ドイツの代表的な現代音楽専門のアンサンブル Ensemble Modern の初来日ツアー。 秋吉台音楽祭、東京オペラシティ、水戸芸術館と回る中、東京オペラシティの _20th Century Classics_ と題された二日目を聴きに行ってきた。 Ensemble Modern, _20th Century Classics_ 東京オペラシティコンサートホール, http://www.nttprintec.co.jp/TOCCF/ 98/9/6 15:00- - Ensemble Modern conducted by Peter Eotvos - Wolfgang Rihm, _Gejagte Form_; Gyorgy Ligeti, _Kammerkonzert fuer 13 instrumentalisten_; Karlheinz Stockhausen, _Kontra-Punkte_; Anton von Weben, _Konzert fuer 9 instrumente op.24_; Arnold Schoenberg, _Kammersymphonie Nr.1 op.9_. Gyorgy Ligeti の Kammerkonzert の第三楽章が始まってしばらくして、目の前の 5弦コントラバス奏者が弦をバチンバチンと大きくピチカートしたとき、その音に しびれて、心理的にキレた感じがした。と、最前列の中央少し右手という席で、 その生々しい音を手に取るように聴かれたコンサートだった。 といっても、最初の Rihm の _Gejagte Form_ では、ステージの奥が見渡せない ために打楽器奏者などほとんど見えず、席に失敗したかなと、思ったが。それだけが 理由でないと思うが、一曲目の Rihm の _Gejagte Form_ では、メロディックな 感じにどうも甘さが感じられてのめり込めなかったのだが。ノリが良かったという 噂を聞いていた前日の演奏の方を聴きに行けば良かったかな、とか思いつつ。 そんな違和感を感じながら Ligeti の Kammerkonzert を聴き始めたのだけれど、 第三楽章で、コントラバスのバチンバチンという音に代表されるような、ちょっと minimal music にも共通するような、パルス的な断続音が飛び交う感じによって、 演奏にのめり込めるようになった。 続く Stockhausen の _Kontra-Punkte_ は、音列主義風の展開で旋律っぽさは感じ られないのだが、意外にポリリズミックに感じられて、それが面白かった。三拍子 っぽいリズムが主だったと思うが、いつのまにか四拍子風になってたり。あと、 いつのまにか音色が減っていって、ピアノにフルートが軽く添う感じになり、最後に ピアノだけになって終わる、という終わり方が、格好良かった。 休憩を挟んで、Webern の Konzert は、プッシュホンのトーンを真似るときに言う ピッポッパという口調を想像するような、二〜三の連なる音が飛び交うユーモラス な曲。一応、十二音音楽なのだろうが、いつのまにか聞こえてくるピアノの旋律 らしきものにもはっとさせられるし。 で、最後は、Schoenberg の _Kammersymphonie Nr.1 op.9_。十二音音楽の前の曲で、 Ligeti の後半から Webern までの緊張感 ―それはそれで面白いのだが― から、 一転してリラックスして聴かれる音のような感じを受けた。 アンコールも楽しみしていたのだが、それは無かった。Schoenberg の曲がアンコール の曲っぽい展開でもあったように思うが。それは残念だったが、最後まで聞いて、 いつのまにか、ポストモダン→脱前衛→前衛 (音列主義)→十二音音楽→調性の音楽、 と、ドイツの現代音楽の歴史を逆順にさっと勉強させられてしまった感じもあって、 やられた、と思ってしまった。まあ、アンコールで、さらに過去に溯るわけに いかないだろうし…。 前日の _American Contemporary_ と題されたコンサートでは、Conlon Nancarow、 Steve Reich、Frank Zappa の曲で、ノリにノッた演奏をしたと聞くが、この _20th Century Classics_ は、演目からして、はじめから、そんなことは期待して いなかった。むしろ、特に Ligeti の後半から Webern にかけて感じた緊張感が とても楽しめたコンサートだった。 Ensemble Modern の今回の来日では、music theater の演目がなくて、それが少々 残念だったのだが、今度来日するとき (あるのか?) は、是非、Mauricio Kagel か Heiner Goebbels の music theater piece を演奏して欲しい。 98/9/6 嶋田 Trout Fishing in Japan 丈裕