 512 089-2, '68/'93, CD) Maria Bethanha とかも入っていてもよいように思うのだけれど、PolyGram 音源から 外れていたのだろうか。 「1967年から1968年にかけての1年余りしかこの運動は続かず、軍事政権の法令 第5号によって、生みの親 Caetano と Gil は投獄され、国外追放された。 しかし、Tropicalismo は、その後のプラジルのポピュラー音楽の歩みを変えた。」 と、この box set のブックレットにある。しかし、今、この5枚のCDに納められて いる音を聴いても、変な効果音や音処理にしても当時の英米の特に psychederic な rock の影響が強いな、という感もある。楽器音も electric guitar の音が目立つし。 逆に言えば、国際的な音ともいえる。伝統音楽 samba の近代化という意味合いを 持っていた bossa nova、という流れで見ると、まさにその近代主義の前衛が形成 された瞬間なのだなぁ、と思う音でもある。Tropicalismo が単に音楽の運動という だけでなく、文化革命とでもいう色彩を強く持った (そのため、軍事政権に目を つけられるのだが。) のもうなずける。 この5枚のCDの中から1枚といったら、やはり、Tropicalismo のミュージシャンが 一同に会した _Tropicalia - Ou Panis Et Circenicis_ だろう。guitar の カッティングが最高にいいオープニング Gilberto Gil, "Miserere Nobis" や psychedelic な Os Mutantes, "Panis Et Circenisic"、甘い Gal Costa と Caetano Veloso のデュエット "Baby" など、聴きどころも多い。そして、この box set は、この _Tropicalia - Ou Panis Et Circenicis_ の拡大版ともいえる。 僕がこの界隈に注目する契機になったのは、90年前後くらいから David Byrne が 自身のレーベル Fly (現 Luaka Pop) で紹介したり Arto Lindsay が Caetano Veloso や Gal Costa のアルバムを制作したり、ということだった。逆に見れば、 この5枚のCDに収録されて音は、最近の Arto Lindsay の作品の原点ともいえるだろう。 ある程度ブラジルのポピュラー音楽に興味がある人や、Arto Lindsay らの90年代の 活動に興味ある人なら、この界隈の音源は既に抑えているようにも思うけれど、 これから聴こうという人にはお勧めの box set だ。Tropicalismo から30年という これを契機に聴いてみるのも悪くないだろう。 98/5/25 嶋田 Trout Fishing in Japan 丈裕