Ornette Coleman & Prime Time meet Tokyo City Philharmonic Orchestra conducted by Awadagin Pratt, _Skies Of America_ Orchard Hall, Bunkamura, 渋谷, 98/9/12, 18:00- - Ornette Coleman (sax,vln,tp), Ken Wessel (g), Chris Rosenberg (g), Dave Bryant (key), Brad Jones (acoustic b), Al Macdowell (elec. b), Badal Roy (tabla), Denardo Coleman (ds), Awadagin Pratt (cond), Tokyo City Philharmonic Orchestra. 今まで世界で9回しか演奏されたことがなく、完全版としては、97年7月の Lincoln Center での公演に続いて2度目といわれる _Skies Of America_。 The London Symphonie Orchestra との共演で録音した Ornette Coleman, _Skies Of America_ (Columbia, '72) で聴いたことはあるのだが、実際に 観るとまた違うかと、足を運んでみた。 ステージ中央に Ornette Coleman & Prime Time が陣取り、その舞台向かって 左に高音弦、右に低音弦、後ろに管、打楽器、という配置。Prime Time は、 左手前から時計回りに Ornette、tabla, g, elec. b, ds, key, g, acoustic b。 Prime Time の顔ぶれは、_Tone Dialing_ (Harmolodic, '95) と同じだ。 始まって暫く、アルバムでも聴かれるようなちょっと暗めの緩い旋律をオケが ひとしきり演奏した後、パタリと演奏が止まった。そして、おもむろに、 Prime Time が "Theme From A Symphony" を演奏しはじめた。それも、まるで _Dancing In Your Head_ (A&M Horizon, '75) の演奏が無理やり割り込む かのように。以下、オーケストラの演奏と Prime Time の演奏が、交互に 現れるといった感じで展開した。もちろん、Prime Time の演奏中にオケが 鳴るときはあったし、最後の方で Prime Time がソロを回しているときは ずっとオケは鳴っていたが、絡みを見せるというより、お互い勝手に鳴って いるという感じだ。レコードで聴いていたときは、Ornette がソロだったことも あって違和感はそれほど感じられなかったのだが、電化された Prime Time と なったせいか、継ぎ接ぎ感ば強烈に感じられる展開となった。と、「jazz と classic の出会い」の類の言葉が空虚に感じられるほど、奇妙な感じを残して コンサートが終わった。 60年代以降の前衛的な jazz と現代音楽のクロスオーバーの背景には、jazz が 近代芸術化しそれがさらに前衛化されたとき、前衛的な近代芸術である現代音楽 との差違が無くなった、とまでは言わなくでも狭まった、ということがある。 Anthony Braxton の orchestra piece などまさにそういう背景から出てきた 音だろう。しかし、この _Skies Of America_ は違う。「前衛的」な純粋な 音と即興の追求、という意味での演奏ではない。曲から調性や単純なリズムを 排除しようとしたり、即興のからイディオムを排除しようとしたり、そういう ことをしているわけでない。単に、Prime Time とオケを並べただけなのだ。 Ornette Coleman は、そもそも、今までそういった「前衛的」な手法をとって きていない。Ornette Coleman は _The Shape Of Jazz To Come_ (Atlantic, '59) というメルクマール的な作品ゆえ free jazz の始祖と言われるが、その後の jazz の free improvisation に到る道を見ると、Ornette がそれとは異なる道を歩んで 来ているのは明らかである。Ornette は、通俗的な旋律を放棄しなかったし、 フリーキー音すらめったに用いないのだ。その代わり、_Free Jazz_ (Atlantic, '60) では2つの2管4tetを並置し、Prime Time では2つの guitar trio な rhythm section を並置し、_In All Language_ では Prime Time と acoustic な 4tet を並置し、 _Sound Museum_ では piano 4tet の演奏を2つ並置した。そして、この公演での _Skies Of America_ では Prime Time とオケを並置していた。そして、この 並置がつきつける差違が、Ornette の作品から受ける突き放されるような違和感の 源になっていると思う。 Ornette のアルバムでは、その違和感と其々の演奏の生み出す吸引力が絶妙な バランスを保っていて、それが魅力なのだが、このオーチャード・ホールでの 演奏では、後者がいまいち物足りない印象を受けた。座席が二階席になって しまったこともあるのだろうが、Prime Time の演奏の残響の残り方が、どうも classic concert hall 風のそれで、2つの rhythm section の生む混沌とした ビートから鋭さが失われてしまうような感じがしたからが。その結果、そこそこ 興味深いけれども、感動した、というのとは違う煮え切らない印象が残る コンサートになってしまったような気がする。 むしろ、もっと小さ目のオールスタンディングのハコで Prime Time の演奏を 大音響で聴いてみたい、と、そんな気分になってしまったコンサートだった。 98/9/12 嶋田 Trout Fishing in Japan 丈裕