Bratko Bibic, Lars Hollmer, Maria Kalaniemi, Guy Klucevsek, Otto Lechner _Accordion Tribe_ (Intuition, INT3220-2, '98, CD) - Compiled, Edited and Produced by Lars Hollmer - Recorded 96/5/10-30 through the tour Bratko Bibic (Hohner Tango piano accordion), Lars Hollmer (Zerosette piano accordion, Suzuki melodica), Maria Kalaniemi (Bugari Etnos 5-row free bass botton accordion), Guy Klucevsek (Giulietti Super Continental V piano accordion with 5-row free bass), Otto Lechner (Hohner Lucia piano accordion) accordion だけの ensemble の演奏、というものはそんなに珍しいものでないが、 やたらに濃い accordion 奏者5人による quintet のCD、いったいどんなことに なってしまっているんだろう、という際物的な興味で買ってみたのだが、よい意味で 期待を裏切られた。とってもゆったりリラックスして楽しめる作品だ。 音源は96年に行われた欧州ツアーでのライヴ録音から編集されたもの。ライヴ録音 といっても音はクリアで、演奏を充分に楽しめる音だ。 CDの 後半は quintet による演奏だが、前半は solo や部分編成での演奏に なっている。無調だったりリズム不定だったり不協和音やフリーキー音を 聴かせる演奏は、後半の quintet の演奏にいくつかある程度で、特に前半は ゆったりめのリズムと旋律を持つ曲が中心となっている。ミュージシャンの背景も あるのか、tango や musette っぽい曲少ないし、性急な polka の曲もあまり無い。 3拍子、6拍子の曲が目立つように思う。Maria Kalaniemi の歌入りの solo の trad の曲 "Mita Sina Laitoit" など冷たく凛とした感じもあってカッコいいし、 Lars Hollmer の書く quintet の曲などはそのひょうきんさが魅力だ。 accordion の演奏の可能性を感じさせる、というのとは違うが、accordion の 楽しさを充分に堪能できる一枚だろう。 さて、参加した5人のメンバーについて、軽く紹介しておこう。 制作の Lars Hollmer は70年代に Sweden の Rock In Opposition なバンド Samla Mammas Manna を率いていたことで知られる。80年代以降も Fred Frith など Recommended 界隈のミュージシャンとの共演を続けている。 この5人組の発起人 Guy Klucevsek は The Ain't Nothing But A Polka Band と いうバンドを率いていた、90年頃の US の polka リバイバル (Klucevsek は 参加していないが、Various Artists, _Polka Come To Your Haus!_ (Restless, 7 72352-2, '90, CD) がよい編集盤だろう。) にも近い位置にいたミュージシャン。 Bill Frisell や John Zorn の界隈でもよく見掛ける名前だ。 Bratko Bibic は Slovenia (旧 Yogoslavia) の出身。70年代は Begnagrad と いうバンドを率いていた。(AYAA からアルバムをリリースしている。) その後、 やはり AYAA や RecRec からリリースのある Nimal というバンドで活動している。 Maria Kalaniemi は Finland 出身。trad / folk 系のミュージシャンで、 Aldargaz というバンドを率いており、Green Linnet や Hannibal からアルバムを リリースしている。また、Helsingin Kaksrivisnaiset (Helsinki Melodeon Ladies) という、女性 accordion 奏者ばかりの quintet での活動もしているようだ。 Otto Lechner は Austria 出身。Austria の free jazz / improv 系のレーベル Extraplatte から何枚かリーダー作をリリースしている。 あと、この CD の Guy Kulsevcek によるライナーノーツは、読んでいて面白い。 Lars Hollmer のことを、our resident home recording studio genius (我々の お抱え宅録スタジオ野郎、といったところか。彼の宅録技術がこのCDで生かされて いる。) と呼んだり。「そして、僕らは3週間のツアーをすることになった。 行き先には、オーストリア、スエーデン、フィンランド、スロベニアと、メンバーの 母国を含んでいた。けど、僕の国はその中には無かった (ここで、お涙頂戴風の ヴァイオリンがフェードイン)。」(訳: 嶋田) とか。 さて、この CD をリリースしている Intuition は、Cologne, Germany のレーベル。 ちょっと ECM っぽい jazz や world music のリリースがあるレーベルだが。 今までも、David Friedman (marimba,vibraphone,percussion) と Anthony Cox (acoustic and electric bass) のコンビに accordion をフィーチャーした Dino Saluzzi, Anthony Cox, David Friedman, _Rios_ (Intuition, INT2156-2, '95, CD) と David Friedman, Anthony Cox, Jean-Louis Manitier, _Other Worlds_ (Intuition, INT3210-2, '97, CD) や、Kip Hanrahan 制作で最後の sextet の 演奏を収録した Astor Piazzolla, _57 Minutos Con La Realidad_ (Intuition, INT3079-2, '97, CD) など、素敵な accordion の演奏を楽しめるアルバムを 出してきている。accordion の同時代的な魅力を巧く引き出してきている、 数少ないレーベルかもしれない。 98/6/7 嶋田 Trout Fishing in Japan 丈裕